第26話 エピローグ②
「これがこの世の全ての頂点に君臨するドラゴンの姿ねえ…………」
膝の上で緩みきった表情で寝息を立てるアネモネにシェリーは何とも言い難い表情で火の番と見張りを続けた。
「リリィ、リリィったら」
アネモネが眠りに落ちてからそれなりの時間が経った頃、膝にアネモネが乗っているせいで身動きが取れないシェリーは声を抑えてリリィへと呼び掛ける。
「う…………はい…………交代ですか?」
リリィは目を擦りながら身を起こす。
「それもだけどちょっと枕になりそうな物をなんでも良いから取って貰えるかしら?」
「枕?いったい何が…………あら?あらあらこれは仲睦まじくて大変宜しいですね」
リリィはシェリーとその膝で眠るアネモネに気付き、微笑ましそうに眺める。
「見世物じゃ無いっての。それより枕代わりになる物を早く頂戴。ずっとこの体勢ってのも結構キツいのよ」
シェリーは少し顔を赤らめながらリリィを急かす。
「少々お待ちを………………これは丁度良さそうですね」
リリィは立ち上がり自分の荷物を探り、替えの僧服を取り出し丸めシェリーとアネモネの元へ行く。
「いつの間にそんなに仲良くなられたのですか?」
「知らないって。急に甘えてきて断るのも面倒だからなすがままにしてるだけよ」
シェリーは起こさない様に慎重にアネモネの頭を持ち上げ、膝を抜く。
「リリィ、それを下に入れて貰えるかしら?」
「はい」
リリィは丸めた僧服をアネモネの頭の下に挿し込もうとするが手を止めた。
「ちょっと?」
動きを止めたリリィにシェリーは怪訝な表情を向ける。
「あの、私が代わりを務めるのはダメでしょうか?」
「は?……あー、まあ良いんじゃない?リリィがやりたいなら」
「では失礼して」
リリィは持ち上げられたアネモネの頭の下へと膝を挿し入れた。
「んん………ふかふかぁ……」
ようやく頭を下ろされたアネモネは寝言が漏れ出るが目を覚ます事は無く、再び寝息を立てる。
「ふぅ、じゃあ火の番と見張りよろしく」
シェリーは立ち上がり、リリィの寝ていた辺りに寝転がる。
「うふふ、まさか偉大なる竜に御目見えするどころか私の膝を枕にして頂ける事になろうとは予想だにしませんでした」
「そんなの予想出来るワケ無いでしょ。てか竜教徒的には崇め奉ったりしなくて良かったの?それとも偉大なドラゴンに急に殺されかけたりそこの呑気に寝てるの見てそういう気は失せちゃった?」
「まさか。むしろ竜のお姿、そして象徴である竜の息吹を目の当たりにしてより信仰心が高まったのをひしひしと感じます。正直な所を申しますと今すぐにでも跪き頭を垂れて、祈りを捧げたい所ですがアネモネさんは私達を友としての関係を望まれてますので敬虔な竜教徒な上に眷属である私は主の望むままに振る舞うべきでしょう。信仰対象な上に主である方にその様な振る舞いは全く抵抗が無いという物では有りませんがより近くに侍る事が出来て私としても喜ばしい事で有りまして…………」
「ストップ、ストップよリリィ。急に早口でまくし立て無いでよ」
声量は抑えているがギラついた熱意を込められたリリィの言葉が止めどなく溢れ、シェリーは堪らず止める。
「語りたいのは結構だけど流石に眠くなってきたし大人しく寝かせて欲しいわ。あとあんまし喋ってるとそこの愛しのご主人様とついでにカインが目を覚ましちゃうわよ?」
「あ…………すいません」
からかう様に言うシェリーにリリィは顔を真っ赤にして謝る。
「ふふっ、おやすみ」
「はい。しっかりとお休み下さい」
そして目の冴えも収まり眠気が限界なシェリーは目を閉じるとすぐに深い眠りに落ちた。
そして魔物が寄ってくる事無く夜は明けていった。
「んん……」
朝日の眩しさでシェリーは目覚ます。
「おはよう。よく眠れたかい?」
「おはよ…………リリィったら一晩中あのままだったのね」
アネモネはリリィの膝に頭を預けて気持ち良さそうに寝ていてリリィの方も座ったまま寝ていた。
「アネモネ、リリィ、さっさと起きなさいよ」
シェリーは二人の肩を揺らして起こす。
「ん…………おはよう……ございます」
「ふぇ?あ、おはよう。ってあれ?なんでリリィちゃんが?」
目を覚ましたアネモネは枕にしていた膝が知らぬ間にシェリーからリリィの物へと変わっていた事に疑問を抱く。
「その…………僭越ながら見張りの交代の際にシェリーさんと変わって頂きまして。もしかして出過ぎた真似でしたでしょうか?」
「ぜんぜん!ぜんぜん出過ぎて無いよ!ありがとね、んふふ!」
アネモネはリリィが自身の為にしてくれたという事実に喜びを覚えてリリィの膝へと再び顔を埋める。
「うふふ。お褒めに預かり光栄です」
「ほら、イチャついて無いでさっさと出発するわよ」
「出発って言ってもこれから何処に向かうんだい?」
「さあ?エルビスに戻る訳にもいかないし街道を進むしか無いでしょ」
エルビスの街から伸びる街道には朝一番に街を出る行商らしき者達の列が続いていた。
「流石にドラゴンが現れたとなると商売どころじゃ無いし別の街に商売しに行くのかな?」
「着いていけば何処かの街には辿り着けそうですね」
「それなりに大きな街なら間違い無く冒険者ギルドが有るだろうしそこで冒険者稼業って感じね」
「決まりだね!次の街はどんな美味しい物があるかなぁ?」
「食べるのも程々にしときなさいよ?ほら、さっさと行くわよ」
四人は手早く支度を終えると街道へと合流し、まだ見ぬ次の街を目指すのだった。
終わり
【完結!!】人好きドラゴン街を行く。働く。眷属を得る 山本 和人 @rowazin
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