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「イマジネーションネットワーク?」

確認するためにもう一度繰り返したものの、白衣の男の顔は相も変わらずにっこりとしたままだ。ともかくそれがこの場所の名前らしい。気にかかる部分は、この白衣の男の言い分から考えるに、リアリティには別の世界が存在する、ということだ。そんなことはあり得ないはずだ。

「では・・・ここは人間の世界ではないのですか?」

その質問に反応したのか顔にしわの寄った白衣の男を見て、ふと気がついた。この男は人間、のはずだ。でなければ今しがた言った自分の言葉にこのような反応を示すはずはない。この白衣の人間の男にとって世界は一つだし、人間以外の種族は知らないのだ。

「不思議な人だね。君はなにも知らないようだけれど、これはたぶんオンラインのネットゲームの一種だと思うんだ。もちろんぼくも全てを知っているわけではないけれどもね」

丁寧に説明してくれているようだが、残念ながら分かったのは自分が不思議な人だ、という認識を受けたことだけだ。リアリティ側から考えれば自分が『不思議な人』というのはいわば当然なのだが・・・。いや、考えてみればもう一つわかったことがある。この白衣の人間の男は今、『ゲーム』といったのだ。

「そうですか・・・ではこの世界の目的は何ですか?」

リアリティに来て初めて、人間世界には『娯楽』と呼ばれるものがあることを知った。それは例えば人間たちが独自に作り上げた物語を、人間たちが演技し、映像化した『映画』であったり、テレビのなかでは人間が食べ物を食べては感想を言う映像を映したり、2人の人間で会話する中でその状況を見て笑う人間たちを映すものもあった。俗にお笑いと呼ばれるそれは、おそらく人間たちの日々の生活の中で違和感の感じる例をあげているのだろうが魔法使いである私にとってはちんぷんかんぷんだ。10年たった今でも笑う要素が理解できない。そもそも我々魔法使いにとって「必要不可欠でないものをあえて行うこと」以上に無駄なことはない。人間がいかに無駄の多い生き物であるかは言わずもがなである。いずれにしてもその娯楽の例を挙げていくときりがないのだがその中に、登場するキャラクターを操作する『ゲーム』と呼ばれるものがあった。こちらの世界にはたくさんの種類のゲームがあるのは最近わかってきたことだ。あの箱につないで世界を創造したり破壊したり・・・。仮想の世界の中で何か目的を果たすものだとわかった。さて、この白衣の男は『オンラインゲーム』といった。それはつまりコンピュータを通して行うゲームだということだ。となれば、ゲームには必ず達成すべきもの、目的があるはずだ。そして、どのゲームにも必ずしもそれがある。だが返ってきたのは期待はずれの答えだ。

「目的?・・・もう考えるのはやめたさ。それに目的はこの世界じゃ人によってまちまちなんじゃないかな。」

人によってまちまち・・・、それも気になるが今の言葉にはやけに引っかかる部分があった。

「考えることをやめた、ということはつまりどういうことです?」

その質問は何か核心を突いたのか、この白衣の人間の男の顔が曇っていく。

「そうだな・・・なんと言えばいいか・・・、んーまあ端的に言おう。僕たちはここに閉じこめられてしまったんだと思うんだ。」

すぐに思い浮かんだのは古代魔法の一つ、閉次元魔法である。もしそうなら、このレベルの閉次元魔法を行った魔法使いは相当の魔力、それも魔法使い何千人分もの魔力を持っていることになる。そもそも古代魔法自体、ナミの魔法使いが扱える代物ではない上に、もちろんそんなことはマジェスティでもあり得ない事象で、どんなに魔力を持つものであっても1人を、それも数分程度閉じ込めるのが限界である。やはりあり得ないことだ。本当に・・・あり得ないことばかりなのだ。

「つまりここにいる者たちは何かもわからないままこの場所に連れてこられた上にこの世界に幽閉されているのですか?」

「まぁ・・・そうだね。つまりはそういうことになるけど・・・、でも楽観的にとらえているよ。何せこの場所は誰の願いでも叶う場所だからね。」

そう言うとこの白衣の人間の男は再びニッコリと笑いかけた。そういえばこの白衣の人間の男、始めに『想像が現実になる』と言っていた。似たようなことを繰り返している辺り、この世界は人間たちにとって幸せの詰まった世界なのだろうか。気になることは山のようにある。そしてどうやらこの白衣の人間の男は、その答えを持っている。

「叶う、というのは具体的にどういったーーー」

「ああ、見てごらん。」

そういってその白衣の人間の男は手を差しだした。何度も言うが粉まみれのその手に何があるというのかと思っていた、そのときだった。

「!!?」

「どうだい?すごいだろう・・・?」

目を疑うべき光景だ。その掌の上で、何もないところから『ショートケーキ』が創り出されたのだ。驚くべきは何より模倣魔法とは違う、材料のない状態で生まれたのだ。模倣魔法で必要なのは模倣する対象と模倣物に必要な材料である。この白衣の人間の男が隠し持っていたのか?しかしその白衣のどこかにこのケーキを作る分の材料があるとも思えなかった。さらに言えば模倣する別のケーキも存在していない。この白衣の人間、いや人間ではないのだ。この男は魔法使いだった・・・!それも並の魔法使いではない。使った魔法も魔法、あの創造魔法だというのだから。

「ど・・・どうやって・・・?」

「まぁいいから、食べてごらん?おいしいよ」

差し出されたそれはいつかリアリティで見たことがある。

「・・・!・・・おいしい、ですね」

同じく何処からともなく現れたフォークについてはもう何も言うまい。一欠片、口の中に入れた瞬間だ。自分は今までにこれほど美味しいものを食べたことがあるだろうか・・・。そういえばリアリティは化学だけが発展しているだけではない。食文化だ。こちらの食べ物といったらマジェスティとは比べ物にならない美味しさだということ、この食べ物も例外ではない。甘い、なめらかな舌触りにべたつく指。おそらく糖分がふんだんに使われているのだろうが、自分に理解できるレベルではなかった。自分の悩ましげな顔を見てだろうか、男の顔が何やら違う表情へと変わる。

「だろう?これは自分が理想とする最高のショートケーキなんだよっ!甘み、形、堅さに、触感すべてが完璧の代物さ!砂糖の分量やメレンゲの混ぜ具合だってーーー」

男が話しているのを聞くと、どうやらその食べ物についての話のようだ。そういえば人間の特長には『話し出したら止まらない』というものがある。この魔法使い、よっぽど長い間こちらの世界にいたのだろうか・・・、もうまるで人間ではないか。いや・・・まてよ。

「ーーーれでいてこの形状を見たかい?どうやったらこんなにもきれいなーーー」

「お伺いしますがあなたも魔法使いなのですか?」

もちろん、こんな質問は愚問だ。人間に人間か否かを問うことと同じ程に滑稽な質問だ。だが、聞かずに入られなかった。だが、この男にとってはやはり愚問だったようだ。突然男は大声で笑い始めたからだ。

「はーっはっは!やはりキミは面白いね。間違いないよ、この世界じゃ誰もが魔法使いなんだからね」

誰もが魔法使い・・・?つまりこの世界はマジェスティでもない、リアリティでもない新しい魔法使いの世界とでも言っているのだろうか?そんな話は聞いたことも見たこともない、現に今聞いたし見ているわけだがにわかには信じ難い。だが目の前で起きたことは魔法以外説明できないこともまた事実なのだ。ならばこの世界はいったい・・・

「案ずるより生むが靖というじゃないか。君も同じようにやってごらんよ」

言葉の意味も、何をすればいいのかもわからないがこの男、こちらをじっと見てくる。真意はわからないが、どうやら催促しているらしい。

「・・・なにをです?」

「なにって?想像だよ!イメージするんだ自分のできることをさ!なんでもいい例えば今自分が作ったケーキみたいなーーー」

刹那、自分の手のひらから出たのは巨大な炎の固まりだった。見てくれだけではないまごうことなき炎だ。突如顔面に感じる熱風がまさにその証拠。それはまもなく龍のような姿に形を変え、天へと舞い上がっていく・・・。紛れもない。それはあのとき、杖を捨てたあの瞬間に構築、発生させようとした魔法そのものであった。

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