食いしん坊のリコちゃん

れなれな(水木レナ)

食いしん坊のリコちゃん

 気持ちのいいお天気でした。

 リコちゃんは、七歳の女の子。

 大の食いしん坊で有名です。

 その日はハイキングに行くので、お弁当にミルクの味のするドーナッツと、レモネードを持ってでかけました。

 見晴らしのいい丘で、せいだいな結婚式が行われています。

 リコちゃんは山の中腹からそれを見て、とっとことことことーっと会場にやってきました。

「おいしそうなウェディングケーキ。食べたい。」

 おや? お花の入ったバスケットを手に持った三歳くらいの女の子が泣いています。

「どうしたんだ、どうしたんだ。」

 参列者の子供たちが集まってきて見物しました。

 ウェディングケーキのほうがおいしそうなので、リコちゃんはドーナッツをとりだして、女の子にあげました。

 女の子はぐすんぐすんといって、ドーナッツを食べながら泣きます。

「ママがいないの……。ケーキをあげるから、道にお花をまいてねって言って、どこかへいっちゃったの。」

「ええっ、ケーキが食べられるの? そんじゃあ、ママをさがしにいこう?」

 リコちゃんが女の子の手をつなぐと、女の子は泣くのをやめてついてきました。

 リコちゃんは知りませんでしたが、その女の子はフラワーガールとして、会場を飾るのがお仕事。

 花嫁さんの道を花びらでいっぱいにするのが役目でした。

「ケーキ。ケーキ。」

 お友達みんなして、会場をさがしまわりました。

 丘の上に結婚を誓う目印として、即席のあずまやがあり、そこに白いレースのリボンがまいてあります。

 リコちゃんはバスケットの赤やピンクの花びらを、盛大にまきながら道をつくりました。

 女の子もバスケットを持ってついてきます。

「あっ、ママ!」

 突然、パッとバスケットから手を離すと、女の子は列でカメラを構えた女の人のところへ走っていってしまいました。

「これが終わったらね、ケーキは後よ。」

 女の子のママは、泣いている女の子をなだめ、せきたてました。

「えっ、ケーキはまだ食べられないの?」

 リコちゃんは、いそいでケーキのあるところへ行きました。

 でも、飾られていたケーキは偽物で、本物は箱に詰められて、参列者に配られることになっていました。

「そんなぁ……。」

 女の子が泣いています。

 リコちゃんもおなかがペコペコ。

「おなかがすいたよおー。わーんっ。」

 そのとき、花嫁さんが幸せそうな笑顔で通りました。

 リコちゃんたちのまいた花びらの上を軽やかに進んで丘の上に立ちます。

 ケーキを配る姿はとても華やいでいました。

「ありがとう、おねえちゃん。」

 女の子がママと一緒にお礼を言いに来ました。

「ママを見つけたのは、私じゃないわ。」

「おいしいおかしをくれて、なぐさめてくれたでしょ。」

 そんなことでお礼を言われるなんて、リコちゃんはびっくりしました。

「お礼だったら、ケーキが食べたかったのに。」

 お家に帰って、夕方ごはんを食べて、お風呂に入って、眠るまで、リコちゃんは今日の事を忘れることができませんでした。

 なんだか胸のあたりがふわふわとして、ほんわりあったか、甘い気持ちがします。

「花嫁さん、うれしそうだったな。」

 ケーキの箱を配る姿しか憶えていません。

 次の日、女の子がパパママと一緒に、リコちゃんをたずねてきました。

「昨日は、ありがとう。これはお礼です。」

 大きなケーキにうれしくなったリコちゃんは、こう言いました。

「これからレモネードを飲むのね。だから、いっそパーティにしちゃおう。お友達をよぶから待っていてね。」

「まあ! おまねきありがとう。」

「みんなに喜んでもらえた方が、うれしい気持ちがするってわかったから。」

 リコちゃんはにっこにこ! さあ、パーティのはじまりです。

「ありがとう、おねえちゃん。とってもうれしい!」

「それにしてもケーキが食べたかったの!」

 みんなごきげんに過ごしましたとさ。

-了-

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