03
天候 晴れ
念のためメイリアがいたと言う村へ行くことにした。もしかすれば追い出されたのではなく、実は親が厳しめに叱っただけなのではという淡い期待を抱いて向かったのだが、投げかけられたのは強い拒絶の言葉だった。
「あの魔物の話をしないで! もう思い出したくも無いわ!」
それは彼女の母親だった。森へ捨てた、という事実が確認できた。
メイリアの名を上げた途端、村全体からこちらへ敵意が向けられたのを感じた。村全体が彼女を魔物と認識していたということだろう。そうなれば両親は迫害を逃れるため、彼女を森へ……両親はかなり追い詰められていたように見えた。
「お母さんいた? お父さんはまだお仕事だよね、妹もお昼寝中だから……」
ここまで来て会えなかったと言うのに、木陰で待っていたメイリアは変わらず笑顔だった。やはり、事情は全て知っているのだろう。
ふと彼女は空中に向かって宣言した。
「……ううん。だって、皆がいつもいてくれるから、大丈夫」
相手は妖精だったのだろう。彼女を囲んでいた魔力がより一層強くなった。
天候 快晴
今朝起きたらメイリアがいなかった。
かと思いきや、すぐに彼女は戻ってきた。手に白猫を抱えて。
「わ……私じゃないよ? か、風の妖精が拾ってきたんだもん」
ずっと家の前庭に居たと彼女は弁解していたが、靴に着いていた葉はどう考えても森に生えている木のものであった。流石に森は魔物も出るだろうから、と注意をした。が、途中で来た秘書に甘いと言われた。
「だ、だって……一人ぼっちじゃ寂しいよ」
「拾ってきた理由を聞いているわけでは……いや、もういいです」
昨日村へ行ったのを知っていたのだろうか。今日の秘書は様子が違った。
「ゼロー! 見て見て、猫!」
「ちっ、近づけるな! 俺は動物は嫌いなんだ!」
白猫を持ち上げて走るメイリアからゼロは逃げだした。
「大丈夫だよ?……噛まないよ?」
「……ほ、本当か?」
確認するようにゼロがこちらを見てきたので、頷いておいた。実際あの猫はまだ子猫だから、流石に歯は生えているとは思うが噛まれてもそう痛くは無いだろう。
「名前何にしよっか……よし、白いから、シロ!」
「絶望的なネーミングセンスだな……て、その名前」
猫の名前はシロになった。
「……皆様、これを」
ふと秘書に声を掛けられ振り向いてみると、その手には一枚の細い紙。
二人は猫を抱えたまま秘書の方へと駆け寄った。
「……ゆきまつり?」
「毎年この時期に北の国で開催されるイベント、これはそのチケットです」
二人の顔がぱっと明るくなった。
「本日は業務も詰まっておりませんから……皆様で、どうかと」
しかしチケットは一枚、と思い確認してみると一枚で四人まで入場可能と書かれていた。四人、となれば自分含めて丁度その場に居る全員が行けた。
「じゃっ、行こう!」
メイリアの声と共に急出発することとなった。着いてから聞いてみると、これは転移の妖精に頼んだとのこと。屋敷に残ろうとしていたような気がする秘書を説得する手間が省けたのでいいとは思ったが、急な温度変化に思わず火炎魔法を放ってしまった。
「二人のこと言えないじゃないですか……本当、変わりませんね」
呆れ顔で秘書からそう言われたが、威力は前より上がっていた。
雪まつりに関しては特筆すべきことは無かった。
メイリアとゼロは巨大な雪の城に釘付けであったが、それよりも生物をかたどった雪像に蘇生をかけたらどうなるのかが大変気になる一日であった。
「そせい?……ううん、そんな子いないって」
メイリアに聞いてみた所、属性の無い禁術に妖精はいないらしい。
二人は猫を連れてベッドへ入った。ゼロは一昨日まで床で寝ていたが、昨日からベッドに入ってくれるようになった。ただ、猫を連れ込むのはシーツに穴が開かないか少々心配だ。
「……私ね、大人になったらやさしいお母さんになるんだ」
メイリアが空中に向けて呟いていた。それは妖精に宛ててなのか。
「……俺も。いい父親になる」
隣でゼロが呟いていた。この後二人は三秒も経たないうちに寝てしまった。雪まつりで疲れたのだろうか。
結局今日は行けなかったが、三人は優しいので今日くらいは許してもらえるだろうと思う。三人、という表記が正しいのかは定かではないが。
バスケットと財布を手にレンガの道を歩く母。どこからか聞こえてくる歌に合わせ口ずさんでいると、人ごみの中に子牛の姿が。
「あっ、卵の人いた!」
子牛を囲む人々の中に入っていき、ふと違和感に気が付く。
「あれ、この感覚……なんか、懐かしいような」
卵を売る男の隣に座っていた七歳ほどの少女に目をやる。
母は目をじっと凝らし、
あっと声を漏らした。
「風の妖精!」
群衆の視線が母に集中したことは言うまでもない。
番外編 今日は森で子供を二人拾った 完
伝説の勇者だから魔王と平和交渉することにした 伊藤 黒犬 @itokuroinu
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