四天王最弱だと魔王軍を追放されたがもう遅い。今までお前たちの食べていた極上プリンは俺の手作りだ。土下座してきても人間たちの街に洋菓子店を建てたからもう帰らない
第34話(最終話) そしてアスティと俺、追放……なのかこれ?
第34話(最終話) そしてアスティと俺、追放……なのかこれ?
「は? もう一度言ってもらっても良いかな、王様」
「うん、だからショウタくん追放ね」
あまりに突然の宣告に、思わずタメ口になりかけた俺に周囲の側近たちが厳しい目を向ける。
だけど王様は彼らを手で静止して俺に続けた。
ちなみに王様はもうムッキムキ状態が解除されて元に戻っている。
「まあ魔族領のトスティ殿と色々協議した結果だ。こういう形も良いかもと思ってな」
「全然良くねえよ! トスティと協議したのに何でそんな結果になるんだ!」
「ん-、まあちょっとした贈り物みたいなもの?」
「全然贈り物になってねえ!」
「ちなみに
「はあああああ!? 何を考えてやがるんだトスティの奴も!! もういい、直接魔族領へ行ってトスティをとっちめてくる!!」
「ああそうそう、王都入り口の辺りに魔王殿が待っているはずだぞ」
「そうかよ! だけど礼は言わねえぜ!」
その言葉を最後に、王様に背を向けて走り出した俺。
だから王様の静止の声も聞こえなかったし、その後に言ったセリフも聞こえなかった。
「だから気兼ねなくアスティ殿と新婚旅行気分を楽しんできたら良い……というのは聞こえてないか」
*****
「おおショウタ、なんか私は魔族領を追放処分になってしまってな。トスティたちがここでショウタを待つように言ってきたのだが……」
王都の城門入り口に来たときには、赤毛の女魔王からそう声をかけてきた。
俺はアスティの姿を確認するとすぐに手を掴む。
「おお、この前の帝国との戦争が終わってから積極的だなショウタ。こういうのも悪くはな──」
「ちょうど良かった! 今すぐ魔族領のトスティのところへ一緒に行くぞアスティ!」
「……? 分かった」
そのまま彼女の手を取り、呼び出しておいたシュネーバレンの背中に二人で乗り込む。
全速力で魔族領へ
「こうして二人きりで空中を散策するのも良いものだな、ショウタ!」
そう言いながら後ろに乗り、俺の身体に手を回すアスティ。
ちなみに、彼女のその言葉と背中に当たるオッパイの感触に、思わずニヤけてしまったのは内緒だ。
*****
「いや、それはトスティ様だけでなく魔族領の者の総意で決まったことよ、ショウタ」
トスティに会う前にカロンに出くわした俺たち。
彼女もまた、さも当然のように言った。
「はぁ!? なんでそうなるんだカロン!!」
「何故といわれてもね。状況を考えたら当たり前でしょ?」
「アスティが追放されるのが当たり前の状況なんてあるかよ!」
「公務を放り出した挙句に帝国に捕まった事。帝国の皇子がバラしたように、女であることを隠していた事。その二つが大きな理由ね」
「なんだと! それは両方とも……」
「む、確かにそれを持ち出されると私は弱いな」
「いや、納得するなよアスティ!」
「──というのは表向きの理由。いわゆる
「……建前?」
ようやく頭に上った血が引いた。
そういやパティスリー王も、俺が駆け出してから何か叫んでたな。
まぁそれでも俺は、魔族領から追い出された時を思い出して不機嫌さが隠せなかったけど。
カロンは人差し指を立てて、子供に言い聞かせるように説明する。
くそ、今さっきまでの俺の状態を考えたら文句が言えねえ。
「ただ単にお休みを取ってもらっただけだと、先日のように捕まる可能性が高いのが分かったでしょ? だから建前としての『追放』処分が必要なのよ」
簡単に牢屋から抜け出せる状態を、捕まったって言うんだろうか。
だけどそんな考えを一旦どけて、俺はカロンに実務的な疑問。
「いやでも俺が四天王を抜けた上に、アスティまで居なくなったら……」
そこへ代紋先生が、助手の看護師を連れて通りかかった。
先生は疲れた顔ながら、笑顔を見せてこっちへ来る。
「おおショウタくん。大変申し訳ないが、魔王殿を頼むよ。やりたくはないが、君の抜けた四天王の穴は私が埋める事になったからな」
「え? でも先生、あんなに四天王になるのを嫌がっていたのに……」
「仕方がないだろう、状況が状況だ。大変だが何とかこなすさ」
そう言った後で代紋先生は、俺の肩を力強く──強過ぎるぐらいの力で掴んだ。
ガシッ。
疲れて血走った目を俺に向けて。
「だからショウタくんも何とかやりたまえ」
「え? そりゃまあアスティを助けられる部分は助けますけど、どちらかというと助けられる場面が多くなりそうな……」
ガシッ。
今度は反対の肩をカロンに掴まれた。
アスリートな雰囲気ながらも、端正なルックスの彼女が作った笑顔が目の前に迫る。
なぜか青スジが額に浮かんだ、鬼気迫る表情で。
「だ・か・ら、私たちがここまでやるんだからアスティ様をよろしくね。仲良くよろしくヤってねって言ってんの……!」
ど迫力の二人に挟まれた俺には「はい」と返事する道しか残っていない。
二人の後ろには、腰に手を当てて首をかしげているアスティ。
カロンと代紋先生が離れると、俺も首を傾ける。
「だけどよろしくったって、今さら……」
「「いい加減くっつけって言っとんのじゃあああああああ!!」」
カロンと代紋先生がハモりながら叫んで、俺の背中を蹴飛ばした。
アスティのほうへ。
受け止めたアスティは、俺の身体をしっかりと抱き寄せる。
ぴとっ。
「ふむ。ショウタとくっついたが、これで良いのか?」
代紋先生とカロンの二人はガックリと肩を落とした。
おもくそ疲れた声でカロンが返事。
「はぁぁぁ……。もう今はとりあえずそれで良いです。一緒に旅して仲が進展するのを祈りますよ、魔王様。いえアスティ様」
*****
「新しい鎧はどうだ、アスティ?」
隣の赤毛の女魔王に──アスティに声をかける。
彼女は腕を軽く振りながら答えた。
「うむ、全く問題ない。色以外は同一の材質とデザインだからな」
マントの下の銀色が
アスティが来ている鎧は、以前着ていた黒い鎧のスペア。
仕上げの色塗りがまだだったが、アスティの正体を隠すには丁度良いからって。
あの後になって、彼女の弟のトスティが持ってきた。
トスティの後ろには、俺をザルツプレッツェルの元へ案内してくれた工作員の3人組の姿。
相変わらず親指立てて歯をキランと光らせながら笑っていた。
なんでもアスティが抜けた穴は、この3人で埋め合わせが出来るらしい。
いつも疲れた顔をしていたトスティが「いつ居なくなるか分からない姉上よりも、常にアテに出来る彼等のほうが精神衛生上助かる」と晴れやかに言っていたのが印象的だった。
そのすぐ後に、アスティにチョップを頭に喰らって涙目になっていたけどな。
鎧を着替えて流浪のイケメン剣士にクラスチェンジしたアスティを連れて、パティスリー王国へ。
客への対応も随分と慣れた感じのドノエルに、店の
アスティの事には、奴はずいぶん驚いていたっけ。
どうやらドノエルにだけは、アスティ追放はもう少し後でやると伝えられていたらしいな。
魔族領の連中は、俺が店を抜けるついでにドノエルとシーちゃんを……シードルをくっつけようって腹づもりらしい。
「お姉様をよろしくね、ショウタ」
「お前もドノエルをちゃんと捕まえろよ。あいつ、真面目過ぎて恋愛には鈍いからな」
「ショウタもね」
「なんで俺もなんだよ」
マジマジと俺を見つめるシーちゃん。
ため息をつくと疲れたようにこぼした。
「他人の事はそこまで敏感に察するのに、お姉様の事だけはどうしてこうも鈍いの……」
「はぁ? アスティは俺のプリンを食べてくれる大事なお得意様だ。ちゃんと分かってるよ」
「そうだぞ。ショウタは私のために美味しいプリンを作ってくれる最も大事な人だ」
アスティと俺の返事に、ものすごく長いため息をもう一度つくシーちゃん。
なんでそんな反応なんだよ。
「はああああぁぁぁぁ……。もう今はそれでいいわ。気を付けて行ってきてね」
なぜかカロンと似たような言葉で送り出された。
*****
「さて、とりあえずは何処へ向かおうかショウタ」
「帝国へラクリッツや戦後の様子を見に行くか、それか他の国を見て回るか。まあ次の分かれ道までゆっくりと考えようアスティ」
「それもそうだな」
パティスリー王国から出る街道を、アスティと並んで歩きながらそう会話する。
空は青く晴れて鳥のさえずりが気持ち良い。
シュネーバレンに乗せてもらえば移動は早いが、特に今のところ急ぐ目的も無い。
魔族領へ向かった時まではね。
さすがにあんまりタクシー代わりに使うのも可哀相だし。
『そのような気遣いは無用ですぞマイマスターショウタ。貴方のプリンの為なら、たとえ火の中水の中と言うやつです』
相変わらず忠誠心があるのか無いのかよく分からないシュネーバレンだ。
まあそんなこんなでブラブラと歩いていた俺たち二人に、後ろから声がかけられた。
振り向くとそこには、なんと旅装束のマシュウ王女の姿。
「や、やっと追いついたわ。私も一緒に行きます」
「はぁ!? 国の王位継承権持った人間が何を言ってんだよ!」
言いながらマシュウ王女が来た方向を見ると、御者席にお付きの人が乗った馬車の影が。
そのお付きの人は深々とこちらに頭を下げた。
マシュウ王女はそのお付きの人の行動を知ってか知らずか、ケロリとした顔で俺に答える。
「王位継承権なら放棄してきたわ」
「なに言ってるんだ。そんなの簡単に放棄できる訳ないだろ」
「パティスリー王に頼み込んで許可をもらったから大丈夫よ。『前向きに善処する』って言ってもらったもの」
マシュウ……それ王様は許可したんと違うで。
彼女、案外と変なツボを買わされるタイプだったか。
アスティが俺に耳打ちする。
「ショウタ。『前向きに善処する』とは何もしないと同義の権力者用語だったはずだが……」
「今は何も言わずにいてやろう、アスティ」
俺も小声で答えた。
マシュウはそんな俺たちの様子に気付いているのかいないのか、ウキウキと話しかけてくる。
「あれからね、色々と考えて自分の気持ちに正直に生きようって決意したのよ。それで考えたら、やっぱり私はショウタについて行きたいって」
「いやでも俺は……」
「いいの、ショウタの気持ちは分かってるわ。これは、貴方がアスティさんを好きでも、それでもついて行きたい私のワガママ」
「ん? アスティは俺のプリンを美味しそうに食べてくれるお得意様だから確かに好きではあるけど……」
「そうだな、ショウタは私にプリンを作ってくれる最も大事な人だ」
マシュウが妙な表情をした。
そして恐る恐るといった様子で俺たちに訊ねる。
「えっと、この前の帝国との戦争で二人は恋人同士になったんじゃなかったの……?」
「恋人!? いや、そんなんじゃない気はするな」
「恋人というのは、もっと何というかこう……ベタベタしているものでは無いのか?」
俺たち二人の返事を聞くと後ろを向いたマシュウ。
ぐっと握りこぶしを胸の前に持ってくると「よし、まだ私にもチャンスが!」と呟いていた。
なんのチャンスだろ。
首をかしげながらアスティを見ると、彼女も首を傾けてマシュウを見ていた。
「じゃあ出発しましょう、二人とも! 旅は
そう言いながら俺たち二人の前を小走りに駆けていくマシュウ。
いや自分で傷だらけって言っちゃうのはなんかダメだろ。
アスティがそんな彼女を、シーちゃんを見るときと同じ目で見ている。
まるで憑き物が落ちたようにって言うやつだろうか、子供の様に走るマシュウ。
アスティが両手を口に当てて彼女に叫んだ。
「おおい、そんなに走ると石に
言ったそばからマシュウは躓いてこけて、顔面から地面にダイブした。
青く晴れた空の下、鳥が相変わらずピーチク鳴いていた。
四天王最弱だと魔王軍を追放されたがもう遅い。今までお前たちの食べていた極上プリンは俺の手作りだ。土下座してきても人間たちの街に洋菓子店を建てたからもう帰らない きさまる @kisamaru03
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