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  火を起こすにはどうすればいいか。それは先程も言ったとおり、最も簡単なのは摩擦だ。乾燥していればなお良い。空気と空気をこすり合わせるだけで火は簡単に生み出せるのだ。人間は雷を応用して、油に着火する「ライター」なるものを使用する。それも摩擦の応用ではあるが、魔法以外で火をおこすことに成功した人間たちの想像力には驚いたものだ。とにかく火を起こすことは簡単で、そこまでの構築は誰にでも(もちろん魔法使いに限る)できる。構築とは脳内で魔法の設計図を作ることを指す。より簡単に言えばどうしてその結果に至るのか、その知識を脳内で展開することだが、問題はその後だ。熟練の魔法使いはその火をより大きくするために空気中の酸素を集める集中させる。爆発的なものならば水素を集めても良い。そうして大きくなった炎をどのように操るのか、ということである。それが魔法、つまりは想像力だ。形を変えることに構築はいらない。魔力によってそれを形成するというわけだ。魔法は構築と想像の二種で発動するもの、もちろんそこに魔力あればこその話だが・・・。

「・・・なんだいそれは・・・」

男は唖然として空を見つめたままだ。さらにはほかの者たちもこちらを見ている。自分はといえば、至福の喜びが体中を満たしていた。ずっと考えていた。もし魔力があれば自分には並大抵以上のことができるはずだ、と。マジェスティにおいては結果がすべて、課程が重視されない世界だ。対してリアリティは真反対だった。課程あればこその結果。ようやく、自分の課程が結果に追いついたのだ。

「どうやってやったんだい??ここでそんなことができる者たちは限られてる、『想像力豊かな者たち』だ。なのに君は平然とやってのけた!まるで魔法使いだ!どうしてだい??」

人間と魔法使いとの違いはたくさんあるが、一つは魔法使いはあまり感情的にならないことである。魔法使いには人間とは別に脳内に魔法をつかさどる部分が存在しており、その部位が感情を司る機関を抑制している。そのために感傷的になることはまずない。だからこのような態度をとられても反応に困るばかりだ。人間は感情的になると次々と質問を繰り返す。何から答えればいいというのか・・・ただ、気になる言葉があった。

「まるで魔法使いといいましたが、あなたは魔法使いではないのですか?」

人間は時として不思議な顔をするが、この男も例外ではない。言葉では表せないような顔だ。根本が違うのだから無理もないが・・・

「いやいやいや待ってくれ!確かにこの世界では僕も魔法使いのようなものさ。でもそれとこれとは違う!!いいかい?この世界は想像すればそれが現実になる世界だが『すべて』じゃない。想像が現実になるのはその想像が『できる』場合に限るんだ。つまり君は自分の手のひらから火が出せると思って出したことになる!そんなことはあり得ないだろう??たっ、例えばキミは空をとぶことなんてできないだろ---」

次に自分が何をしたかはお察しのとおりだ。なにをしたか?男の前で数秒浮いてみせた跡に着地しただけだ。

  浮遊魔法にも様々な方法がある。風に乗る、というのも手ではあるが、例えば体重60kgの男を飛ばすにはそれ相応の風を起こす必要がある上に、その相当量の風を操る必要があるので、それなりの魔法力と応用力が必要だ。衣服を人工的な翼に見立てることも方法の一つだが、そもそも我々にない羽を手足とは別に操作するのも苦労する上に、先ほどの重量の問題もある。重力操作に至っては並大抵の魔法使いの魔法力ではすぐにそこを尽きる。ではどうするか。たいていの魔法使いは磁場を利用する。三属性の一つである雷は空気中から生成できる。そこで得た電力を元に磁場を生成、自身も同じように磁力を纏い、反発する引力と斥力を利用するのだ。今やってみせたのもそれだ。

「でしたらあなたはなぜ何もないところから食べ物を創り出せるのですか?」

男は口を開けて固まったままだった。何も驚くことはないはずだ。先ほどの魔法は創造魔法のはずだ。もしそうでないとすれば光の屈折によって掌にもともとあったケーキを見えないようにしていたのかもしれない。だがどちらにしても魔法であることは確かなのだ。

「すいませんあの---」

「おかしい!!!それはおかしい!僕はシェフなんだ。食材がなくても料理が創り出せるのは不思議だけど、僕はどんな料理でも作ることが『できる』と思っているから創れる。」

急に現実に戻ったかのように、男は話を続けだした。聞いてみると、なるほどこの世界の全容が見えてきた。そしてこれまでの自身の魔法も、全く別物であることが分かってきた。

  これは自分の魔力によるものではない。これまでの説明を振り返るが、魔法行うにはまず構築、その後自身の魔力を引き出す。最後に魔手と呼ばれる目には見えない魔法の触手にて引き出した魔法自身の形状や性質を変化させるわけだ。しかしこの世界の魔法というものは、この世界そのものが人間に魔法を作り出しているだけで個人の能力に必要なのはその人物が『可能と信じているかどうか』だけでいいというわけだ。つまり、・・・ここにいるすべてがただの人間に過ぎないということだ。構築することなしに想像だけで魔法を模倣するとは・・・。

「あ!わかった君はあれだろう?・・・あーマジシャン!そうだろう??それなら納得がいくさ!・・・、いやでもこの前の奴はマジシャンのくせにそんなことはできなかった・・・じゃあ君はーーー」

この人間の男、普通の人間よりもよくしゃべる。人間はいつも遠回りな生き物だとつくづく思う。魔力のあるなしでここまで変わるのだろうか。いちいち言葉を遮ることさえ億劫になる。

「わたしのことはいいんです。INNのことをより詳しく教えていただけますか?」

「・・・わかった。でも後でしっかり説明してもらうからね。いいかいこの場所はーーー」

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