第五話

「んん・・・もう朝か・・・」


 カーテンの隙間から覗き込んでくる太陽の光を浴びて目を覚ます。

 昨日は無駄に疲れてしまったせいか、寝覚めがいつもよりも少し悪い。


(あー、もうちょっとだけ寝てたいなー・・・。けど朝と昼のご飯を作らきゃだし、起きないといけないんだよなー・・・。

 いや、いつも起きるの早い気がするしちょっとだけ寝てもいいかな)


 そう思って仰向けの状況から横になろうと寝返りを打つと、こちらに気持ちよさそうな顔を向けて寝ている時雨がいた。


(キャ、キャワイィィィーーーー!

 あーやばいぞ、これ!軽く握られた両手を胸の前に持ってきていて、尚且つ少し下を向いているという可愛さっ!

 もし今、時雨が目を覚ましたら?

 上目遣いでこちらを向いてくるという破壊力抜群な構図にぃ!こんなの目覚まし時計よりも目が覚めますわ!・・・ごほん。

 少々取り乱してしまったが、これなら起きれるな)


 オーバーヒートしかけた脳を正常運転に戻し、体を伸ばしながらベットから起こす。

 そして一階にある洗面所で顔を洗いリビングに向かうと、案の定誰もいなかった。


(なんで毎日五時半起きしてるんだろう・・・。ていうか、いつからこんな早起きになったんだっけ?)


 全く思い当たる節がなくて怖い。怖すぎる。

 怖すぎて妖怪『物忘れ』にでも憑りつかれたのかと思ってしまう。ただのボケだろうけど。

 真面目に考えてみるも全く分からず、とりあえずお米を研いでいると、トタトタと軽やかな足音が階段の方から聞こえてきた。


「お兄おはよう」


「おはよう万結。今日も徹夜か?」


「一応寝たけど十五分だけだから実質徹夜。これで三日連続」


 眠そうに目を細めながら指を三本立てて教えてくれる万結。

 何も知らない人が聞いたら『ブラック企業にでも入ってんのか?』って聞かれそうだが、実際は引きこもってゲームばっかりしている。

 なんでも今回のイベントはランキング報酬が豪華のようで気合いを入れてるらしく、目標は五位以内だそうだ。


「寝不足で体を壊すなよ。看病するの俺なんだから」


「それは大丈夫。もう順位動かないぐらい差つけたから今日からはしっかり寝る」


 何のゲームをしているのか知らないが、ランキングの順位が動かないぐらい差をつけるのは凄いことだ。

 通常、ゲームには一定数のガチな人たちが存在し、それを出し抜かない限りはランキング上位に入ることは難しい。

 それにそのイベントのためだけに本気になる人だって少なからずいるため、その人たちに対して圧倒的な差をつけるなんて我が妹ながら凄いやつである。

 その後の会話は特になく、お弁当のレンチンおかずたちを盛り付け終えるとまた一人降りてきた。


「お兄ちゃんおはよう・・・」


「おはよう麻奈」


 眠そうな目を擦りながら降りてきたのは麻奈だ。

 麻奈は万結と違い部活の朝練や朝ごはんの手伝いでいつも早く起きている。

 本来は朝ごはんも俺一人でやるものなのだが、『お兄ちゃん一人に家事をやらせるわけにはいかないよ』と言われたので、仕方なく手伝ってもらっているのだ。

 ですが毎日のように眠たそうにしているのはお兄ちゃん心配です。


「お姉ちゃん今日は早いね・・・」


「今日は暇だから降りてきた。麻奈こそ眠いなら寝てればいいのに」


「ねむくないから・・・ねみゅく・・・」


 呂律のまわっていない声を聞くだけでも眠いのは分かるのに、なぜ認めないのかがいまいち分からない。

 そんな麻奈の世話を万結に任せて盛り付けへと入る。洗面所から誰かの咳き込む声が聞こえた気がするが、たぶん気のせいだろう。


「手伝うよ・・・」


「お、おう。無理すんなよ」


 しっかり目を覚ましてはいるが、今度は疲れた顔を浮かべている。

 犯人はソファーからサムズアップを見せてくる万結で間違いない。自己主張してくれてるし。

 朝ごはんを協力して作り終え、そのタイミングで制服姿の乃愛が家にやってくる。


「おおー、今日は和食ですか」


 今日は久方ぶりに和食を作ってみたのだ。

 普段ならパンやスクランブルエッグ等々の洋食なのだが、今日はパンが無くなっていたので急遽和食へと変更した。

 炊き立てご飯に卵焼き、キャベツの和え物、ワカメのみそ汁、鮭の塩焼きとそこまで凝った物を作っていない。


「ちなみに納豆もあるから是非とも食べてくれ」


 それを聞いた三人があからさまに嫌そうな顔をする。


「体にいい物なんだから食べていただきたいんだが」


「なんであんなネバネバを・・・!」


「あれは体に毒」


「納豆じゃなくて豆腐でもいいんじゃないかな?同じ豆製品だし」


 ごめんよ、納豆くん。君は我が家で嫌われているようだ。

 三人には納豆の代わりに豆腐を加え、今日の朝ごはんは完成である。

 朝ごはんにしては早いかもしれないが、全員が席に着く。


「それでは」


「「「「いただきます」」」」


 俺たちは特に喋ることがなく、ニュース番組を見ながら黙々と箸を進めている。

 何故か分からないが、朝ごはんのときは話してはいけないという暗黙のルールがあるようで、この前独り言を呟いたらものすごく睨まれた。

 そんな異様な朝ごはんを終えて、再度キッチンに立って時雨の朝ごはんを作る。

 こちらは白ご飯にみそ汁とすぐに用意出来るものと、ウィンナーと目玉焼きの簡単二品だけなのでそこまで時間は掛からなかった。

  その後着換えを済ませ、時雨を起こして洗濯と食器洗いを終え、家事を一通り終わらせてから乃愛と一緒に家を出た。

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今日も彼女は教室にいる(仮題) ラエティア @kazusupra

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