第32話 エピローグ 後半


 ここで残りの四人の巫女が未來の元に来る。


「未來大丈夫?」


 詩織の言葉に未來はやっと口を動かす。


「皆……後はお願い……私ね決めた。影とここに残る」


 そう言って未來は影の元におぼつかない足で進んでいく。


「待って! 未來は影と一緒に死ぬつもり?」


「詩織ごめんね。私ね今まで黙ってたけど実は影がこの二年間、夜中一人で何も言わずに頑張ってたの知ってるの。多分影が詩織に話してない事も全部知ってる。だから影の龍脈の力が毎日減ってた理由も知ってる。だって影は瞳の村に来て真夜中一人で何かをしてる時以外一回も人間の姿にならないんだもん。たまに私の巫女会議の同伴の時は人の姿だったけど、それでも可笑しいと思わない? そして皆は影の頑張りも知らず化物呼ばわりして結果ずっと一人……最後ぐらい誰か側にいないと可哀想だよ。もういい加減報われてもいいと思わない?」


 未來は影を守るように抱き着く。


「未來……逃げ……」


「影? この戦いが始まる前に約束したよね? もう勝手に何処にも行かないって」


「でも……」


「もういいから。全部一人で抱え込まなくていいから。これからは私がずっと側にいるからね」


 影は今まで隠していた事がやはり未來にはバレていたと後悔する。きっと影が上手くしていればこんな結末にはならなかっただろう。未來が影を甘やかす理由がここにあったのだと気づく。そして影の事を好きな理由は今まで誰も助けてくれなかったのに、影だけはずっと未來の為に口では何も言わなかったがこの二年間ずっと行動で示してきたからだと理解する。


詩織達も影と未來の元へ走ってくる。遅れてまいと有香も来る。

そして詩織とえりかが未來と同じように影の身体を守るように抱き着く。


「私……かげともっといたい。勝手に決められた許婚とじゃくて影と一緒にいたい。それがむりならわたぁしゅもいっしょにしゅぬ」


「私も一緒にいたい。真夜中に気分転換で村の外に変装して一人でお出掛けしていた私をいきなり襲ってくる偵察隊の守護者からいつも私を守ってくれたの影でしょ? ずっとお礼言いたかった。私が気分転換で真夜中外に出る日は必ず下手くそながら気配を消して私を見守ってくれてたの知ってたよ」


 詩織が珍しく泣いたと思ったら大泣きし、えりかは突然の告白。詩織は恐らく居心地の良さで影を好きなのは知っていた。そしてえりかが影を何で好きなのか今分かった。えりかにとっては影の不器用ながらも頑張っている姿に恋したのだろう。


「女の守護神さん。申し訳ないけど私達だけ逃げていい雰囲気じゃないから私達も影と一緒に殺してもらって構わないわ。影ごめんね。私は言わなくても分かると思うから言わないけど今まで二年間ありがとう」


「実際に貴方の旦那と影の戦いで影は一度負けているわ。それを私達が無理やり勝ちに持っていた。それに影がいなくなれば私達だけではもう村は守れない。だけど村を治める五人の巫女が死んだら変わりに他の巫女が巫女村から派遣されるようになってる。そう私達ではもう無理なの。だから影、気を悪くしないでね。今まで二年間ありがとう」


 皆が死を覚悟する。そしてその瞳は何処か悲しかった。影は何も言わない。言った所でもう無駄だと知っている。今更何かを言って意見を変えてくれない事を知っている。

 女の守護神が影の顔を見て剣を生成し突きつける。


「最後に答えろ。お前にとってこの巫女達はどういう存在だ?」


「この世界でこんな俺を唯一受け入れてくれて愛情をくれた存在だ」


「そうか。お前達影を連れて逃げろ。私にとっても旦那はそんな存在だった。当時仲間から落ちこぼれ扱いされ何処にも居場所がなかった私に初めて愛情と居場所をくれたのが旦那だった。お前は私と違う道を歩め。そして巫女達この男は色々と優し過ぎる性格だから気を付けろよ」


 女の守護神の頬に涙が流れる。きっと巫女達が話していた影の過去に自分の過去を重ねていたのかもしれない。そして影にも女の守護神の気持ちが痛い程分かった。女の守護神は戦いの最中、影に遠回しながら逃げろと言ってきている。多分彼女も本人にそのつもりがなくても周りについ優しくしてしまうお人好しな性格なのだろう。例えそれが敵であっても。


 女の守護神が影に向けていた剣を放棄する。

 そして背中を向け元居た場所に戻っていく。


「本当にいいのか?」


 影の言葉に背中を向け歩きながら返事が返ってくる。


「あぁ」


「そうか。お前の旦那は本当にお前の事を心から愛してたと思う。俺との戦いの中でも気が動転してたお前の方に俺の注意が向かないように常に気を張っていたからな。言いたい事はそれだけだ」


 影は何故か分からないが女の守護神には死んで欲しくないと思ったがそれは影が逆の立場だったらと考えると自然に答えが出てきたがそれをわざわざ伝える必要はなかった。それは女の守護神の背中を見ればすぐに答えが出たから。

 未來とえりかが影の両肩を抱え上げる。そして泣き崩れている詩織をまいと有香が両肩を抱え上げる。


「そしてもしお前が生きる道を選び助けて欲しい時は俺に言え。俺に出来る事なら一度だけお前を助ける為に力を貸す。これが今回俺達を見逃して貰う礼だ。俺は敵意のない相手には刃を向けない。だから後はお前の人生お前がどうするか選べ」

 影が言い終わると同時に影と詩織を四人の巫女が抱え瞳の村に向かって空を飛び飛行する。


「何で最後あんな事言ったの?」


「あぁ、それはきっと俺とあの女の守護神が何処か似てる気がしたからかな。それにあの女の守護神は最初から俺達を殺すつもりはなかったからだよ。もし本気で殺意を向けていたら有香とまいは今頃無事じゃなかったと思う。それに最後自爆スペルじゃなく上級スペルを使う事を選んでいたらあの場で俺達は全員死んでいた。つまりそうゆうことだからかな?」


 影の回答にえりかが「そっかぁ」とほほ笑む。


 影は気づいていた。あの状況下で巫女である五人が影と一緒に最後まで残る事を選択していなければ間違いなく影と一緒に心中していたことに。そんな彼女の心を動かしたのは紛れもないここにいる五人の巫女だ。だからきっと彼女も影に向けていた殺意が薄れ、自分が旦那の分まで生き残る事を決意し、ここで影を殺しても復讐こそ出来ても旦那は還ってこないとを悟った。


 そして有香とまいに対して手加減していたのは自分の敵ではないとただ見下していたからだと。見下していたからこそ自分の脅威にすらならないと思い戦闘中見逃そうとしていた。殺生が苦手な人間がいるなら殺生が苦手な守護神がいても不思議じゃない。


「なら村に帰ったらとりあえず影は療養しようね」


 未來が影に確認するように聞く。


「はい」


 珍しく素直に返事をする影に未來が「あら? やっと素直になったね」と冗談を言ってくる。


「そっかぁ。なら私達はあの女に試されていたんだね」


「そうだね」


「あの女やっぱり旦那の後追うのかな?」


「それはないと思う。俺を恨みながらも生きると思う。えりかの中で人が本当に死ぬ時ってどんな時だと思う?」


「え? ん~心臓が止まった時かな?」


「俺は大切な人の心の中で忘れられた時だと思ってる。だから男の守護神もあの女の守護神の中ではちゃんと生きているし、俺の中でもそんな人がいる」


「そっかぁ。ちなみに影が心の中で忘れられない人って?」


「俺が転生する前の日本で一緒に暮らしてた両親と姉だよ」


「なんかごめん……」


「気にしなくていいよ」


 そう影にとってこれは死んだ両親や姉に対する贖罪でもあった。

 だから皆を守る為に影は最後まで頑張れた。


 瞳の村は人類にとって初めての守護神二人相手に防衛線で勝ち、一時の平和を手に入れる。


 しかしこの平和がいつまで続くかは誰にも分からない。それでも手に入れた平和を生き残った皆がそれぞれの方法で満喫する事が出来る権利を勝ち得た。


「やっと終わった」


 影は疲れたので二人の巫女に運ばれながら、目を閉じて寝る事にする。

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龍脈の巫女達の手違いで召喚された最強の転生者 光影 @Mitukage

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