第4話 いつだって主人公は夢見がち
それからしばらく経って、俺とクリスの二人きりになっていた。
クリスの衝撃の告白を受けて俺も小花代も (まさか、奥さんだとは思ってなかったそうだ。)唖然としていたが、綾崎が来て小花代をどこかに連れて行ってしまった。
綾崎に「は?なんでこいつなんかと一緒にいるの?」みたいな視線が送られてきたのを覚えている。
とりあえず、そのことは置いといて、話を戻そう。
俺はクリスの方を向く。
「クリスさん(のような美しい方)とゲス(みたいな、おっ)さんがご結婚されていたなんて俺思ってもいませんでした。」
クリスは微笑んで聞いた。
「悠馬様は主人のことが嫌いですか?」
「え?...いや、嫌いじゃありませんでしたよ。」
あくまで、こんな美人さんと夫婦だなんて知らなかった時までだが。
「それは、よかった。どうか夫のことを嫌いにならないでやってください。少々臆病で意地っ張りなところはありますが、根はいい人なんです。」
俺の返答にクリスは嬉しそうに答えた。
その表情を見て思った。
「クリスさんは、ゲスさんのこと愛してるんですね。」
クリスは、薬指の指輪を優しくなでて「そうですね。」とだけ答えてくれた。
この世界観から多分政略結婚とかもあるのだろう。実際にこの人たちもそういう関係だったのかもしれない。
でも、今この人はゲスのおっさんが他人に嫌われたくないと思うほどに愛している。
俺はその関係が、羨ましかった。
昼間神楽代に感じた『羨ましい』とはまた少し違う『羨ましい』だった。
「俺も、そんな風になれますかね。」
「それは、さっきまで慰めてた小花代様のことですか?」
クリスが意地悪そうに笑う。
「見てたんですか!?」
急に顔が火照る。
「私が見ていましたのは悠馬様が愛の告白をなさっていたところからですが...」
あそこからずっとかよ!
思い出すとまた恥ずかしくなってきた。
って、あのセリフ聞かれてたのかっっっ!!
ヤバい、今すぐこのテラスから飛び降りて死にたい。
「大丈夫です。あの様子では悠馬様の言葉の意味を小花代様は理解されていないでしょう。」
え~、それはそれでショックなんだが...
「悠馬様、先ほどから挙動不審ですよ。」
「か、からかわないでくださいっ!あと、そうやって人の恋路を無断で覗き見るのはいい趣味とは言えないですよ。」
もしかしてクリスは魔術士じゃなくて魔女なのかもしれない。
「でも私のおかげで小花代様と喧嘩別れしなくて済んだではありませんか。」
「っそれは!...確かにそうですけど...」
少しだけ認識を改めてやる。クリスは他人の恋沙汰を手助けしてくれる腹黒な魔女だ。
「とにかく、俺は自分の部屋に戻るので、旦那様といい夜をお過ごしください。」
俺はその場から逃げるように会場を後にする。
「はい、悠馬様もいい夜を、それと不要かもしれませんが、そちらの廊下は礼嶺様が小花代様を連れたいかれた方なので、もしバッタリ遭遇されたくないならば、奥の廊下を通った方がよろしいかと。」
クソ、最後の最後まであの魔女はっ!
「余計なお世話ですっ!」
そういって俺は、クリスが勧めたほうの廊下に向かって歩き出した。
ーー・ーー
異世界生活開始二日目
俺たちは早朝から王城内の訓練場に呼び出された。
訓練場ではゴツい鎧を身にまとった渋顔親父と、渋顔親父ほどではないにしろ、それなりにかっこいい鎧に身を包んだ青年が待っていた。
渋顔親父が持っていた大剣を地面に突き立てて叫ぶ。
「よく来た勇者諸君っ!俺は神聖ビリアッツ帝国第一騎士団団長のベルトラン・アンベールだ!
そして、こっちは副団長のシルバ・クレイン!俺たちが任された仕事はただ一つ!諸君らを鍛えあげて他の騎士たちに引きを取らない立派な戦士にすることだ!そうと決まれば今から全員で俺にかかって...」
ベルトランがそこまで言ったところで、そばに控えていたシルバが「騎士団長殿..」と割り込みベルトランの耳元で何かを告げた。
「あ、ああ、そうだったな...おほんっ!勇者諸君、諸君らにはまず『ランク付け』を行ってもらう!」
シルバから何か言われたベルドランが言い直した。
大方、シルバが何を言ったのかは、ほとんどのクラスの奴らは予想がついた。
戦闘バカのベルドランがシャルル王から命令された俺たちの『ランク付け』たるものをすっかり忘れ、いきなり実践をしようとしたところを止めたとかそんなところだろう。
このひと時の間にシルバの日々の苦労が垣間見えた。
バカな上司をもった部下は大変なんだな。
魔王を倒して元の世界に戻れたなら俺は絶対に弁護士とかそこら辺の仕事に就こう。
ベルドランが気にせず話を続けた。
「『ランク付け』というのは、騎士団や魔術士団に入るときに行うものだ、この魔法具を使って個人の基礎能力値を、S、A、B、C、Dの五つのランクに分けることができる。ランクが高いほど元々の運動能力値や魔力保有量も高くなり、レベルが一つ上がるごとの能力上昇率も高い。一番一般的なのはCランクで、副団長のシルバはBランク、騎士団長の俺はAランクだ。Sランクはここ数百年出たことがないらしいが、何でも諸君らは勇者だからな、もしかしたらこの中で一人は出るかもしれんな。」
そういって水晶玉のようなものを取り出した。
「では、俺とシルバの二人で見ていこうと思うが質問のある奴はいるか?」
ベルドランは一通り説明したとこで質問の有無を確かめたが、はっきり言って今の説明だけでは分からないことだらけだ。
「質問です。」
即座に一人の生徒が手を上げる。
神楽代だ。
「ランク付けがどういうことかについては、理解しました。しかし、魔力保有量だとかレベルが上がるとかはよくわかりません。そこら辺の詳しい説明お願いします。」
いい質問だ神楽代、俺が知りたいことをズバリ聞いてくれる。
そんな神楽代の質問にベルドランが呆れたように答える。
「なんだ、そんなことか、そんなのは自分のステータス画面をみれば分かることだろ。」
はあ?すてーたすがめん?なんだよそれ...
すかさずシルバのフォローが入った。
「その質問には僕から答えましょう。まず、魔力保有量とは個人があらかじめ体内に持った魔力の総数のことです。魔力保有量が多ければそれだけ沢山の魔法を続けて発動できたり、より上級の魔法を扱うことができます。一方の運動能力値とは、筋力や瞬発力、状況把握などの総称した値のことを言います。例えば、持久力はあるけど跳躍力はないとか、瞬発力はないけど危機察知能力高いとかそういった生物としてのその人の能力を数値化したものといえば分かりやすいでしょうか。そして、それらを肉眼で確認できるのがステータス画面という者です。皆さん、一度「ステータス表示」といってもらえますか。」
シルバの言う通り「ステータス表示」と呟く。
その瞬間メニュー画面みたいなのが顔の前にパッと映し出された。
若干声を出して驚いてしまう。
「今皆さんの前に映しだされたのがステータス画面です。ご自身の魔力保有量や運動能力値のほかにも体の状態や今持っているアイテム、持ち金などが書かれているでしょう。」
そんなことまで分かってしまうのか...
「ステータス画面は映っていれば誰にでも見えてしまうのでご注意くださいね。次にステータス画面の左上をご覧ください。Lvという文字が見えているでしょう。その右隣に書かれている数値が皆さんのレベルです。恐らくLv1と皆さんの画面には書かれていると思います。その数値は体を鍛えたり、魔物を倒したりすると経験値が加算されて1レベルづつ上がっていきます。勇者について書かれていた書物によりますと歴代の勇者たちは全員等しくLv100だったらしいです。なので皆さんもLv100を目指してください。僕からは以上ですが、ほかに分からないことはありますか?」
完璧な説明だ。隣で目をつぶっているでかいだけの親父とは大違いだ。
「無いようなので当初の話に戻りましょう。騎士団長あとはよろしくお願いします。」
シルバはまたベルドランの後ろに下がっていった。
「...ん?もう説明はもう終わったのか?うむ、ご苦労だったな。」
まさか、この親父、シルバが説明してる間ずっと寝てたのか!?流石にそれはないだろう!?
「では、『ランク付け』を始めから適当に二列に並んでくれ。」
ベルドランが言ったあと俺たちはシルバの指示に従い二人の前に並んだ。
本当にシルバが不憫でしょうがない。
ランク付けを開始して数分もすると前の方に並んでいた奴らの声が聞こえてきた。
「お前ランク何だった?」
「私Bランクだったわ。」
「Bランク!?..いいなぁ~、俺はCランクだったのに。」
「普段の行いが悪いからこの世界の神様に見捨てられたんじゃない。」
「今、俺の行いとか関係ないだろっ!」
会話を聞く限り大体の人がCランクもしくはBランクのようだ。
「それよりも桜羽さんはどうだった?」
それまでCランク男子と話していたBランク女子が近くにいた小花代に話を振った。
「私はAランクって言われました。」
当たり前のように小花代は答えた。
それを聞いてB(だった女)子とC (だった)男が声をそろえてビックリする。
「すごいわ!今のところAランクなのは桜羽さんだけなんじゃない。」
B子が褒める。
「Aランク!?..いいな~、俺はCランクだったのに。」
C男が悔しが...それさっきも聞いたんだけどC男。もう少し何か言うことないの?
二人に言葉を小花代は「運がよかっただけです。」と受け流していた。
うわ、相変わらずお嬢様を徹底してるなぁ。
今の小花代の好きなところ上げろって言われても顔ぐらいしか想い浮かばないぞ。
もし小花代が本当にあんなやつだったなら俺は小花代のこと好きになんなかったんだろうなぁ。
そんなことを思っているうちについに俺の番がやってきた。
鑑定してくれるのはシルバ。ただランクを見てもらうだけなのにベルドランよりも千倍安心できるのはなぜだろう。
「あなたのお名前は?」
シルバが聞いてきた。
「京悠馬です。」
「カナグリ・ユウマさんですね。これからよろしくお願いいたします。」
うーん、少し発音の仕方が違うがまあ、いいだろう。
「シルバさんも大変ですね。」
俺がそういうとシルバは「仕事ですから。それにもうすぐその仕事も終わるので大丈夫です。」
とほほ笑んだ。
その仕事も終わる?どういうことだ?シルバが立場上ベルドランを追い抜くってことだろうか。
「ではユウマさん。雑談もそこそこに始めましょうか。」
「あ、はいっ!」
俺は少し緊張した。
「左手を出してください。」
言われたとおりに左手をシルバの方に突き出す。
やっぱり目標はSランクだよなぁ、
俺は自分のランクを想像する。
シルバは水晶玉のような魔法具を俺の手の上に乗せると呪文みたいなのを唱え始めた。
小花代だってAランクだったんだから最低でもAランクはほしいところだよなぁ、
「人を見極めし宝珠よ...」
もし俺がSランクの勇者になったらこの国の人全員から祝福されてパレードとか開かれたりするのだろうか。
「我、シルバ・クレインの求めに応じ...」
そして、魔王を倒したあかつきには、有名な歴史書に『他の勇者を率いて魔王を討ち果たした英雄カナグリ・ユウマ』って書かれたりするのだろうか。
そうなったら、どれ程の優越感だろうか。
「汝、カナグリ・ユウマの新の力を映し出せっ!!」
その瞬間水晶玉が赤色に光りだした。
「おお!これはっ!」
シルバの声が高ぶる。
「Sランクですかっ!!」
すかさず、俺も声を上げた。
「素晴らしい!Aランクですよ、ユウマさん!」
シルバはとても嬉しそうに俺に伝えてきた。
......っあ、そうっすか.....
魔属性の勇者パーティーが世界に復讐を果たすまで~クラスごと異世界の勇者として召喚されたけど、神に見捨てられて、魔族の裏切り者だと国を追放された魔属性勇者の俺は世界に復讐を誓う~ @hryuy0117
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