「列女伝が読みたい! だけど、紙媒体しかなくて残念……」と思っている時に、本作に出会いました。
この作品の主人公である『趙娥』の名前を列女伝を調べてる時にチラリと耳にしまして、本作に興味を持ったわけです。
なので、列女伝に趙娥の話があるかは知りません。ゴメンナサイ。
本作がどんな話かというと、
簡単に言えば『父の仇討をする女性』の話です。
日本でも時代劇ドラマなら見かける習慣です。
でも、今は時代劇ドラマ自体が少ないので、仇討なんてピンと来ない人も多いかもしれません。でも、どうもこの小説で描かれる時代の人にとって『殺された家族の敵討ちはやるべき大事なこと』だったみたいです。
重要ポイントなので、もう一度言いますね。
この小説の世界観では『殺された家族の敵討ちはやるべき大事なこと』だったんです。
下手をしたら、自分の今後の人生よりも大事と思う人がいるくらい大事。
上記を頭に入れて読むと、より深くこの物語を知れると思います。
主人公の父を殺害した人物が「敵討ちされるかも?」と心配する描写とか。これを理解していると「心配して当然だな」って思えるはず。
本作は古代中国人のメンタリティーを知るのに一役買ってくれる良作だと思います。
武狭っぽさもあるので。武狭小説が好きな人にもおススメ☆
復讐のために生きる女性の物語です。
ある日、生首をもって人を殺したと出頭する主人公と事件を記録するために話を聞く男性官吏。
主人公の女性が語る過去の話として物語は進みます。
実際に歴史書に記述された内容がわかりやすくまとめられています。
歴史モノだからか、ストーリーに時折現代に生きる我々が到底理解することのできないような思想が入りますが、丁寧に説明されていて読みやすいです。
家族を殺した男への憎しみを忘れず、復讐を果たす女性の強かさには胸を打たれました。
あのとき「私の心は、冰霜のように、静かに埋もれていくはずだったのです」。※ひとこと紹介文の和訳です。
ただ家族を一心に思い続けた女性の復讐劇。
ぜひおすすめしたい一作です!
実に見事です。
中国の三国時代を舞台とした復讐劇でありながら、我々が読んでも違和感なく入り込めるように様々な配慮がなされていました。当時の風習、常識について事細かな説明が入っているのみならず「復讐は成功した」という結末を先に見せておくことで「ある種の担保」のようなものを読者に保証し、それによって「主人公がどれだけ酷い目に遭っても、途中で読むのを止めようとは思わせない」作品を完成させることに成功しているのです。
むしろ「ここからどうやってあの結末にもっていくのだ?」と、強く興味を惹きつけられるのですから、ネガティブな描写が全てプラスになっている稀有な事例と言えるでしょう。
家族の復讐なんて無意味だから止めた方がいい。
それは赤の他人、もしくは現代人だから言える正論であり…儒教が浸透した世界では必ずしも正しいとは限らないのでした。ましてや、クズ男の口からそんな台詞を吐かれた所で納得などできるわけもなく。
肯定派、否定派、どちらが読んでもうなずけるように様々な人物が登場し、読者の代弁を主人公へ語り掛ける所も実に巧妙。クズ男には中指を立てる一方で、恩師の「人殺しにしたくない」という言葉は実に重い。
数多の悲劇を乗り越えて、遂に果たされれる仇討ちの時。
その先に主人公を待っているのは無慈悲な処刑か? それとも?
三国志演義(もしくは無双でも)が大好きな方、もしくは復讐譚が好きな方は是非。
誰が読んでも楽しめるように配慮された文章は、一分の隙も無く完璧な結末へと貴方を導くでしょう。文句なしに入賞の力作です!