最初は楽しくゲームやってるなあって感じで、お姫様とプレイヤー達の交流をまったり読んでましたが、9話で居住まいを正して読みました。いいですね、こういう王道。ここら辺のルシェドには思わず涙しました。
作中作とキャラクター達それぞれの想いが絡み合ってさわやかなラストに至る流れは少し懐かしいまっすぐなファンタジーとして、読むこっちにも刺さりました。ルシェドと姫ももちろんですが、アルテミシアさんの、夢を見せながら、お客さんの見る現実も見ている感じの語りも印象的。
読者の私はシヴァールの物語はリプレイを通して1巻を読んだだけになるんですが……確かに彼が種族とか国とかそんな垣根を越えて沢山の女性の心を掴んだのは説得力あるな……と思います。こういう重い女を受け止められて、自分も傷つくような行動が取れて、一途で、かつ一番に愛する女以外の女にも紳士な男ってモテるんだ、私にはわかる。多分私もこの世界の住民だったら熱心な読者だったろうな(笑)そんな彼を書く作者があんな人というのも逆に説得力があります。ああいう人ほど根っこは純だったり、でなかったとしても才能はあるものです。
メタ的なところではプレイヤー達が笑いを交えつつ楽しそうに遊んでいるのを感じられて、本編ストーリー的にはまっすぐな王道で、良いリプレイだなと思います。ラグのメリアに対してお姉さんっぽいところや、決めるところでは決めるキングのツヴァイも素敵でした。執拗に叩き割られるツボもツボでした。ツボだけに。
どうも。
最初に断っておきますと、私はこのリプレイの
文字起こしを手伝った縁で本リプレイを読んでいます。
でも嘘は書きたくないので正直な感想を書きます。
当初ですね、なんだこのさむい物語は、って思ってたんですよ。失礼ながら。
だって『ジャッジメントキングダム』ですよ、『シ↓ヴァ↑ール』ですよ。
「報酬はキスで…と書いたのを消した跡がある』のあたりで
「大丈夫か!?大丈夫なのかGM!?このセッション
黒歴史ノートの中みたいにならないかGM!?」って思いました。
文字起こしの関係でごく一部の会話を聞いていたので
余計に不安になったんです。なったんですが…
終わってみるとなんかスゲー綺麗に纏まっている。
しかもプレイヤーたちのロールプレイが主体で。
ゲームマスターの用意した世界をうまく生かし、
プレイヤーとゲームマスター『みんな』で
納得のエンディングを創り出している。
先行の印象は上記の通りあまり良くなかったので、
それをひっくり返すだけの力ある物語が生み出されたのだなぁ、と。
デフォルトで
『(PC1は)頭を打ったのか?』
『いつも打っているようなものでしょう』
と返されるような言動のPC1(ツヴァイ)が真面目に格好良く見え。
常にクレバーかつユーモアを交えて
物語全体をフォローするPC2(ラグ)が頼もしく。
常識人ポジで流され役が多く突っ込みも多いPC3(ルシェド)が
一番一般人っぽいという側面を活かして大活躍し。
なんというか、みんな楽しみながら良い物語を創っている。
普段ならちょっと恥ずかしくなるようなロールプレイも、シナリオも。
全力でプレイすることで心動かす物語に変えている。
TRPGのリプレイとして、またセッションとして
とても理想的なものになっていたんじゃないかな…と。
文字起こししてる時には『大丈夫なのかこれ…』と慄いていた過去の自分には
到底思いつかない感想を抱いてしまいました。
『みんなで楽しんで、物語を創る』
そういう意味で、初心を思い出したい熟練者さんなどにもおすすめです。
夏目漱石が「I love you」を「月が綺麗ですね」と和訳したという逸話がある。そしてそれだけではなく、ギリシャ神話における月の女神アルテミスは愛を司り。ローマ人たちは狂気に陥る事を、月の女神ディアーナに寵愛を受けたとした。
人類史において、月とは「愛」の暗喩にされる事が多い。
では、「私を月へと連れて行って」と願った少女は、一体月に何を望んだのか?
それは前半と後半で、大きく異なると思う。
前半では物語の王子様が与えてくれる「自由」を望み、後半では……肩書きではない、「私」を見てくれるという「愛」を望んでいるのだと感じている。
そして、このリプレイを読むと驚くほどにシンクロしている曲がある。
「Fly Me To The Moon」という曲だ。
様々な歌手たちがカバーしたこの名曲のタイトルを訳すと、そのままに「私を月へ連れてって」となる。
ここで、曲を紹介しながら、作品を読みといてみたい。
Fly me to the moon
Let me sing among those stars
Let me see what spring is like
On jupiter and mars
私を月まで連れてって
星々に囲まれて歌ってみたいの
木星や火星では、どんな春が来るのかな?
曲における冒頭部分は、自由に憧れる姫様に当たるだろう。
自由のない生活から、理想の夢、見た事のない世界への憧憬となる。
In other words, hold my hand
In other words, baby kiss me
言い換えれば、手を握って欲しいの
言い換えれば、優しくキスをして欲しいの
ここで初めて「In other words」。つまり「言い換えれば」と出てくる。
「彼女の夢」を「言い換えれば」、「物語の王子様に憧れて、いつか自由へと連れ出してくれる、プリンスを求めている」となる。
曲ではこの後2番の歌詞に入り、
Fill my heart with song
And let me sing for ever more
You are all I long for
All I worship and adore
私の心を歌で満たして
いつまでも歌っていたいの
貴方と2人で、こうしていたかった
ずっと憧れていたの
とつながるが、ここも彼女の憧れと解釈できる。
しかし同時に、ここの憧れは「本当に助けに来てくれた彼(等)を信じたい気持ち」が見え隠れする。
In other words, please be true
In other words, I love you
言い換えると、嘘をつかないで欲しいの
言い換えると、愛しているの
嘘をつかないで欲しい。に続く歌詞が「愛してる」なのは、それはもう「信じたい」という解釈でも良いだろう。
「嘘を付かないで欲しい」を「言い換えれば」、「信じたい」になるのだ。
物語はこれから、佳境へと突入する。
物語の果てに「私を月へ連れてって」がどう「言い換わる」のかが、本当に楽しみになっている。
もし、一読するなら小説の横で一曲流すのをお勧めしたい。
貴方もそのテーマのシンクロに驚くだろう。
月とは愛、そう「I love you」であることに。