第29話 エピローグ
「いってきま~す!」
「いってらっしゃい、そうちゃん!」
俺はばあちゃんに見送られながら玄関を飛び出すと、学校へと急いだ。
『なんだ、そーたろー。今日はやけに急いでるな』
『全く、誰のせいで遅刻しそうになってると思ってるんだよ! お前が俺の朝の支度を邪魔ばっかしてきたせいで、こんな目に合ってるんだろ!』
『だって! そーたろー、最近俺様が話しかけても全然かまってくれねぇんだもん!』
『しかたないだろ、もうすぐテストなんだから! 俺はテスト勉強で忙しいんだよ!』
俺はいつものように隣で浮かんでいる燐牙と、心の中で会話をしながら学校への道を急いだ。
俺たちが富嶽を倒したあの日、俺たちが御白様に告げた答えは「望まない」だった。
たしかに、俺は今まで妖の類が見える自分の体質がたまらなく嫌だった。
でも、今は違う。今は、こいつらがいるから、こういう体質があってもいいかなと思えるようになった。
燐牙もなんやかんやで俺だけじゃなくて、御白様、そして弓弦と千弦のことも気に入っているらしく、今ではあの双子とも仲良くやっている。最初は燐牙に当たりのキツかった弓弦も、彼が富嶽に操られていただけだったのだとわかると、前より燐牙に対する態度が柔らかくなった。まぁ、それでもお互いしょっちゅう喧嘩はしているみたいだけど。
そんなわけで、俺の陰陽師修行はあの日から二か月経った今でも続いている。
御白様によると、富嶽は消えたものの、いつ同じような妖が現れるかわからないから鍛えておいても損はないとのことだ。全く、またあんな化け物と同じような妖が現れるなんて、絶対に起こってほしくない出来事ナンバーワンなんだけど。
でも、陰陽師修行をしていれば、必然的に御白様たちにも会えるし、不思議な技も使えるようになるから、最近は結構楽しんでやっているんだ。
『なぁ、そーたろー! また俺の話聞いてなかっただろ!』
『え⁉ ごめん、お前、俺に話しかけてた?』
『さっきから何回も名前呼んでるっての!』
『え、ごめん! それは俺が悪かったよ』
俺は燐牙に謝りながら、昇降口で靴を履き替える。
そして、つい学校のグラウンドの方を向いた。
二か月前、俺たちはあそこであの化け物を倒したんだなぁ…。
今は朝練で運動部に使用されている平和なグラウンドを見ていると、俺たちの戦いなんてなかったことみたいに思えてくる。でも、全部本当のことだったんだ。
『そーたろー、あのさ』
俺は燐牙に名前を呼ばれたので振り返った。
『なに?』
『実は、さっき何回も名前を呼んだっていうのは、嘘でしたー!』
『はぁ、なんだそりゃ。お前、そんなしょうもない嘘つくなよ』
『なっ! しょうもない嘘とはなんだよっ! くそ~、俺様はもっと、そーたろーが悔しがる顔が見たかったのに~! こうなったら、奥の手だ!』
燐牙はぶすっとした顔で文句を垂れた後、何かを思いついたように顔を輝かせた。
そして、俺の髪の毛をつかんで上に持ち上げ始めた。
ぎゃー、何やってんだお前! そんなことしたら、勝手に髪の毛が立ち上がってるなんていう、地味に怖い怪奇現象みたいになっちゃうだろ!
『やめろよ燐牙!』
『ははは! 今のそーたろーの顔がおもしろいからやめな~い!』
こいつ! やっぱめんどくせぇ!
俺は燐牙の尻尾をバシンと叩いた。
まぁ、今ではもう、こういう日々も割と楽しいと思えるようになった。
だから、どうかできる限り平和な日が続きますように。
俺はそんなことをつい心の中で思ってはっとした。
いやいやいや、俺の身近に神様いるじゃん!
ということで御白様、できることなら燐牙がもう少しおとなしくなったバージョンの平和な日々をどうか俺にください。
前は願い事断っちゃったけど、今回はちゃんとそう望んでるから!
だからほんと、お願いしますよ御白様!
俺はまだ髪の毛を引っ張ろうとする燐牙を止めながら、そんなことを思った。
(了)
突然陰陽師になることになりまして。 @umaneko1717
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。突然陰陽師になることになりまして。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます