第11話 その名はルドルフ!

「にしても二人ともマジでなんでこんなの連れて来たのさ? 」


 隊長と呼ばれた人物はいかにも不機嫌そうだった。スペック達が取った行動に何か問題があるとは思えなかったが。


「へ? こんな時に尾行されてたら確実に怪しいじゃないですか。」


「まぁ確かにそれはそうなんだけど。これから物盗もう盗もうってのがほぼ手ブラな訳ないでしょ。普通に考えて。」


 言われてみればそうである。これから盗みに入ろうとしている者、しかも今回は家ごとという大胆な方法だ。なのにミナト達はほとんど何も持っていない。確かにこれだけで容疑はかなり薄そうである。


「あ、確かに....。」


「まぁでも尾行されてたら連れてくるの当たり前だけどね!? 気付いてたのに逃してたりしたら首落ちてたよ。」


 たった今なぜ連れて来たのかと問うたのに今度は一転、連れて来ていなかったりしたら処刑だったという。この男訳が分からない。


「何回失敗してもスペックは数を引っ張ってくるからこの捜査に呼んでんの。お前の判断で選別されるより俺がここで選別した方が精度が高いわけ。分かる? 」


 なるほどこの隊長、歳としては若いが部下の長所を正確に見抜いたり、叱った後にもフォローを入れている。さらにはミナト達が犯人でないとすぐに見抜いていた。これが親衛隊の隊長をやっている所以の一端でもあるだろう。


「はっ、はい!! これからももっと連れて来ますんで! 」


「でもそろそろ住民の方から苦情来てるからお前は今日で捜査から外れるんだけどね? 」


「えぇ!? そんなぁ....。」


 隊長曰く住民から苦情が来ているので今日で捜査からは外れるらしい。ミナト達を捕えた時もかなりの大声で叫んでいた。深夜にこんな事をされては住民もたまったものではない。


「隊長! ただいまお連れしました! 」


「お、バッカス連れて来たのか。」


「久しぶりだなァ、ルドルフ! ──それよりも俺の事は親父殿と呼べっていっつも言ってんだろうが! 」


「へいへい。分かりましたよ親父殿。」


「全く....。」


 なんとバッカスとルドルフと呼ばれた隊長は親子らしい。言われてみれば確かにどこか似ている所があるような気がする。


「そんで親父よ、なんで勝手に依頼したわけ? 」


 バッカスが依頼をした事が事実と分かると、ルドルフはバッカスを詰問する。


「いやお前に余計な負担をかけるかもしれないと思ってなァ。ギルドの掲示板に依頼を貼っつけてたんだ。」


「このボケ親父! 俺達は街全体の操作してるんだから一件でも多く報告が欲しいんだよ! 余計な事考えずに槌だけ振ってろ! 」


 実の親に向かってなんとも酷い言い様である。だがバッカスはそれを軽くあしらう。


「今の俺には槌も何もないからそれはできねェなァ....。」


「って事はマジで工房だけ持ってかれたの? いや気付けよマジで。まぁいいや。とりあえずあいつらが違うっていうことは分かったし。」


 ルドルフがそういうとミナト達を縛っていた紐はようやく切られた。


「やっと解放されたわね....。にしてもバッカスの息子が親衛隊の隊長やってるだなんて。」


「 とにかく容疑が晴れて良かったです。バッカスさんありがとうございました! 」


「いやいや聞いた時はビックリしたぜ....。災難だったなァ。」


「いやほんとに殺されるかと思った....。」


 縄から解放され、三者三様の反応をするミナト達に、スペックとタウラスが近づいてくる。


「悪いことをしたな。」


「いや、あれは明らかに俺らが怪しかったし...。」


 タウラスはミナトに謝罪の言葉を告げ、ミナトの方も自分達が悪かったとお互いに非を認め合ってこちらは一件落着した。


「あれで捕まえてくれるなってのは無理だぜ....。」


「ねぇ。あれだけ鬼の首取ったみたいに散々騒いでおいて間違ってた時の気分はどう? 聞いてた話じゃクビになるって聞いたけど。」


「うっるせぇ! 隊長からもお前の判断は間違ってなかったって言われたんだよ! 」


「ふーーん? 」


 一方でこちらはスペックとヴィルの方だが、ミナト達とは対照的にヴィルが初っ端から煽り始める。それに負けじとスペックが反論し、大騒ぎになっていた。


「うちのスペックが申し訳ない。あいつはあぁいうタチなんだ。どうか許してやってくれ。」


「どうも始めたのはヴィルちゃんの様ですから....。こちらこそすみません....。」


 そしてルドルフとセラはまるで2人の保護者の様だ。スペックを見ていると、ルドルフの普段の苦労が窺える。


「んじゃ俺達は一旦バッカスの家にでも戻るか。」


「そうだなァ。この辺りは粗方ルドルフ達が調べてンだろ。」


 バッカスの言う通り、親衛隊がいるならこの辺りの捜索は任せてしまっても構わないだろう。それにミナトは直前まで寝ていたからいいが、ヴィル達は少し眠そうにしていた。今日の捜査は潮時である。


「ならさっさと戻りましょ。ミナトは眠くないかもしれないけど私はもう眠くなってきたし。」


「家まではちょっと距離あるがそんな遠いってわけでもないしなァ。さっさと行くぞ。」


 バッカスはちょっと距離があるというが、バッカスを呼びに行った兵士が割とすぐに戻ってきたので思っているよりは遠くないかもしれない。


「──にしてもルドルフ達に捕まるなんてなァ! 兄ちゃん達には悪いが話聞いた時には吹き出しそうだったぜ。」


「でもいつの間にか街の部隊尾けてたなんて....。」 


 ヴィルはかなり凹んだ顔をしていた。工房を盗んだ犯人を捕まえると息巻いていたのに、追っていたのが領主の親衛隊だったのだから無理もない。


「それよりもバッカスさんとルドルフさんが親子だったなんて....。」


「そうだよな....。こんなイカついおっさんからあんな美青年が産まれてくるもんなのか....。性格は若干似てたけど。」


「俺だって昔はなァ.....。いや昔もこんなだったか? 」


 バッカスはルドルフとあまりにも似ていないと言われたことに対して反論しようとするが、逆に墓穴を堀りそうになっている。


「にしてもあれだけ人数いて見つからないものなんだな。」


 ミナトは不思議に思っていた。ルドルフ達がいた空き地には、待機中の兵だけで30人近い人がいた。それだけ大掛かりで探して見つからないというのはどういうことなのだろうか。

 

「探す能力がすっごい低いとかじゃないの? そうでもなきゃ家ごと持ってくなんて目立つのすぐに分かるもの。」


「ですが本当にそうでしょうか....。スペックさん達は私達の尾行にも気付いていましたし、能力は決して低くないと思います。」


 スペック達はミナト達の尾行に気付いた上で、あえて泳がせていた。探知能力がそこまで低い様には思えない。


「そうなのよねぇ。手がかりを探すつもりだったのにもっと分からなくなっちゃったわね....。」


 ヴィルは渋い顔をする。手がかりを探すどころか、事件はますます複雑になってきた。これでは解決にはほど遠いだろう。


「──ってなんだこりゃ!? 」


 一番最初に異変に気付いたのはバッカスだった。


「どうしたんだ? 何かあったのか? 」


「いやここにあったんだよ!! 俺の家が!!! 」


 バッカスは目の前の大きな空き地を見てそう叫ぶ。バッカスが家を留守にしたのは先程兵士がバッカスを迎えに行ってからだ。決してそう長い時間ではない。


 それにも関わらず、この短時間にバッカスの家は跡形もなく消え去っていた。

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