第23話
あと残すはKさんのマスクをどうするかという話だけになってくる。はたして彼女は今日、出社したのだろうか?していたとしても水浸しになって混乱した職場でマスクが無くなっていることなんか気にも留めていないかもしれない。それに子供の病状によってはそもそも出勤しておらず、しばらく欠勤が続く可能性もある。マスクさえKさんのデスクに戻すことができれば、何もなかったことにできてしまうのでは……。
明日、とりあえず誰もいない早朝に出社してみることにしよう。もしかしたら職場のあるフロアの入口付近はバリケードテープが貼られて立ち入ることが許されない状態になっているかもしれない。それならそれでKさんのマスクの隠蔽工作をするための時間的な猶予が多く与えられたことになるわけで、こちらとしてはありがたい。ただ、人の出入りが禁じられるほど悲惨な状況なら本社からなんらかしらの報告がありそうなものだが、そのような通知は届いてなかった。
むしろ社員たちが総出で水浸しの床掃除や濡れてしまったPCやプリンターなどの機器の搬出作業に追われていたのかもしれない。そうであったなら、明日もマスクをKさんのデスクの引き出しへ戻して、何食わぬ顔でその作業に参加すれば良いだけのことだった。
いや、職場の変わり果てた状況に困惑した様子を、馬男が設置したものではないビル施設内にある正式な監視カメラにあえて撮られたりした方が、真実味を演出できて安全確保に役立つだろうか?俺の職場のある階にも、確かエレベーターホール周辺に設置されていた記憶がある。
今日は無断欠席となってしまったが、その言い訳に関しては明日出社してみて職場の状況等を鑑みた上で考えても間に合うだろう。とにかく明日は早くから動かなくてはならないから、身体を休ませなくてはいけない。
ただ、その前にするべきことがあった。俺はくるまっていた毛布を投げ捨てて再び裸になると、ソファに放ってあったKさんのマスクを手にした。
覚悟の自涜 牧原 征爾 @seiji_ou812
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