番外編 今日は森で子供を二人拾った
01
半開きの棚にしまわれたノートにケシィが目を付けた。
ノートを棚から引っ張り出して表紙をめくってみる。
「何かしら。これ」
「え、か……勝手に見ない方が」
言いつつセルも横からノートを覗き込む。
「結局貴方も見てるじゃない……」
ケシィは呆れているというよりは笑みを浮かべていた。
「つ、つい……研究内容とか書いてないかなって……」
気まずそうに弁解するセルを横目に、ケシィはノートのページをめくった。
天候 晴れ
今日は今日は森で子供を二人拾った。
片方が妖精が見えると言っていたので、一度病院に連れて行くことにした。
「……え」
ノートを見ていた二人は同時に声を漏らして、顔を見合わせた。
そして再びノートに目を戻す。
番外編 今日は森で子供を二人拾った
よく調べてみたら千年に一度ほど、妖精が見える個体が発生するらしい。
「ね! 分かったでしょ、私ちゃんと人間なんだよっ」
屋敷で話を聞いてみると、彼女はその体質故に村を追い出されたのだとか。年はまだ七歳程に見えるが、確かに彼女の周囲からは異様に強力な魔力が感じられる。
一緒にいたこの少年とはきょうだいなのかと聞いてみた所
「こんなコウモリ女と一緒にすんな」
「まっ、私のどこがコウモリだっていうの」
「その声」
どうも彼らの相性はそこまで良く無さそうだ。
「ねえねえおじちゃん、私の名前聞かないの?」
ただ彼女の方は短気では無さそうだから、一つ屋根の下で暮らせないことは無いだろう。しかし彼女、追い出されたとはいえ名前はあったらしい。
「私メイリアって言うんだ。ね、君は?」
「名前なんか無い」
彼は森で拾った時手に果物を持っていたが、それは近くの村から盗んできたものだったと言う。思うに家庭環境はそういいものでは無かったのだろう。
「じゃあ私が決める! えっとね……髪が白いから、シロ!」
「犬か!……俺はゼロだ」
彼はゼロと言うらしい。正直一文字違いならシロでもいいのではと思う。
「で、おじちゃんは?」
彼女、改めメイリアは目を輝かせてこちらを見ていたが、名乗る名前が無いためにどういえばいいのか分からず
「お……お父さんと呼んでください」
思わず訳の分からないことを口走ってしまった。
天候 雨
出勤してきた秘書から、とうとう子供まで拾ってきたのかと呆れ顔で言われた。
「大丈夫なのですか? 大魔法使い様に育児が出来るとは到底思えません」
そう言いつつ秘書は絵を描いているメイリアを嗅ぎまわった。
「……病原菌は持って無さそうですね。しかし健康診断には連れて行くべきです」
「私びょーきじゃないよ? 『たいしつ』だって、お父さんが」
「そういう話ではございません。……それこそ」
部屋の端で座っていたゼロの方を見た。
「あれは森で生活していたとのことですが、とても健康状態が良いとは」
「なら私に任せて!」
メイリアは挙手してゼロの方へと駆け寄った。するとゼロはあからさまに嫌そうな顔をした。
「な、何する気だ」
そんなゼロにはお構いなしにメイリアは空中の何かと小声で話し出した。彼女の周りの強い魔力、あくまで予想だがそれらが妖精と言うものなのだろう。
メイリアは何かいたずらをするかの様に笑ったかと思ったら、人差し指をゼロに向けて真剣な表情へと変わった。
「回復魔法!」
彼女が唱えたと同時にゼロの体を高濃度な魔力が包んだ。
「……お、おい、今何した」
「今回復の妖精が遊びに来ててね、お願いって頼んだんだよ」
どうやら妖精と言うのは属性を司っているらしい。となると回復の他、火炎の妖精や水の妖精と言うものがいるのだろうか。
「ゼロはえいようがかたよってる……って、妖精が言ってたよ!」
笑顔で言うあたり彼女はその意味を理解していないのだろう。回復魔法で診察が出来るなんて話は聞いたことが無かったが、流石は回復を司る妖精、こうなっては存在を信じざるを得ない。
「奇妙な子ですね……なら、今夜は普段以上に栄養バランスに気を使った料理を」
「だっ、誰がお前らの料理なんか食うか!」
では何を食べると言うのだろうか。そもそも彼は今まで何を食べていたのか。
「はい! 私が食べます!」
「お前に聞いてない! というか何なんだ妖精って、気色悪いんだよ!」
ひとしきり言ってはあはあと息をついた。果たしてメイリアに気色悪いと言う言葉の意味は伝わったのだろうかと思い、メイリアの方を見ると
「……意味はさっぱりだけど……つまり、妖精はやだってことだよね」
端的に、ゼロの語調と雰囲気からその意味を察していた。子供の感と言うものは本当に鋭いものだ。しかし、やはり二人の同居には難が……
「これを見ても同じことが言えるかな?」
と、思っていた所、メイリアが顔を上げると同時に空中に炎のドラゴンが姿を現した。口から火を吐くドラゴンは、壁に当たらぬよう部屋の中を旋回していた。
「か、かっけえ……」
やはり彼も齢十歳ほどの少年であった。
これが火炎魔法の所業だとすればコントロール、一回の消費魔力量、共に従来の火炎魔法の限界を超えていると思われた。それどころが無詠唱、大声で詠唱しなければ威力を発揮できないという魔法の難点を克服してしまっていた。
「でしょでしょ? ゼロも妖精にお願いして一緒にやろうよ!」
「ああ……って、や、やるわけないだろ」
ゼロはそっぽを向きながらもちらちらと横目にドラゴンを見ていた。書類が熱で発火しそうなので止めようかと思ったが、微笑ましい光景なのでここは見守ることにした。が、結局秘書に強制終了させられていた。
「明日本屋で二人に本を買いますから、それで我慢してください」
次は一週間外出禁止だと言われたが、それはとても困るので二人に交渉を持ち掛けてみた所
「……じゃあお父さん、代わりにその話し方きんし」
何故か敬語禁止になった。夜、ゼロは一時間の格闘の末にやっと料理を口にした。
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