咆哮:ハルSIDE

下駄箱でせわしなく上履きに履き替え、階段を上り教室に入り自分の席で突っ伏して息を整える。

 思わず、逃げてしまった。だってあんな剣幕であんなこと言われたら誰だって動揺するに決まっている。


「ううう」

 

 心臓の早鐘が鳴りやまない。走ったからだ。絶対そうだ。断じて日食のせいじゃない。


 突っ伏してなにもしないでいると、彼の叫びを思い出してしまう。

 今まで、あれだけの言葉で、あれだけの熱量で、好意を伝えられたことがあったかな。

 

 たぶんない。告白されたことは何度かあったけど。

 最近は上井に。

 フる以前の上井は私のことを良く褒めてくれた。容姿とか、趣味とか、性格とか。

 露骨だったから付き合いたいという魂胆は丸見えだったが、別に嫌悪感のようなものはなかった。だから気づかないフリをしていた。

 

 それでいいじゃん。それ以上求める必要がどこにあるんだろう。温かいからといってストーブに手を伸ばしたら大変だ。

 適温。それをキープしたい。だって、そっちの方が心地良いし、幸せだろう。

 ただ上井はそうじゃなかったみたいで。

 だから彼はあたしにそれ以上を望んで、そしてあたしは拒んだ。

  

 じゃあなんで日食はいいんだ。


『だからもし本当に申し訳ないって思ってるなら、3か月付き合ってくれないか』


 彼はそう言って私は了承した。だが、贖罪のために付き合うことを決めたわけじゃない。

 勢いに呑まれた。それもある。

 でも一番はやっぱり……。

 

「あ~~……」


 嬉しくないわけないなんて言われたら、嬉しいに決まっている。

 それがほぼ初対面でも。

 

 そこで気付く。

 そっか、交流がなかったからだ。

 上井と付き合えなかった理由。それはもうすでに仲良かったから。あたしは適温じゃなくなるのが怖いのだ。

 対して日食。あたしは日食という人間を知らない。彼の温度を知らない。

 だから付き合うことを受け入れらた。

 

 うん、そういうことにしておこう。

 まだ少し速い胸に手を置いて思う。

 本当に、後悔させてほしいものだ。はっはっは。

 

 

 

 

【ついでに鎖理SIDE】

 バカにーのことが気になって後ろからつけてみた。

 ボクの思案は杞憂だったようだ。

 だがバカにーにガサツって言われた。


 …………。

 

 今日は早退してFEをすることにした。ガサツなボクは間違えてバカのセーブデータに上書きしてしまうだろう。

 

  

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陰キャの逆襲~女子3人と付き合うことになったので全員幸せにしてみせます~ @ika366

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