第35話 露天風呂

 マミは居ても立っても居られず、マッサージルームを飛び出した。

 流れる涙を必死に拭いながら、急いで階段を下っていく。


 これ以上、カケルと会話していると完全にボロが出そうだった。


 カケルにも嘘がバレてしまい、全員に嘘がバレてしまった。

 明日以降、どうすればいいのだろう。


 マミは自室の部屋の階まで降りきると、今部屋に戻ったところでユキにどんな顔をして会えばいいのか分からず、階段に腰をおろし、うずくまった。



(アタシ、明日からどうすれば……。一旦、涙が収まるまではここにいとこう……)


 マミは何も考える気になれず、ただぼうっと階段に腰かけうつむいていた。

 

 だが、階段にただ座っていても何も解決しない。

 マミは、涙も出なくなったところで、部屋に戻ることにした。


 静かに部屋まで移動し、ゆっくりドアを開ける。

 ルームメイトは全員寝静まっていた。


 マミは自分の布団が準備されているのに気づくと、黙って布団に潜り込んだ。


(あ、そういえばお風呂に入れなかった……。朝早く起きてこっそり入ってこよう……)


 マミはそう思い、早朝になるまで仮眠をとることにした。

 だが、長いこと救護室で寝ていたからか、それとも嘘がバレてしまったからか、そわそわして全く寝付けない。


 マミは、頭の中で状況整理し、翌日からどんな立ち回りでみんなと接すればいいか、朝がくるまで夜通し考えるのであった。




 部屋の窓が少しだけ明るくなってきた。どうやら、もう夜が明けたらしい。

 時計を見ると、朝5時すぎだった。



 マミは一睡もできないまま、むくっと布団から出ると、こそこそと一人準備をし、大浴場へ向かった。



 昨夜とは違い、フロアには朝日が差し込んでいて非常に開放的な空間になっている。


 マミはそそくさと女湯ののれんをくぐった。

 まだ朝5時だからかほとんど人がいないようだ。


 マミはささっと自分が着ていた服を脱ぎ、浴場のドアを開けて入っていくと、汚れを落とすため、一直線にシャワーを目指した。


 昨日は非常に濃い一日だった。

 一日の汚れをようやく落とせる。

 シャワーを浴びている間、マミは昨日の嫌な出来事を洗い流すかのように無心で身体を洗った。


 この旅館には露天風呂が付いている。最上階にあることもあり、景色が一望できるようになっており、遠くには大文字山が見えた。


 マミは朝の風を浴びながら露天風呂で身体を癒やしたいと思い、露天風呂のドアを開いた。



 すると、見覚えのある顔が遠くの方で湯船に浸かっている。



 ルカだった。




 マミはルカに気づくと、驚いてすぐにドアを閉じてしまった。


(なんでルカがこんなところにいるの!? まだ5時なのに! まだ、ルカに会う心の準備なんて出来てないよ……。でも、今のうちに謝っておけば、今のこのモヤモヤした気持ちも晴れるかも……。どうしよう、それでもやっぱり、今じゃない気が……)


 マミは思いとどまり、ドアの後ろを振り返る。


 すると、入り口の方からスタイルの良い女性が入ってきた。


(え!? 保健の先生!?)


 それは、昨夜マミを看病してくれた保健の教師だった。


 体育会系だったのであろう、筋肉質なスラっとした体型。それに似つかわしくない大きな胸が、身体のメリハリを強調させている。


 思わずマミは見とれてしまった。が、本来生徒が出入りしない時間帯に、しかも浴場で見つかってはマズい。


(や、やばい!とりあえず隠れなきゃ!)


 マミは背中にある露天風呂行きのドアを咄嗟に開き、スッと外に出ると、バタンッと勢いよくドアを閉じた。


(ふぅ……危なかった。とりあえずなんとかなったみたい……)


 安心していると、後ろから声がした。


「うわっ! 何……? え、もしかして……マミ?」



 勢いよく閉まったドアの音は思ったより大きく、ルカに気づかれてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る