番外編 アンジーからのクリスマスプレゼント

 この世界では関係ない話なんだろうけど、12月25日といえばクリスマスというのが、前世でのイベントなわけでして。

そう、イベントなのだよ。新年は神社で、葬式はお寺で、ハロウィンに仮装して、クリスマスにはケーキ食べて騒ぐ日本人でしたが何か。


 ということでして、庭師でもありアンジーの義理祖父にもなったナサニエルじいちゃんに、こんな木ないかな?と、もみの木を尋ねてみやんした。


 「うーむ。似たような木は、あるんじゃが……、それほど大きいとなると少し危ないですな」

「えっ、危にゃい?」

「そうです。葉が針のようでしてな。工夫すれば矢として使えて、ウサギ程度のものであれば仕留められます」

「そんな危にゃい葉っぱは困るにょ」

「アンジェリカ様は、この木を何に使うのでしょうか」

「飾り付けて置いておくにょ」

「ふむ。それならば、使えそうな木をワシが探しておきましょう」

ほんちょ本当!?あ、でも、25日までに欲しいにょ」

「かしこまりました。ジィにお任せください」


 よしっ!木の確保はナサニエルじいちゃんに頼んでおけば何とでもしてくれるでしょ。


 あとはー、クリスマスといえばケーキよね。鳥の丸焼きはイマイチときめかないから、フライドチキンが良いかな。骨付きの大きいやつ。

ということで、料理関係は、ハンフリーにお任せ!


 「あのね、ハンフリー、お願いがあるにょー」

「はい、このハンフリーにお任せくださいませ」

「あ、うん。お願いしましゅ(まだ何も言ってないんだけど……、まあ、いいや)」


 ヤル気満々なハンフリーに、25日にパーティーしたいから、赤と白のケーキと、切り株を模したケーキ、骨付きの大きなフライドチキン、フライドポテト、その他お任せでパーティー料理と飲み物を頼んだ。

飲み物は炭酸系を中心に、大人用にお酒もお願いしておいた。


 次は、プレゼントだよね。

別に私が貰えなくても、皆に配りたい。


 というか、もみの木をクリスマスツリーにして、その下にプレゼントたんまり積んであるの見てみたくない?

アンジーは見たいです!!


 アンジーの邸宅となったアッシュフィールド公爵家別邸には、使用人とその家族もいるから、用意するプレゼントの数は相当なものになる。


 そして、こんなオモシロ楽しいことにお兄様を呼ばないとスネる可能性もあるから、きちんと招待状も出すことにした。

練習したから、ちゃんと書けるで?

 もちろん招待状には、ママとパパの名前も書いてありまっせ。


 でも、年の暮れに婚約者とはいえ家族以外を呼ぶのは非常識とされているので、お兄様の婚約者ジョゼフィーヌ様には招待状を出していないの。

まあ、冬で道路環境も悪いし、寒いからね。仕方がない。プレゼントだけ用意しておこう。


 さて、と。

プレゼント買いに行こうかと思っていたら、クリフが血相変えて文字通りドラゴンに乗って飛んで来た。


 「ねぇ、アンジー!!何で私には招待状がないの!?」

「何でって……、旦那なんだから、あるわけないじゃん。招待する側でしょ」

「あ……、えっ、そうか。ははっ、なんだ、そっかー」

「帰って来たなら、ちょうど良いや。買い物行くから付き合って」

「奥様の仰せのままに」


 照れるから、やめろ!

くそぅ、キラキラのアイドル系イケメンめ。私が照れるの分かっててやってるな。


 お小遣いは、たんまりあるので、色んなお店を回って吟味しつつ、様々な品をお買い上げ。

一つの街だけでは足りないので、公爵領を回って調達していくんだけど、やっぱりドラゴン便利よね。


 ドラゴンには、ティー君も乗れるので、護衛がてら一緒に来てもらったんだけど、まあ、普通に荷物持ち要員ですな。

街の入り口にてドラゴンから降りて、そこからレンタル引き車に乗って買い物に回り、ある程度買ったらティー君がドラゴンのところまで運んでくれるのだよ。

 気球のカゴみたいな感じで、ドラゴンが荷物の積まれた箱をぶら下げて帰ってくれるから、何往復もする必要なくて楽チンだよね。


 無難に男女別のオシャレな手袋、マフラー、モコモコな温かそうなマント、カバン、あとは文房具。

女の子用に髪飾りなどのちょっとしたオシャレ品、男の子用にハンフリーシリーズをご用意いたしました!


 子供サイズのハンフリー剣、ハンフリー盾、スペシャルバージョンにハンフリーなりきりセットも買いました。

いや、私が欲しいわ!!


 クリスマスに仮装はいらんかもしれんけど、ハンフリーなりきりセットを着て過ごそうかな。

よし、そうしよう!!楽しみ〜!


 山ほどのプレゼントの一つ一つに番号のふだをつけて、パーティー参加者には、番号が書かれた紙が入った箱から、1枚だけ取ってもらうの。

つまり、プレゼントはくじ引きで、何が当たるか分からないんだな。


 欲しくないものとか、使えないものが当たったら、それを誰かと交換してもらうも良し、まあ、売っちゃっても良いけどね。

それは、貰った人の自由だけど、交換の強要だけは許しまへんで!


 たんまり買って来たプレゼントの札付けは、私一人じゃ無理ってことで、ここは精霊王妃のイヴァちゃんにお手伝いいただきましたとも。

ちんまい人型の精霊がわちゃわちゃとプレゼントに群がって、札を付けていってくれた。ありがたや、ありがたや。


 お礼にハンフリーお手製クッキーをあげたら、自分の身体ほどの大きさのクッキーを美味しそうにひと口でパックンごっくん!しよったで。

噛めや。ちょっとは味わえ。君たちの口はどうなっているのかね?


 まあ、精霊に言ってもしゃーないからね。

お好きにお食べ。


 あとは、クリスマスツリー用の飾り付けだね。

電飾なんてどうすれば良いのかイヴァちゃんに相談してみると、小さな精霊に頼んで光ってもらえば良いと言われた。


 人型じゃない精霊たちを呼んで、木にくっついて1日だけ光っていてもらうことが可能だそうで、対価はお菓子で良いとのこと。


 マジか。精霊便利やな。

属性によって違う色に光るので、イイ感じになりそうだけど、朝から晩まで光っていてもらうのは申し訳ないので、日が暮れてきてからでいいかな。


 「まあ、そんなことをやらせられるのは、私くらいのものだけれどね」

「あ、それもそっか。あとの飾り付けは、真っ赤なリボン、メタリックなボール、天辺テッペンの星、……モール?あれって何で出来てるんだろう?」


 ターナに何かないか聞いたら、お針子さんを呼んでくれて、そのお針子さんが、「このような感じで、いかがでしょうか?」と、金色の糸でモールを作ってくれた。


 すげぇー……。ふわふわ感マシマシの金色モールできちゃったよ。

クリスマスツリーに飾るとなると、かなりの長さが必要になるけど大丈夫か聞いたら、問題ないと嬉しそうに笑顔で言われちゃった。


 何やら私がパーティーの準備をしていて、それを楽しみにしているのと、それの準備に参加できるのが嬉しいらしい。


 庭師隊がクリスマスツリー、お針子隊が金色のモールと赤のリボン、調理場はパーティー料理、メイドはパーティーに使用する大広間の準備と、皆が一丸となって手伝ってくれたんだけど、寂しそうな顔をした厩務員たちの視線を感じた。


 ……そうか。手伝いたいか、そうかそうか。

ふふふ……、ならばやって貰おうではないか!!


 厩務員さんたちには、サンタさんが乗る真っ赤なソリを作ってもらうことにした。

ハンフリーなりきりセットを着たアンジーちゃんが乗ってサンタになってあげましてよ!ふふんっ。


 ソリをひくのは、ブニャという生き物。シャンシャンと鐘の音が鳴っても全然問題ないらしく、鐘をぶら下げても良いんだってさ。

身体は犬系、耳は熊系、顔は牙が怖ぇ感じのにゃんこフェイスで、寒さに強いそうな。


 そうこうしている内に、ナサニエルじいちゃんがクリスマスツリー用の木を用意してくれた。

3mほどの高さのモッサリしたクリスマスツリーに相応しい深緑の木だった。


 「うわぁっ!さすが、ナサニエルじいちゃん!!ありがちょー!!すごいすごいっ」

「うむ……。間に合って何よりだ」

「うんうん、ありがちょー!ナサニエルじいちゃんもパーティーに参加しちぇね!」

「うむ」


 いかめしい顔で照れられると萌えるね。


あー、ナサニエルじいちゃんの孫であるクリフも歳をとると、こんな風に……ならんだろうなぁ。クリフだし。


 大広間にクリスマスツリーを運び入れてもらい、お針子隊が作ってくれた金色のモールと赤いリボンを飾っていったんだけど、メタリックなボールがなくても大丈夫そう。


 というか、リボンがデコレーションされていて派手だった。

さすが公爵家のお針子隊。上品で派手なのは、お手の物でした!


 天辺テッペンの星は、厩務員の兄ちゃんが作ってくれたんだけど、普段は蹄鉄みたいなヤツとか、馬具みたいなヤツの、主に金属部分の整備をしているそうで、金属加工は得意だからと、打ち出しで素敵な模様まで入れてくれたんだよ!

公爵家の使用人すげぇーな。なんでもアリだね。


 クリスマスツリーの根っこ部分は、大きな箱で囲われていて、その囲いも装飾されて素敵になっていた。

さすがナサニエルじいちゃん。私好みのメルヘンチックな仕上がりにしてくれたよ。


 ここから先は私とイヴァちゃん以外は、大広間への立ち入りを禁止としまして、当日までのお楽しみでっせ!


 ツリーの周りに真っ赤なカーペットを敷いて、そこにプレゼントをてんこ盛りに置いていくんだけど、当日のお楽しみにしたいので、私とイヴァちゃんだけで並べて行く。


 ……お、終わらねぇでやんす。

どれだけ買ったんだ、私。


 「ねぇ、アンジー。人数よりも贈り物の方が多いわよ?倍近くあるんじゃないかしら?」

「そんなにあったにょ!?いや、でも、最後の人がポツンと1個だけ残ってるやつになるのって、何か楽しくないじゃん?くじ引きの意味もないしさ」

「そういうものなの?まあ、アンジーが楽しいなら、それで良いわよ〜」

「並べるのは大変だけど、当日を思うと楽しいにょ!」

「ふふっ、そうね」


 残ったのは、本邸や王都邸の方にも配れば問題ないでしょ。

その場合は、プレゼントを追加しないといけないだろうけど、それはそれで、また楽しいだろうし。


 さてさて、「私、何でこんなことしてんだろう?」と、たまに遠い目になりつつ、プレゼントの山を築き、12月25日のクリスマスイベント当日を迎えました!

アルジャーノンお兄様とママ、パパは、前日にこちらに着いておりますよ。


 さすがに使用人を全員、大広間に集めるわけにもいかないので、時間で区切って交代で楽しんでもらうことにしたため、パーティーの開催は朝食からのスタートというトチ狂った時間から始まりました。


 にーーーっこり笑って青筋立てたパパから、「どこに朝っぱらからパーティー始めるアホがいるのかな?うん?」と、言われた。


 「ここにいるにょ」

「茶会が昼、パーティーも場合によっては昼、もしくは夜だ。で?今は何時だ、アンジー?」

「朝の8時だね」

「まあまあ、あなた。朝食の時間でございますし、この時間に起きていないのは、夜番の者だけですわ」

「またそうやってローズはアンジーを甘やかす!」

「父上、料理も冷めてしまいますし、始めましょうよ」

「……はぁ。わかったよ」

「コホン。えーと、お集まりの皆様、楽しんでいっちぇねぇーーー!」

「もっとちゃんとした始まりの挨拶があるだろうが!?お前は何を学んでいるんだ!!やっぱり教師を増やすぞ!!」


 あっかんべぇーーーだ!

いや、実際にはやらないけどね。やったらローズママに笑顔で「ん?」て首を傾げられるからね。ママが怒ると怖いのよ?

 だから、普段はママが怒らない線を見極めて、やっております!!


 というか、始まりを公爵家御一行様が堪能しないと、使用人たちは参加できないし、夜にはメインイベントをするつもりだから、そうなると、使用人たちは立ち食いそば並な参加時間しか確保できなくなってしまうからね。

そう思って朝っぱらからの開始でござーます。


 朝の部は、軽めのラインナップで、温かいスープやドライフルーツを織り込んだデニッシュパン、サラダ、オムレツ、カリカリ厚焼きベーコン、デザートはフルーツの盛り合わせ。

他にも色々あるけど、何が何か説明できない物もあるからさ。説明を聞こうにもハンフリーは調理場にいるし。


 食後は、子供優先、レディーファーストということで、お兄様、ローズママ、パパの順にくじ引きをしてもらい、その番号札がついた品物をプレゼントの山から探してもらいました。

宝探しみたいで何気にパパも楽しそうだったのには、ちょっと笑った。


 お兄様は、縦1m直径50cmの特大お菓子詰め合わせ。ローズママは、カラフルな羽がてんこ盛りな可愛らしい髪飾り。パパは、ハンフリーなりきりセットを当てよった。よっ!大当たり!!


 「……アンジー、これは何なんだい?」

「ハンフリーなりきりセットだにょ!大当たりだにょ!!よっ、さすが公爵家ご当主様っ」

「いや、……うん。もう何も言うまい。というか、はやし立てるんじゃない!下品だぞ!!」

「はーい。でも、それ、子供用なにょ」

「ああ、うん。大人サイズでなくて何よりだよ」

「成人しているアルお兄様では、着られませんからね。どうしましゅ?」

「そうだね。……アンジーは?」

「持ってるにょ!」

「だよね、そうだよね」

「では、父上、その贈り物は僕に頂けませんか?子供が生まれて大きくなったら着せてやりたいので」

「いや、そのときにまた買えば良いだろう?」

「せっかくアンジーが用意して、父上が当てたのですから。思い出を大事にしたいのです」

「……そうか。わかったよ。アンジーも、それで良いか?」

「いいにょー!」


 ということで、朝の部は終了。

昼食は、普通に食堂でいただく予定なので、その間は使用人たちが大広間で食事と、くじ引きを楽しんでもらう予定です。


 アッシュフィールド公爵家御一行様が退出したので、次はティー君、メイドのターナとミザリー、護衛のジュディス、ナサニエルじいちゃんにも参加してもらった。

執事のゼクスや侍女長のキャスリンとかは、夜には参加できるみたい。


 ティー君は、デニッシュパンにジャムをごっぺり塗ってベーコンを挟んで食べてるんだけど、それは美味しいのかい?ピーナッツバターは用意してないけど、持って来てもらうかい?


 楽しそうにワイワイと食事をして、皆にもくじ引きをしてもらった。

ティー君には、彼のお母さんであるアイヴィー王妹殿下と、伯父であるアーヴァイン陛下の分も引いてもらうことにした。


 クリフもくじ引きしたかったら、しても良いけど、主催者側だからね?

手伝いは買い物に付き合ってもらっただけだから、ピンと来てないかもしれんけど。


 「ティー君、先に引いておいで〜」

「はい、アンジェリカ様」

「クリフも引く?」

「いや、私はいいよ。楽しそうだけど、主催者側だから」


 主催者側だから、のところでメッチャ嬉しそうな顔するよね。

はいはい、夫婦だと言いたいんでしょ?まったく惚気やがってって、これは私も含まれるのか。


 ティー君は、黄色とオレンジ色の鮮やかなマフラー、黒に近い紫色をしたベルベットな感じの男性用手袋、アンジーチョイス袋を当てた。


 アンジーチョイス袋には、日持ちするハンフリーお手製クッキー、ハンフリーの調理服シリーズ人形、ハンフリーのミニ肖像画にはハンフリー直筆で名言が書かれております。

もちろんハンフリーには、きちんと了承を得ているし、謝礼も後日お渡しする予定です!


 ちなみに謝礼は、ハンフリーなりきりセットを着たアンジーちゃんとハンフリーのツーショット肖像画を描いてもらうことなのだよ!

これは、私にもご褒美になるんだけど、ハンフリーはこれがいいらしい。照れるぜぃ!


 アンジーチョイス袋の中身を知って白目になった、ハンフリーの娘である護衛のジュディスは、ミザリーに肩をたたかれていた。


 ターナは、大人ピンクの上品な手袋で、ミザリーは特大お菓子詰め合わせ、ナサニエルじいちゃんは黒のマントだった。


 うむ。使えそうなものが当たって良かった良かった。

そう思っていたら、ジュディスが突っ伏した。


 「うっ……、うぐっ、なぜにコレ……!!」

ディージュジュディス、どうしたにょ?」

「あ。アンジー、ジュディスさんが当てたのアンジーチョイス袋じゃないかな?」

「どれどれ?……おおっ!ハンフリー人形フルセットではにゃいか!これ1個しか用意してにゃいんだよ!すごいにゃ、ディージュジュディス!!」

「いや、さすがにコレは、あんまりじゃないかな。ああ、じゃあ私が引いてみて、それと交換しませんか?」

「クリフォード様、よろしいのですか?」

「うん。いいよね、アンジー?」

「いいにょー!」

 

 そしてクリフが引いたのは、ハンフリーなりきりセットだった、なんてこともなく、無難な文房具でした。

クリフにハンフリー人形フルセットはどうするのか聞くと、末の弟にプレゼントするとのこと。


 ああ、アルジャーノンお兄様の執事になるべく頑張ってるんだっけ。

実家で修行中で、まだアルジャーノンお兄様のそばには、いないらしいんだけどね。


 ということで、楽しく過ごし、他の使用人さんたちも入れ代わり立ち代わりで、大広間へとやって来て、食事を堪能し、持ち場に戻る前にくじ引きをしていっていた。

使用人さんたちの子供には、私たちが昼食の時間にパーティーを堪能してもらうことにしたんだけど、目をキラッキラ輝かせていたんだってさ。


 あとでその様子を聞いたら、プレゼントの山は飾りで中身があるとは思ってなかったらしく、しかも、くじ引きでそのうちの1個が貰えるとあって大興奮だったとか。

ちょっと見てみたかったなー!とは思ったけど、主人アンジーと使用人の子供とでは、明確な線引きがあるため、直接会うことは出来ないんだよね。


 まあ、コッソリ見に行っても良かったんだけど、楽しんでもらいたいから、気を遣わせるようなことはしないでおいたよ。


 クリスマス仕様ではない軽めの昼食を終えまして、なんだかんだとお喋りしているうちに、時間は日没近くになったから、ドレスアップして大広間へと移動しました。


 クリスマスケーキは夜の部に出して欲しいと頼んであったんだけど、あれ何でっしゃろか?

どう見てもケーキではなく巨木の切り株がズドーン!と置いてあんねんけど。見間違いか?ブッシュ・ド・ノエルを思い浮かべていたんだけど、何故にリアルに切り株が置かれてるんだろう?


 「アンジー……。あの切り株は、なに?」

「アルお兄様、アンジーにも分からにゃいにょ」

「アンジェリカ様」

「あっ、ハンフリー!あれ、なぁに?何で切り株!?」

「切り株を模したケーキとのご指示でしたが、私の聞き間違いだったのでしょうか?」

「あれケーキなにょ!?」

「ケーキでございますよ」


 マジか!?ブッシュ・ド・ノエル的なものを想像していたけど、そういえばブッシュ・ド・ノエルってまきだっけ?倒木だったかな?何だっけ、あれ。

というか、この世界の人たちはブッシュ・ド・ノエルなんぞ知らんわな。切り株って私が言ったから、そうなったんだよね。すまぬ。


 「ううん!!あまりにも大きかったのと実際に切り株が置かれてるのかと思ってビックリしただけ!ありがちょー、ハンフリー!!」

「もったいなきお言葉にございます、アンジェリカ様」


 切り株ケーキの土台はバームクーヘンみたいな感じだね。周りはチョコレートかな?

赤と白のケーキは、白のクリームを塗って、赤色のフルーツでデコレーションされていて華やかだったんだけど、3段重ねなのでウェディングケーキみたいに見える。


 骨付きのフライドチキンは?と思って探してみると、確かに見覚えのある形で美味しそうなんだけど、大きさが1mは超えてるよね?どうやって揚げたんだろう?デカくねぇっスか?


 表面をサッと焼いて蒸し焼きにしてから、衣をつけて揚げてあるそうで、表面はカリカリで中はジューシーになっているらしく、使っているお肉はレッサードラゴンとのこと。鳥にしちゃあデカイなとは思ったけど、ドラゴンにしては小さいよね。

フライド……ドラゴン?とんぼ?あれは、ドラゴンフライだっけ?目回したら頭落ちるねんで。ホントか知らんけど。


 とりあえずクリスマス定番の、というか私がクリスマスに食べたい物は揃えてもらえたので、クリスマスパーティー夜の部を始めましょうか!


 「それでは、ただいまより夜の部を始めたいと思いましゅ。途中で余興もあるから、楽しんでいってくだしゃい!」

「アンジー、噛むの少し悪化してないかい?」

「そーかも?」

「アンジー、疲れたのでは?大丈夫かしら?」

「だいじょーぶ!それでは!!点灯!!」


 私の点灯の掛け声でイヴァちゃんがふわりとクリスマスツリーの前に浮かび上がり、両手を優雅に広げた。

そうすると、クリスマスツリーにくっついていた小さな精霊たちが各々に好きなように光った。


 おおっ!!幻想的だねぇ〜。

人工の光ではなく、精霊の温かみのある光だから、すごい綺麗だよ。


 そう思って、うっとり眺めていると、ガシっと頭を掴まれた。

なんやねんな、マジで。いい気分に浸ってたのに!


 「アンジー?」

「なーに、パパ?」

「あの光は何だ?」

「精霊さんだよ」

「……お前ねぇ。精霊と契約できなかった貴族もこの世の中には、いるんだぞ!?それを……」

「イヴァちゃん無敵!」

「…………。」

「あなた、精霊王のお妃様のご厚意ですわ。今宵を楽しみましょう、ね?」

「はぁ……。わかったよ、ローズ」


 そう。精霊王のお妃様であるイヴァちゃんのご厚意によるものだからね!文句言えないよね!


 そんなイヴァちゃんは、大広間に浮いてふわふわと漂い、あっちへフラフラこっちへフラフラと踊っている。

イヴァちゃんも楽しそうにしているし良かったけど、スカートの中身とか下にいる人に見えないよね?大丈夫だよね?まあ見えたところで中にパンティーはいたお尻があるとは限らんだろうけど。だって、精霊だし。


 さて、と。せっかく3段重ねのケーキがあるんだから、アレをやらねばならんよね。


 「てことでね、パパ」

「なんだ?何か嫌な予感がする」

「まあまあ、そう言わずに。夫婦イベントやるだけだから」

「……ほほぅ?それならば、アンジーもやらないとねぇ?」

「あー、まあ、うん。いいけど」


 ほんのり頬っぺた赤くした私にパパは「おや?」という顔をして、そんな反応なら大丈夫そうだな、みたいに思ったんだろうけど、まさかの伏兵が現れたのだ。


 結婚式イベントのケーキ入刀とケーキの食べさせ合い。

まあ、3段重ねケーキがあるんならクリスマス関係ないけど、やろうかなって思って、それを説明したんだけどさ。


 嬉しそうにママの手を取ってケーキ入刀をしたパパは、照れた少女のように可愛らしい笑みを浮かべたママから、スプーンですくったケーキを"あーん"されて、デレッデレになった。までは良かったんだけど、ママが選んだのは、切り株ケーキなので、中にはナッツ類も入っていたから噛まずに飲み込むことは難しい。


 でもね。ママは、絶妙なさじ加減で噛めないほどをパパの口へ放り込んだので、パパは噛めないし、かと言ってナッツ類があるのでグッと飲み込むことも出来ずに悶絶してプチパニック。

悶絶しているうちに周りのチョコレートが溶けて隙間が出来たので、やっと噛めるようになったけど、そこまでを計算してやるママって、さすがだよね。


 涙目で食べ終えたパパに「泣くほど嬉しかったんだね。良かったね!」と、笑顔で言っておいた。

でも、本当に初"あーん"だったので、嬉しかったのは本当みたいだけど、ちょっと睨まれた。


 私はママみたいなスキルは持ってないし、無理してすくっても落としそうだったので、ムチャなことはしなかったから、普通に終わったよ。

ただ、私から"あーん"されて、笑み崩れたクリフにイケメンの面影は無かった。イケメンって、どんな顔でもイケメンとか無いんやなって思った。クリフだけかな。


 お次は、普通にクリスマスプレゼントを渡した。煙突からサンタとかやると普通に暗部に消されそうになるからね。止めておいたよ。

それに、くじ引きのプレゼントは、お遊びだし。


 パパとママに用意したのは、愛の結晶花。

これは、イヴァちゃんに頼んで精霊界から採って来てもらったんだけど、男女二人が魔力を与えると花が咲く植物で、色とか形とか、人の数だけ変わるんだってさ。


 しかも、完全に花が開いて、しばらくするとそのまま結晶化するので、髪飾りとかブローチにも加工できるから、男女で育てて、女性がそれを身につけるのも素敵かな?と思いましてね。


 お兄様には、ジョゼフィーヌお義姉様との間に子供を作るのが先だと思うので、違うプレゼントを用意してあるよ!


 精霊石で造られた剣で、魔力で刀身の長さとか幅とか変えられるし、研ぐ必要もなく、結構何でも切れるそうで、魔法攻撃されたのをスパンっ!て切ることも出来ちゃうんだってさ。

ジョゼフィーヌお義姉様には、これのかんざしを用意したよ!暗器みたいでカッコ良くない?


 アンジーちゃん渾身のクリスマスプレゼントに目を輝かせるママとお兄様。

それに対して真っ青な顔のパパ。


 ちょっと、パパ。どうした?素敵なプレゼントでしょうが!


 もうっ!て感じでパパを見ていたら、息をするのを忘れていたのか、引きつったような細い息を吸って、むせた。


 「パパ、大丈夫?」

「だ、だいじょ……」

「だいじょばない?」

「ゲホッ、変な言葉を使うんじゃない!本当にもう、冗談抜きで教師増やすからな!決定事項だ!!」

「え、今までの冗談だったにょ?」

「本気だよ!!というか、何なの、この、これ!陛下に献上しなきゃいけないような品じゃないか!?」

「え、そうなのにょ?」

「そうだよ!!」

「えぇ……。イヴァちゃん、何個か用意できる?」


 そう言ったらパパが「何個!!?」て悲鳴あげたけど、うるさいよー。

イヴァちゃんは、パパの反応などお構いナシに「陛下って、アンジーのところのおじいちゃんだっけ?いいわよ〜」て言ってくれたので、新年のご挨拶にお土産で持って行こうかな。


 それでは、それでは。

花嫁のお色直しじゃないけど、アンジーちゃんは余興のために着替えてくるから、パーティーを楽しんでてちょ!!


 白目のパパは放置しまーす♪


 実は、ハンフリーなりきりセットには、色違いがあって、調理服の白、隠密行動の黒、鬼神の赤があるのよ。

鬼神の赤は、ハンフリーがガチ攻め状態になると、ゆらりと赤いオーラをまとうからだよ!精霊が攻撃力と防御力をアップさせてるんだってさ!カッコイイよね!!


 イヴァちゃんと契約したアンジーちゃんも出来るけど、オーラは赤いお花が舞っちゃうの。「かわいいでしょー?」て、イヴァちゃんに言われちゃーね。仕方がないっス。


 厩務員さんたちが頑張って作ってくれた真っ赤なソリは、お兄様にもらったシンデレラオープン馬車に負けないくらいの派手なもので、撥水加工された真っ赤なベルベット生地に真っ白なファーで縁取り、所々に宝箱をひっくり返したみたいにグリーン系の宝石が散りばめられていたよ。


 しかも、アレなんだっけ。高級車とかに立体のエンブレムついてるじゃん?豹とか鷲……鷹?わからんけど、あんな感じで、金色のドラゴンがエンブレムみたいに鎮座しとる。

……厩務員さん。張り切り過ぎだと思うんだ。クリスマスにしか乗らんのよ?今日だけよ?


 でも、乙女心がくすぐられる仕上がりで、金色のドラゴンエンブレムが少年のようなワクワク感をくれるんだよね。アンジー女の子だけどさ。


 むふっ、と笑ってウキウキと真っ赤なソリに乗り込むアンジーちゃん。

そんな私の装いはと言いますと、鬼神バージョンのハンフリーなりきりセットでございます。


 分かりやすく言うと赤色の調理服だね。ハンフリーと言えば調理服なので。

真っ赤な調理服に、真っ赤なコック帽、ブーツは黒。

うむ。サンタらしいではないか!


 そして、トナカイの角を模したカチューシャをつけたブニャたちが、6頭立てでスタンバイしておりまーす。

カチューシャつけて、鐘をぶら下げていても平気な顔をしているブニャさんたち。


 ソリが置かれているのは、お庭なんだけど、大広間がある場所を通るコースとか、アンジーちゃんは覚えていられないので、そこはブニャ任せ。

ブニャは、御者が指示したコースを変えない限り同じコースを走るので、前日にうちの御者さんが走らせてくれたのよ。

 だから、私は乗ってるだけで、何もしなくて良いので、とても楽チン。


 手網をぺしんっと軽く動かすと、ブニャたちは鐘をシャンシャン鳴らしながら走り始めた。

ソリの滑りが良くなるように、イヴァちゃんが地面に接している部分にツルツルの氷を展開してくれたので、かなりスピードが出ている。


 「うわぁお。結構速いね〜」 

「そう?まあ、凍らせてなくても大丈夫だったみたいだけど、大広間までかなり掛かりそうだったもの」

「え、イヴァちゃん、マジで?」

「ま?まじ?ああ、うん、そうマジよ。アンジーがコレ、ソリだったかしら?これでお散歩するのだと思っていたんじゃない?」

「うん?大広間の前を通って、皆に見せるとは言ったけど、あれ?説明不足だったかにゃ」

「アンジーは、どういった意図でこれを頼んだの?」

「サンタはトナカイの引くソリに乗ってプレゼントを配るのよ。まあ、寝ている子供の枕元とかにプレゼントを置いて行くんだけど、その際の侵入経路は煙突なんだよね。さすがにそれをやると暗部の人たちから怒られちゃうからさ。庭を走るだけにしようかと思って」

「サンタって義賊なのかしら?」

「うーん……、何って聞かれると困るね」


 二人で困った顔をして首を傾げていたけれど、私はアンジーちゃんであってサンタさんではないので、これで良いのだ!ということで、今を楽しむことにした。


 そろそろ大広間だとイヴァちゃんが言って、しばらくするとカラフルな光の点滅が照明の光に混ざって少しだけ窓から漏れているのが見えた。


 ふふっ、クリスマスだねぇ♪とニヨニヨしていると、庭へと出てワインを軽く掲げたパパが「仕方のない子だ」みたいな顔して笑って、こっちを見ていた。

そんなパパの後ろでママがお兄様に"あーん"しようとしていて、照れたお兄様がそれを避けるという攻防を繰り広げているんだけど、段々とスピードアップしていて、微笑ましさが無くなっていってるよ。


 ニコニコとそちらに手を振っているとイヴァちゃんが、「うん、出来そうね」と言った。


 「え?何が?」

「サンタとトナカイは空を飛ぶのでしょう?」

「そうだにょー。て、……えぇ?」


 サンタとトナカイは空を飛ぶのだと聞いてイヴァちゃんは、それを魔法で再現できないかと考えてくれていたらしく、庭を走らせていたソリと、それを引いて走っていたブニャを空へと浮かせてくれた。


 そして、大広間を通り過ぎようとしていたブニャが引くソリに乗った私は、そのまま星の煌めく夜空へと駆け上がった。

ブニャは御者の指示がない限り同じコースを走るんだけど、空に上がったらどうなるのかと心配していたら、空でも同じコースを走っているようだった。


 ブニャすげぇ……。


 私はシャンシャンと鐘の音が響く中、夜空の散歩を楽しんだ。


 「あはははっ!すごい、しゅごい、飛んでるゅー!!あははは、メリークリスマーーーっしゅ!!」



 ☆。.:*・゜☆*。✩.*˚°・*:.。.☆



 アンジーがいる世界とは異なる世界で、白い髪を緩やかに三つ編みにした女性は、吐き出した白い息を指先にかけて温めていた。


 「何かしら?シャンシャンと音がしたような……」

「院長先生ー!夕飯に使う塩漬け野菜出したよー!」

「あら、ありがとう。では戻りましょうか」

「はーい!」


 孤児院にいる子供たちを促して家へと戻ろうとしたアンジェリカは、先程聞こえた音を思い出していた。


 「何だか楽しそうなワクワクする音でしたわね……。ふふっ」


 "みなさんにも幸せが訪れますように"


 アンジェリカの祈りは、夜の星空へと吸い込まれて行ったのでした。



 ✩*.゚Merry Christmas☆*。

 

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