現在、潜在能力者研究機関

殺意との遭遇

「結局”ナルカミ”って何なんでしょうね」

 水無月が呟いた。

 岩永組を壊滅させた襲撃から数日。正体不明の能力者は岩永組以外にも暴力団を襲撃していたことがわかった。襲撃を受けた暴力団は被害を表沙汰にしなかったのだ。彼らの面子に関わるから。そして、警察が来るとなれば後ろ暗いところもあるから。そんな事情を正体不明の能力者に利用された。

 こうして判明した襲撃件数は三件。岩永組が三件目にあたる。

「それが何かはわからないが、早急に突き止めなくてはいけない」

「……わかっています」

 水無月がよく理解している。この相手は、水無月と思考が似ている。

 特殊能力の矛先を暴力団に向けるのは、彼らが通報しにくいと知っていて、なおかつ彼らの命が世間で軽く扱われると学習しているからだ。

 水無月が八年前の札幌で特殊能力の実験をしたようなものだ。だが、今回の場合、暴力団はおそらく初めての被験者ではないだろう。失敗するにはリスクが高い相手だからだ。

 だからどこかに最初の実験がある。そして三件も実験をし終えたなら、最終目的の達成までに時間はない。

 現場から毛髪などの痕跡を採取し、警察のデータベースと研究機関のデータベースと照合をかける。その傍ら、水無月と伊月は最初の実験を探す。

「照合、特に警察遅いんですよね。研究機関だから後回しにされている感が拭えないというか」

 インターネットの噂レベルのものからニュースまで調べる煩雑さに早くも嫌気が差した水無月が愚痴を零す。自分達の相対しているものを公にできないとはそういうことだ。

 常なら水無月の言葉を咎める伊月も、今回は咎めない。暴力団、警察、その上大量の情報のなかから本命探しと難題ばかりの現状に疲れているのだろう。

 どちらからともなくため息をついたそのとき、伊月の端末が鳴った。


「はい、伊月」

 応じる伊月の声が険しくなる。

「能力者のデータベースで、近親者がヒット。該当者は――水無月悠」

 音を立てて、水無月が立ち上がった。通話を終えた伊月が宣言する。

「現場に残された毛髪から、おまえの近親者と推定された。どれほどの近親者かはこれからだが――」

 伊月の声が頭を滑る。水無月は突き刺さる殺意をたしかに感じていた。

 遊んではいられない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ブルーサファイアの死神 染井雪乃 @yukino_somei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ