第12話 犯人判明

「──えぇ!? いやでも何もないけど!? 」


 少しの沈黙の後、最初に口を開いたのはミナトだった。ミナトの言う通り、ここには先程親衛隊がいたような空き地があるだけだ。


「でもこの辺りの風景はさっき見ただろ? 」


「よく見ればこの辺りは確かに先程見かけましたね....。ということは本当に....。」


「でもなんでこんな短時間にあんなおっきな家が無くなるのよ! 」


 ヴィルはバッカスに向かってそう叫ぶ。この短時間に家が消えるなどという事があれば叫びたくもなる。


「一旦ルドルフさんの所へ戻りませんか? もしかしたら情報があるかもしれません! 」


「そうするしかねェか....。」


「とにかく急ごう。まだこのあたりにいるかもだし。」


ルドルフにドヤされるのも嫌だしな、とミナト達は大急ぎで戻ることにした。そもそも今の人数では灯りも人も少なすぎる。自分達だけで探すより親衛隊の手を借りた方が効率的なのは明らかだった。


「にしても俺だけキツすぎないか!? 」


「急いでるんだから仕方ないでしょ! ほら、文句言わずに走る!! 」


 ミナトはヴィルを抱えて走らされていた。愚痴をこぼすと、ヴィルから叱咤が飛んでくる。そんなことをしながら走っていると、すぐにルドルフ達のいる空き地についた。


「ルドルフ!! 」


「その様子だと今度は家も持ってかれりでもしたのか? 」


 バッカスがルドルフを呼ぶと、ルドルフは正確に戻ってきた背景を言い当てた。家に帰ったのにこんなに大急ぎで戻ってくるという事はこれぐらいしか今は原因がないからだろうが。


「よく分かったな! 」


「マジで何やってんの? 親父の目は節穴か何かなの?? そっち方面はさっき探索したばっかりだったし捜索隊は出してねぇよ。」


「いやァ家に帰ったらちょうどここみたいな空き地になってるモンで流石にビビったぜ....。」


「ここみたいってここも元々は家があった場所だし。似てて当然でしょ。」


「そうなのか!? 」


「あぁ。展開するにはちょうど良かったから使わせてもらってるよ。」


 なんと驚いた事にここもこの事件の跡地らしい。言われてみれば確かに地面のあたりを探っている部隊がいる。彼らは何もここで休憩していたわけではなかったのだ。


 「ってかマジで何やってんの? 親父の目は節穴か何かなの?? そっち方面はさっき探索したばっかりだったし捜索隊は出してねぇし。」


 ルドルフはバッカスに食ってかかる。ルドルフとしてもそれだけ近くに犯人がいたにも関わらず発見できなかったのは痛い。領主直下の親衛隊が総力を上げても発見できないのは威信に関わってくる。


「そんな....。ですがどうにかして見つけないとバッカスさんの住む家が....。」


「あぁそっちは俺がどうにかするさ。領主様に言ったら館空けてくれるでしょ。多分。」


 この男、実家が消失したというのにかなり呑気である。だが領主の館など空けてもらえるのだろうか。


「とりあえずうちの家が消えたっていう収穫があったんで、今日はここらへんでお開きにしようと思うんだけど。」


「はっ!! では我々は各隊員が戻り次第帰還させます! 」


「んじゃよろしく。さ、館へ行きますかね。」


 こうしてルドルフを加えた一行は領主の館へと向かい始める。だが程なくしてルドルフが立ち止まった。


「ん? どうかしたのか? 」


「いやおっそいわ。もったいないけど石割ろう。やっぱり。」


 そう言ってルドルフは腰につけていた袋の中から拳大の石を取り出した。石は青白く発光していて、一目で普通の石でないという事をミナト達に理解させた。


「それは....魔導柱!? 」


 ミナトは驚きの声をあげる。ルドルフが取り出したのは『ドミネーション』の世界で魔導柱と呼ばれていたものだ。魔導柱とは簡単に言えば魔法をストックできる石の事だ。生産がかなり難しいという事で、ダンジョンでしか手に入らないような代物だった。


「あんまり離れると自力で歩く事になるよ? 」


 ルドルフはそう言うと石を握り潰した。一体どれ程の握力があればこんな芸当ができるのだろうか。そうしているとルドルフを中心にミナト達を光が包み込んだ。


「よし。ちゃんと着いてきてる? あぁ全員いるね。」


「ここは....!? 」


 ミナト達は巨大な玄関の中にいた。豪奢な装飾で囲まれたこの様子はいかにも領主の館といった所だろうか。


「あぁルドルフ様戻って来られましたのね。──ところでそちらの方々は? 」


 ミナト達が玄関を見回していると、メイド服を着た女性が一人やってきた。女性は玄関をキョロキョロと見回している4人の事を訝しげに見ながらルドルフに質問する。


「このデカいのはうちの親父。それとこっちは親父の依頼受けてた冒険者。家が消えたからこっちで引き取ってきたの。」


「そうでしたか。では客室へお通しさせて頂きますね。」


 彼女は先程とは打って変わってあっさりと納得した様子で、ミナト達を客室へ案内してくれた。道中の廊下も、貴族の家らしくよくわからない花瓶が飾ってあったり、絵画が飾ってあったりする。ミナトにはどれもあまり価値が分からないが、とにかく高そうである事だけは理解した。


「んじゃ俺はこれで。ここに住む代わりに明日からはこの事件手伝ってね? 」


「まぁ結局目的は同じだしな....。分かったよ。」


 ミナトがそう言うとヴィルとセラの二人も頷く。こうしてミナト達の捜索1日目は終了した。


「なんかめちゃくちゃ疲れたな....。」


 犯人だと思って追いかけていた二人が親衛隊で、しかもその隊長はバッカスと親子だった。さらにバッカスの家は消え、今は街の領主の館で寝っ転がっている。明らかに一晩の情報量ではない。


 かなり歩き回ったと言うこともあり、ミナトは早々に眠りに落ちた。



「ん....。もう朝か....。」


 ミナトは朝日を浴びて目が覚めた。異世界に来てから初めて気持ちの良い朝を迎えれた気がする、などとミナトが思っていると、ドアのノックが聞こえた。


「どうぞー。」


「おはようございます、マスター! 起き抜けに申し訳ありませんが、ルドルフさんが至急玄関まで来るようにと。」


「さ、早く行きましょ。」


 ルドルフが呼んでいるというので、ミナトはベッドから起きて2人と共に部屋を出る。すると、昨日のメイドが立っていた。


「ルドルフ様より会議室に案内するように承っております。さぁこちらへ。」


「ありがとうございます....! 」


「ありがとうございます! 」


「いえ、構いませんよ。」


 こうしてメイドに案内されて3人は会議室に辿り着いた。ドアを開けると、ルドルフが長い机の一番奥に座っていた。それ以外は親衛隊の人間だろうか。皆机に広げられた地図を見ている。


「これで揃ったね。突然呼んで申し訳ないけど。敵の正体が判明した。」


「分かったのか!? 」


「なんで分かったの!? 」


「まぁ判明したっていうよりこれ以外が考えられないって事なんだけどね? 」


 ルドルフの口からは開口一番衝撃の事実が語られた。あれだけ正体不明だった敵の正体が掴めたというのだ。ミナト達が驚く事も無理はない。


「それで正体は? 」


「この事件の犯人は──ガーゴイルだ。」

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他人任せな転生者〜魔王を討伐するはずだったのですが転生初日で魔王様が仲間になりました〜 九蓮 @chu-ren

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