第36話 吐露

「あっ……」


 マミはバッと声の先を見ると、ルカが目を丸くしてこちらを見ていた。


「お、おはよう……」


 なんと話しかけてよいか分からなかったが、マミはとりあえずあいさつすることにした。


「お、おはよ……」


 ルカはバツが悪そうに斜め下を向いている。マミはどうすれば良いかためらっていると。


 露天風呂と浴室内はガラスで仕切られており、露天風呂のドア付近にある湯船に保健教師が向かっているのが見えた。


(見つかったらまずい!)


 マミは、咄嗟にドアから離れ、身を潜めたほうが良いと思い、ルカの入浴する露天風呂に入ってしまった。


 朝の露天風呂は、外気の朝の冷たい空気にさらされているからかほんのりぬるい。



「え、どうしたの? 何かいるの?」


 ルカはマミの様子を怪訝な表情で見ている。


「う、うん……、保健の先生が中にいるみたいで……」


 ルカは状況を察し、浴室内に背を向けた。

 マミも、ルカとの距離をとりつつ浴室内に背を向ける。



「……なんでそんなに離れてるの?」


 距離を取るマミを見て、ルカは探ってくる。


「いや、別に……」


「――ワタシに何か言うことあるんじゃないの?」


 ルカの語気が強くなる。

 マミは、なんと返したら良いのか分からない。


「マミは、ワタシのこと、ハブきたいの? ワタシのこと、嫌いなの?」


「いや、そういうわけじゃ――」


「じゃあ、なんであの時、嵐山に行くって嘘ついたの!」


 ルカが声を荒げてマミを睨みつけた。



「そ、それは……。今のルカに言っても、信じてもらえるわけがないよ……」


「どういうこと? ワタシがマミのこと信用してないっていうの?」


「そうじゃなくて、どちらかと言うと、アタシが信用できないというか……」


「え? なんで? ワタシ、何か悪いことでもした? マミが嫌がるようなことでもした? してないよね? ……もしかして、ワタシがみんなにチヤホヤされてるからって、まさか嫉妬でもしてるの?」


「えっと、今はしてないというか、これからされるかもしれないと言うか――」


「今は? これから? 訳わかんないよ! どういうことなのか説明して!」


「でも、絶対信じてもらえないし、信じてもらったとしても、ルカがまた嫌な思いしちゃうだろうし……」


「……今更何言ってるの? もう、充分傷つけられたよ! 何なのか説明してよ!」


 朝から露天風呂で怒鳴ってくるルカ。

 

(もう、言うしかなさそうだし、ここで嘘付いてもまたこじらせちゃうし、もう全部話してみるか……)


 マミは意を決した。


「……絶対信じてもらえないかもしれないけど、本当のこと、全部話すね。でも、絶対に怒らないでほしいし、落ち込まないでほしい……、約束できる?」


「もう! もったいぶらないで早く話してよ!」


「……約束してくれる?」


「……わかった! わかったから! 早く話してってば」



 マミは、今まで自分の身に起きたこれまでのことを話し始めた。


 自分の魂は、本当は社会人であること。

 事故死してから魂だけ残ったこと。

 霊安室でカケルと出会ったこと。

 マミの遺体に向けて、カケルの過去について話してくれたこと。

 修学旅行で起きた出来事のこと。

 ルカの嘘が原因で、カケルと喧嘩になったこと。

 それから一生カケルと話せなくなってしまったこと。

 勘違いからの喧嘩と謝れなかった自分にとても後悔していること。

 自分が死んだ後、タイムスリップして今この時代にやってきたこと。

 喧嘩を食い止めるため、元凶となるルカに嘘をついたこと。


 そして、マミが過去世も現世も、カケルのことをずっと好きで居続けていること。



 マミは、露天風呂から見える遠くの景色を見ながら、全てを淡々と話した。


「――それで、ルカに嘘をついたら、アタシが知ってる過去とは違う流れがずっと起きてて、もうどうすればいいか正直わからないんだ。だから、ルカに嘘をついたこと、すごく反省してるし、もっといい方法無かったのかなって、ずっと後悔してる。もう、後悔だらけだよ。……ルカ、本当にごめんなさい。ルカのこと傷つけて、ごめんなさい!」



 バッとルカの方を振り向く。

 ルカは、両手を目に当てて泣いていた。


「うぅぅ……、ワタシ、そんなひどい女じゃないのに……、なんでそんなことマミにしちゃったんだろう……、ありえない、ありえないよぉ……」


(泣いてる理由、そこ!?)


 マミはルカの勘所がよく分からなかったが、なんと声をかけていいか分からない。


「うぅぅ……、ワタシが原因だったなんて、信じられない……。でも、嘘じゃないんだよね?」


「うん、嘘みたいだけど、本当の話なんだ」


「うわあぁぁぁぁぁん!!! 嘘だって言ってよおぉぉぉぉ!!!」


 ついに号泣し始めた。


「ごめん、これは本当なんだ。だから、正直、ルカのこと、今でも警戒してる」


「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!」


 ルカの号泣が更に加速していく。


 マミはとりあえず、ルカが泣くのを待つことにした――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ソウル・タイムスリップ~社会人から学生に戻って、今度こそ想いよ届け!~ 正田マサ @8282create

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ