第33話 次回が最終話って本当ですか?

「なるほど、姉上が私に会えと」


 魔王アスティの双子の弟は彼らにそう返した。

 それまでせわしなく執務机で雑多な書類に目を通していた魔族の男。

 彼らの姿を確認するために眼鏡を外したその顔は、なるほど赤毛の女魔王と瓜二つだ。

 帝国からの離脱を決めた工作員3名の、トスティを見た第一印象がそれだった。


 国の重鎮が、わざわざ仕事の手を止めて自分たちの姿の確認をしたのだ。

 この面接の結果は良好な可能性が高そうだ。


 実際、髪の色が青い以外はアスティとそっくりなトスティは、机に肘をつくと両手を組み合わせて彼らに語り始めた。

 少しうつむいて、組んだ手で口元を隠して表情を抑えているのは警戒ポイントだが。


「君たちは帝国の“裏方”仕事をしていたらしいな。さぞかしな事をやってきたんだろう」


「……そりゃまあ」


「ぶっちゃけ、下らない雑用から人様にはおおっぴらに言えない事までやりましたね」


「恐ろしく鋭い指摘。俺でなかったら逃げ出しちゃうね」


 魔王の双子の弟は、ため息をついて彼らに呟く。


「ある意味、いい機会に来てくれたよ。ちょうど私を手伝ってくれる人材が欲しかったところだ」


「「「おお!」」」


「姉はああ見えて、意外と人を見る目は確かだ。とりあえずは信用させてもらおう」


 工作員の男たちは、その言葉に逆に少し不審になった。

 いくらなんでも上手く行き過ぎてないか、と。

 しかしトスティの疲れ切った顔を見て、考えを改めた。


 ──本当に猫の手も借りたいぐらい人手不足なんだろうな。


「何となく察してはいるだろうが、魔族はこういった裏方の事務仕事が苦手な者がほとんどでね。君たちなら書類仕事もこなしてもらえそうだ」


「なるほど、俺たちをあっさり採用してくれそうなのは、それも理由ですか」


「まあな」


「しかし、貴方が見ている書類は、魔族領の超極秘情報レベルのものも多いはずだ。突然押しかけた俺たちに簡単にさわらせて良いんですかい?」


「言っただろう? 姉上の見る目を信じるとな」


 いくらなんでも、お人好し過ぎるのではないか。疲れているとはいえ。

 そう思った彼らに、黒い下心したごころが芽生えた。

 適当に機密情報を他国に流すのもありかもな。


 彼らは悪人というほど極悪人ではないが、清廉潔白な善人でもない。

 ましてや工作員など、純粋な気持ちだけでやっていけるはずも無い。

 魔族領の中枢に食い込んで、そういった秘密を手に入れる事を考えるのもある意味当然だった。


 だが──。


「姉上の人選だから大丈夫だとは思うが……。君たちの仕事ぶりはよ」


 そう言いながら、ゆっくりと俯いていた顔を上げたトスティ。

 かけていた丸眼鏡に光が反射して、その目が見えない。考えが読めない。

 そして口元には、彼らの心を芯まで凍りつかせるような酷薄な笑み。

 それを見た瞬間、彼らは滝のように冷や汗を流して地面にひれ伏した。


 ──考えが全て見抜かれている! 駄目だ、この人には勝てない!!


 恐怖に襲われながら、地面に頭を擦り付ける彼ら。

 脳裏には、その思考だけしか浮かんでいなかった。


「「「宰相トスティ殿の御眼鏡おめがねかなうよう、粉骨砕身、働かせていただきます!」」」


 声を揃えてトスティに忠誠を誓った。

 やはり魔族の采配を行なっている人物だ、只者ただものではなかった!


 しかし彼らは知らない。

 トスティは特に他意なく微笑ほほえんだだけだという事を。

 そしてその笑顔が、とても相手に警戒心を与えやすいという事を。


「そうかしこまらなくてもいい。、な」


「「「トスティ殿の御心みこころのままに!」」」



 有能宰相として有名な魔王アスティの双子の弟トスティ。

 その笑顔が誤解を与えやすいことでも有名な男である。



*****



「ふうん、短期間でここまでの物を作れるようになったとは、さすがはドノエルだぜ」


 店の厨房での俺の称賛に、目の前の青い肌のイケメン魔族は嬉しそうに笑った。

 表のシーちゃんが、妙に熱い眼差まなざしで見つめているが、気にしないでおこう。

 なんか「ショウタ×ドノエル……新しい世界を発見したかも」とか聞こえたけど、無視だ無視。


「ダイモン先生が蒟蒻こんにゃくプリンなら問題ないと言ってくれたからな。バウだけでなく、俺もプリンは食べたいのだ」


「この品質と味なら、俺の店で問題なく商品として置けるぜ」



 ドノエルが菓子作りの修行にと俺の店に来たのは、帝国との戦後すぐだった。

 魔族領でも隠れて練習していたらしく、その腕はあっという間にプロレベルに。

 俺、ちょっと自信無くしちゃうかも。


 最初こそ角が生えて肌の青い魔族を気味悪がっていた店のお客様。

 だけどそこはやっぱりイケメンパワー。

 ニッコリ爽やか笑顔のイケメンスマイルを見せたら、あっという間にご婦人たちのファンクラブが出来てしまった。


 正直、店の売り上げが相当伸びた。

 そしてその売り上げ元は、全てドノエルが作った菓子。

 くっそう、やはり世の中は顔が全てなのか!?


 ボクもう不貞ふてくされて隠居しようかな。

 ドノエルも店を任せられそうなぐらい実力をつけてきたし。

 あ、そうだな丁度いい。

 シーちゃんの恋をかなえる為にも、ドノエルとシーちゃんを一緒にいさせた方が良いじゃん!


 菓子作りをテキパキとこなすドノエルを見ながら、そんな事を考えていた俺。

 そんな時、当のシーちゃんが声をかけてきた。


「ショウタ、お城から王様の使者がきてるわ。すぐに来て欲しいって」


「うん? なんだろう、品評会を放り出してアスティを助けに行っちゃった事のお叱りかな」



*****



 玉座の前に来た俺は、王様が放ったその言葉を聞き間違えたかと思った。

 だから俺は王様に聞き返す。


「は? もう一度言ってもらっても良いかな、王様」


「うん、だからショウタくん追放ね」


 実にあっさりと俺に返答した王様。



 え? これ次回が最終話って聞いたんですけど!?



*****



注)ホントに次回が最終話だよ

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