俺の想い人が神の使いな件について 2
俺は丁度半年前にギルドというものに参加した。あれ、これって走馬灯?
現在ここ最果ての国で試験的に行われているこの制度。パーティーと呼ばれる小隊(人数は一人から五人まで、人以外の動物はカウントしない)をギルドと呼ばれる冒険者用の職業組合のようなものに登録し、そこに集まったクエスト、つまり……
いや俺は誰に説明してんだ。ていうか時間長くない? まあいっか。
ともかく、今試験的に運営しているギルドに早速参加してみたはいいものの、俺は運悪く強者ぞろいのパーティーに入れられてしまった。弓使いというだけの理由で。
つかそもそもこんなのに参加するのは普通に考えて強者しかいない。しかしこの弱者代表みたいな俺は何故か応募してしまった。俺の馬鹿。そんなだからいつまでもナナちゃんに告れずにうじうじと
「流石に長すぎない!?……って、あれ」
思わず心の声が漏れたことは置いといて、目の前に迫っていたはずの銃口は消えていた。代わりに俺の目の前に凛々しく立ちはだかるナナちゃんの背中。
「店内で武器のご使用は禁止、とお伝えしたはずですよ? お客様」
伸ばされた手から煙が上がっている。煙に三つ編み一束の銀髪が揺れているのが……
「え、ナナちゃん……ま、まさか発砲」
「安心してください。自前のバズーカ、殺傷能力は皆無ですから」
あーなんだ良かった。ていうか俺女の子に守られたとか滅茶苦茶かっこ悪くない? だから落ちこぼれ扱いされるっていうか事実本当に落ちこぼれなんだけど
「こいつらは気絶したみたいですし、ちょっくら兵士に突き出してまいります」
振り向いたナナちゃんの右腕は確かにバズーカだった。
右腕は確かにバズーカだった、って何?
「あ、電話鳴ってる」
掴んでいた男たちを床に投げ、鳴り出した電話の方へナナちゃんは駆け寄って受話器を取る。いつも通りの光景ながら片腕バズーカという異常さ。
「は? あー……ああ、はい……了解」
受話器を置いて、俺の方を向く。
「どうも仕事が二年後くらいまで休みのようです」
「え、俺の?」
とうとうリストラされたか。
「阿保ですか。私のでございます」
機械的な音と共にナナちゃんの右腕が元の人型に戻る。やっぱりそれが一番だ。機械装備のナナちゃんもサイバー的で、美少女×最新武器とかいう奇跡的コラボを果たしていたけれど。やっぱり普段通りの方が平和的でいいというか
「あの、ナナちゃん……? 今の手のやつって」
「ああ。私に内蔵されている武器の一つ…………あ」
もしかして今気が付いたのか。何その無表情な慌てた顔。萌える。
「あーえっと? 今のは? ちょっとした……特殊メイク的な?」
ちょっとキャラ変わってるし。
「た、他言しちゃダメだからね? したら物理的に記憶消させていただきますよ?」
そんなさらっと怖いことを……やっぱりこれがナナちゃんの地なのか。
なんかパニクってるレアなナナちゃんを見てたら変に冷静になってきた。片腕がバズーカだった、他にも武器が内蔵されてます、とかそんな便利な最近機械みたいな多機能性を持ち合わせた好きな人を目前として何なんだこの冷静さは。
「ほ、ホントに駄目ですよ? マスターに言われたら私ここクビになっちゃうし……」
敬語消えたうえ慌ててるという激レアなナナちゃんを見ることもできたし。
……まあ、いろいろ気になるところではあるけど別にいいか。ナナちゃんは変わらず可愛いし。
「告げ口したりはしないさ。俺そこまでクズじゃない」
「そ、そうだったんだ……安心しました」
その返事は地味に気になるところだけど。好きな人からそれはダメージがでかい。
「あ、仕事休みなら今度一緒に遊びにでも……」
「いや、ここの仕事あるので。シフト増やします」
よっしゃあ!……と、言う場面なのだろうか。つまり遊びに誘いづらくはなるが、ここで仕事してるナナちゃんに会いやすくなる……貴重な休憩時間を削らすともナナちゃんのウェイトレス服姿が見れるということだよな。よしめっちゃ嬉しい。
「だからいい加減その変態じみた地の文はおやめください」
「因みにナナちゃんの仕事って何してたの?」
もう俺は心を読まれたくらいじゃ動じない。
「ざっくり言うと、対象をストー……追尾観察します」
待って? 言い直したけどつまりストーカーじゃね?
「で、でもここ欠勤してた日一度も無かったような……」
「追尾機能付きの小型カメラを大量に持っておりますから」
本格的だ……ま、まさかナナちゃんが人っぽくないのって特殊組織のエージェントか何かだからだったりして。もしくはどこかの国のスパイ……うわ、有り得る。
「はっ、二十五にもなって学生みたいな妄想を」
「何かナナちゃん日に日に毒舌になってない……?」
ていうか何で俺の実年齢知ってるの? 確か二十三って伝えてたはず
「やっぱりサバ読んでいらっしゃいましたか……」
今日渾身の呆れ顔のナナちゃん。
あ、読心術でカマかけられたのか。……て、何この人外的な心理戦。
しかし呆れ顔のナナちゃんは意外と今まで見たことが無いかもしれない。なんせ普段基本的に無表情だし。やっぱり彼女はエージェントだと思う。
例えナナちゃんがスパイだろうと秘密組織幹部だろうと、なんなら本気でただのストーカーだったとしても……ていうかそれ以前に人間じゃないとしても、俺は彼女を愛し続ける。うん、とりあえずまず告ろう。でないとこの独白は完全にただの変態だ。
「じゃ、また明日」
牛乳を飲み終わったコップをカウンターに置いて、俺は席を立ちさっそうと酒場を出て行く。と、足に何かぶつかった。なんだ、酔っ払いか?
「……あ」
それは先ほどの銃を持った男だった。
俺がこの後かっこ悪い悲鳴を上げてナナちゃんを一層呆れさせたことは、最早言うまでもないだろう。
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ここまでお読みいただきありがとうございました。
第三部 https://kakuyomu.jp/works/16816452220023617571
「伝説の勇者が盗賊に世界救えとか言ってきた」
※明日は番外編を公開します。
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