02
天候 雨
今日は昨日に引き続き雨天だったが、契約してしまった以上本屋に向かうことにした。魔導書を取ろうとしたら秘書から全面否定されたので、彼女の提案で少年漫画と少女漫画を一冊ずつ買うことにした。
早速、買ってきた漫画を二人に手渡してみた。少々雨に濡れてしまったが二人からはそこに関して何も言われなかった。
「……ねえゼロ、それちょっと見せて」
しかし早々にメイリアは漫画を投げ出してゼロが読んでいるのを横から覗き込みだした。漫画に集中しているせいかゼロは拒否反応を示さない。
後から秘書に聞いた話だと、あの少女漫画はごく一般的な男女の恋愛を描いた物語だったという。結局メイリアが読むことは無かったが、拾って読んだ秘書は二巻を買うと言っていた。
「あの子達は趣味が合うのかもしれませんね」
漫画を読みながら秘書も言っていたが、昨日のドラゴンにせよ漫画にせよ、どうもメイリアの趣味は少年寄りらしい。
「あっ、まだそのページ読んでない」
「お前が読むの遅いんだろ」
この三日で二人はすっかり仲が良くなったように見えた。ゼロがメイリアに対して刺々しいのは相変わらずだったが、段々その言葉の中に親しみが現れているようにも思えた。
「この主人公かっこいいよね、私もこんな風に剣振り回してみたいよ」
その発言は何となく行く末が不安になった。
「……そうか?」
だがゼロはメイリアの発言に対し、どうも納得がいかない様子だった。
天候 雨
ここ三日雨天が続いている。
「大魔法使い様、お二人はどうさなされたのですか?」
秘書に言われて振り返ってみると、先ほどまでそこで漫画の続きを読んでいたはずの二人がいなくなっていた。
慌てて外へ出てみると、屋敷の裏でゼロがうずくまっていた。
「お父さん、ゼロが泣いてる」
心配そうにメイリアが顔を上げた。二人とも既に全身が雨に濡れていた。
このままでは風邪を引くだろうと思い、ゼロの手を取ろうとするもはねのけられた。力づくで連れて帰るべきだったのだろうか。
「ゼロ、おうち帰ろう」
「俺に家なんか無い」
拒否し続けるゼロをメイリアは不安げに見ていたが、ふと思いついたようにゼロの頭を撫でだした。
「ゼロ、いい子いい子」
「いい子なわけ無いだろ!」
だがその手もはねのけられた。力加減はしたらしく、メイリアは僅かによろけただけで後ろに転びはしなかった。
「これ以上構うな。俺は一人でも生きていける」
ゼロのそれが強がりであることは明白だったが、過干渉というのは良くないと先日読んだ本に書かれていた。また、もし彼が出て行きたいと言うならここに無理やり置いておくのは彼にとって不快でしかないだろう。
そう思い、メイリアを連れて一度屋敷へ戻ることにしたが、その後ゼロが戻ってきたのは雨が止んだ夕方過ぎだった。
天候 快晴
久々に空が良く晴れていたが、今日外へ出ることは無かった。
案の定ゼロは風邪を引いた。一日中熱が引かずに寝込んでいたが、その間メイリアはずっとベッドの傍でゼロを見ていた。妖精に頼んだのかベッドの周りは常に高濃度な魔力で包まれていた。今日、メイリアは一度も遊んでいなかった。
秘書から叱られたが、外出禁止になることは無かった。しかし今日は行くのを数年ぶりに休むことにした。明日行けたら謝らなければ。
天候 曇り
ゼロは治ったが、今度はメイリアが風邪を引いた。きっと一日中ベッドの傍にいたために風邪がうつったのだろう。しかし看病しようとしたら
「病人は大人しく寝ててください。悪化したら明日も行けなくなりますよ」
と、秘書に止められたので今日は大人しく寝ていることにした。
ベッドに入ってもなかなか寝付けず、まだ読み切れていなかった魔導書でも読もうと思っていた所、ゼロが扉を開けてこちらを覗いているのに気が付いた。
どうしたのかと聞いてみると、
「……入っていいか」
かみ合わない返事が返ってきた。
ゼロも病み上がりだから入れないほうが良いかとも思ったが、そう伝えたら想像以上に落ち込んでいたので入れることにした。
そしてしばらく沈黙が続いた。
「……ごめんなさい」
やっと口を開いたゼロの一言目がこれだった。
「俺のせいで……二人に風邪を引かせた」
正直、そんなことを、と言いかけた。しかしそうなると余計に何故この部屋に来たのかと疑問に思えてきた。が、これを聞くのはどうもはばかられたので、代わりにずっと気になっていたことを、
「そこまで落ち込まないでください。寝れば治ります」
聞こうと思ったが、やめた。
たとえ聞いたところで何かが変わる訳では無い。ならば無用なことはしない方がいいだろう。今はそれが最善策だ。
「……爺さん、敬語禁止だろ」
これに関してはすっかり失念していた。
「あれ……ゼロ、メイリアの話聞いてたのですか」
「なっ、あ、あいつの話なんか聞くわけないだろ。俺が今考えたんだ」
着実に何かが動き出している。それが妙に嬉しく感じられた。
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