第3話 過去と未来に喜びを
「大丈夫?」
魔王の言葉に俺はふと我に返った。
俺はおばさんに会った次の日、両親の墓に来ていた。
この中で二人とも眠っているとはとても信じられなかった。
おばさんの話によると俺の両親は仕事帰りや時間の合間を見つけては、ビラ配りをして俺を探してくれていたらしい。
警察も捜索をしていてくれたが、五年もたつと次第に捜索規模も縮小していった。
それでも、諦めなかった。
そして、六年が過ぎるころ。
事故が起きたのだ。
信号無視の車がほかの車とぶつかり合い。
歩道に乗り上げ。
俺の両親を轢いたのだ。
すぐに病院に連れていかれたが、即死だったとのこと。
信号無視の車の運転手もシートベルトをしていなく、車から投げ出され地面にたたきつけられ死んだとのことだった。
「俺なんて探してなければ」
「親は子を心配するもの。異世界に召喚されたなんて思いはしなかっただろうけど、何が何でも探し出そうとしてくれてたのね」
魔王の言葉に感情が漏れ出していた。
いつも、部屋で本を読んでばかりだった俺をいつも外に出すと両親は毎年キャンプに連れて行ってくれてた。
「キャンプが嫌いとか言ってごめん」
母さんは嫌いなニンジンを食べれるように、色々と手間をかけてくれた。
「いつも、残してごめん」
父さんは誕生日になるといつも大好きだったチーズケーキを買ってきてくれた。
「俺の誕生日に日に、帰りが遅くなってごめん」
二人にとっていい息子じゃなくてごめん。
迷惑ばかりかけてごめん。
心配かけてごめん。
「どうして、謝れるときに、謝っておけば」
「後悔とはそういうものよ」
「俺はなんて馬鹿だったんだ。もっと、早く帰ってきていれば。賢者なんて言われて喜んでいた俺はなんて」
「しっかりしなさい」
「なんだよ、今は一人にしておいてくれ」
俺は感情任せに言葉を出す。
本当は辛くて、誰かに近くにいてほしくて、たまらなかったのに。
だが、魔王は隣にいた。
いや、いてくれたのだった。
「我の、魔王の力を貸してやると、言っただろ?」
「……。契約か」
「賢者と魔王がいるんだ。案外その言葉を届けられるかもしれんぞ」
「それまで、そばにいてくれるか?」
「契約だからな」
もし一縷の望みでもあるのならと、彼女の手を引いて前を歩きだしたのだった。
~ 一か月後 ~
俺は両親の保険や加害者があからの賠償金をもらって生活を始めていた。
祖父母がいつか俺が返ってくるかもしれないと、取っておいてくれたのだ。
多少は二人に怒られたが、事情を話すと「神隠しか」と諦め交じりに納得するのだった。
「とりあえずは、ここが俺たちの拠点だ」
結局、魔王は二人暮らしを了承してくれた。
「何かあったら責任を取ってくれるのだろう?」とのことだった。
もちろん、何かあれば助けるさ。
「まあ、我の魔王城には見劣りするがな。なんてね」
家を見上げて魔王こと、ジュンは笑っていったのだった。
築二十年の2LDKマンションだ。
家賃はそこそこ安く、その分外から見るとボロボロだった。
両親の残してくれたお金があるんだしもう少しいいとっころを、と魔王に言うとお金は計画的に使った方がいいと止められたのだった。
「とりあえず、新しく買った家具は業者にお願いして入れてもらったけど、片付けとかは」
「大丈夫こっちでやっておく。一人で決めれないときは、また後日やることにしよう。それに、もう時間でしょ?」
「そうだな」
俺はさっそく就職したのだった。
見た目は十八歳だが、戸籍上は三十六歳だ。
働きもせずに親の金で生きていくなんてしたくなかった。
「頑張らないとな」
「私も頑張って魔法を研究するから」
「頼むよ」
ジュンは蘇生魔法や時間逆行魔法についていろいろと調べてくれることになった。
ついでに家事も行ってくれるとのこどたった。
ジュンにはたくさん支えてもらってる。
最近は彼女が魔王だということを忘れてしまうほどだった。
「じゃあ、悪いけど仕事に行ってくるな」
「行ってらっしゃい」
いつもは母さんが言ってくれていた言葉だった。
でも、その言葉がとてもうれしかった。
俺は最初は工場などで働こうとも思ったが、面白い求人を見つけてそれに応募したのだ。
それが、今日から働くことになった会社。
「ここが、スパローハーク探偵事務所」
俺は今日から探偵として働くのだ。
事務所に入ると、受付の女性がここで待つように言われた。
そして、数分もすると目の下にクマのできた女性が疲れた顔でやってきたのだった。
「大野木 勉です。よろしくお願いします」
「よろしくね。とりあえず、はい」
女性は自己紹介もせずに一枚の猫の写真とファイルを渡してきた。
「この子探してきてね」
「……はい」
「じゃあ、よろしく」
さて、これをどうとるべきか?
もともとブラックな会社で、新人育成を行わないのか。
それとも俺の実力を測っているのか。
はたまた、替えにきく研修期間中の仮採用職員に面倒ごとを押し付けているのか。
「まあ、とりあえず、探してしまうか」
腐っても賢者である。
猫を探すのなんてお手の物だ。
〈サーチ〉の魔法を発動する。
半径二、三キロくらいが限界なので、やはり足を使ことになるのだが、それでも普通に探すよりは簡単である。
「まあ、この辺にはいないよな」
ファイルの情報によると東京都内の家から脱走。
その後三日間行方不明。
特徴は雄の三毛猫で、赤い首輪をしている。
保健所等にも連絡しているが発見に至らず。
「ふてぶてしい顔の猫だな」
これなら、発見すればすぐに見分けがつくな。
とりあえず、人がいないところで、〈ワープ〉の魔法を使う。
そして、迷い猫のご自宅近くまで来る。
〈サーチ〉発動!
「引っかからないか」
〈ワープ〉と〈サーチ〉を繰り返して、四回目。
以来の迷い猫を見つけたのだった。
その猫は汚れていたが、ふてぶてしい顔は写真そのままだった。
「さて、連れ帰るか」
フシュー
引っ掻かれるのも嫌だなあ。
〈キャプチャー〉発動!
自分より弱い生き物を捕獲する魔法だ。
光の糸が猫を縛り、動けなくなった状態で連れ帰るのだった。
俺に猫の写真を渡してきた上司は写真とにらめっこしていたのだった。
「捕まえてきました」
「なにを?」
「え? さっき言われた猫を」
「いや、いやいやいや。嘘はだめだよ。一時間やそこらで見つかる案件じゃないし」
「でも、はい」
猫を見せるとその上司は不気味に笑った。
「なら、これもよろしく」
俺の目の前に置かれたのは段ボールに入れられたたくさんのファイルだった。
よく見ると、すべてが猫や犬、鳥の捜索依頼だった。
「じゃあ、お願いね」
「この猫は?」
「ファイルに依頼主の住所あるでしょ。ついでに返してきて」
なんとも嫌な上司である。
でも、会社とは縦社会だって誰かが言っていたような気がする。
ここは逆らわずに上司の指示に従うのだった。
そして、半分の依頼を終わらせるころには日も暮れていたのだった。
「終業時間だな。それじゃあ帰ります」
「はい、さようなら」
上司は顔も見合さずにそういったのだった。
「ただいま」
俺は家の玄関をくぐる。
「おかえりなさい」
エプロンをつけたジュンが出迎えてくれた。
魔王がこんなことしてていいのか、とも思ったが。
こんな生活も悪くはないと思ってしまう馬鹿な俺もいるのだった。
馬鹿と賢者は紙一重 矢石 九九華 @yaisikukuka
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