第9話ㅤ食蟲......そして
俺のニューボディに備わったユニークスキルとも言えるようなスキル。
【雄鳥の尾】
これは酷い。やばい。
語彙が消え失せるほどの衝撃だった。
俺の保有する毒の中で、一番強い麻痺毒のみを重ね掛けしてゴキ......Gに撃ち込んだんだけど、刺さった瞬間に一瞬身体が痙攣。その後全ての機能が麻痺したのか、そのまま動かなくなった。
外したら十分間待たないといけないのはキツいけれど、やりようによってはムカデすら殺れそうに思える。
刺さるか、毒に対しての抵抗力、ヤツ自体のガチの戦闘力。
これらがわからない現状、まだ挑むべきではない。ヤツを倒した事でイベントが進み、難易度があがったりしたら嫌だ。
......うーん、まだ我慢だ。
もう少し牙を研いでおく必要があるよな。挑むのは......せめてもう一段階進化してからになるだろう。
うん。やっぱり死にたくないもんな。
頑張ろう。
◆◆◆
進化なんてしなきゃよかった......
もう一度生き残ると、決意を固めてから一週間が経過。ただひたすらに後悔していた。
そう、強力なマシンを動かすには多くの燃料が必要となる。
身体スペックが上がって喜んでいた自分がバカみたいだ......
強くなり、疲れにくくなったものの、腹が減るスピードが格段に早くなってしまった。
今まで食べてきた毒の部分のみでは、既に栄養も量も足りない。
授乳だけで満足出来ていた赤子が育ち、ミルクだけでは栄養を補う事が出来なくなった様なものだ。
ここまで一週間、毒の部位のみで騙し騙しやってきていたが、とうとう限界に達してしまったのだ。
毒の部位を食べれば多少は腹が膨れるが、他の虫を倒すのに動くとすぐに腹が減ってしまう。
............餓死or食虫。
Dead or Alive。究極の二択。
死にたくないという思いと、元人間であったという最後の砦の崩壊。
う〇こ味のカレーか、カレー味のう〇こか。
当然死にたくない気持ちが勝ったんだけど、目の前に転がる毒々しく、グロい虫共を食べる勇気が湧かない。
ㅤけれども、自身の生命には変えられないんだよなぁ......
一つの覚悟を決め、ありったけの毒の部位を掻き集めて腹にぶち込んでいく。
『せめて最初だけは自分が納得して口に入れられる虫を選ぼう』......と。
童貞喪失の為に風俗に行くモテない男性が、せめて最初だけはと、高級そうな場所で最高の体験を......そんな心境と似ている。と思う。多分。
この腹具合だと、保って二時間程度だろう。動けなくなる前に行こうか......
――覚悟を決めて行動を開始した。
◆◆◆
体感で一時間程獲物を探し回り、ようやく......ようやく......自分の中でこれなら......と妥協できる虫を見つけた。
白とピンクの混ざり合った綺麗な身体にスラッとしたボディ、安産型なのか下半身だけはふっくらしているけどスレンダーな身体、そして超絶小顔。
ㅤ美しさは今まで見てきた虫の中で、頭何十個分抜けている。そんな美しい存在の中に存在する、一際目立つ死神の鎌。とても鋭利な鎌だけが異質な存在である。
そうだね、カマキリだね。それもハナカマキリ。完全に見た目で選んだ。
でもコイツも毒を持ってるんだよなぁ......こんなにも綺麗なのになぁ......
ㅤ......はぁ。
......殺りますか。
体液が残っているのは絶対に嫌だ。
というくだらない理由から、ハナカマキリの体液を抜きながら殺ると誓う。
出血×2、溶血、凝固阻害を混ぜた【雄鳥の尾】で狙撃ッ!!
見事に尾羽が胴体に突き刺さり、傷口、口、排泄口など......色んな場所からヤツの
ㅤえげつない程に強力。雑魚虫ならこれだけで問題はないだろう。先程も考えたけど、コレが当たりさえ、刺さりさえすれば確殺とまでは言わないだろうけど、ボス蟲共でさえ余裕ではいられないだろう。きっと。
ㅤそんな事よりどうしようコレ。
......水で洗い流したい。体内から液体は抜けたけど、今度は身体中が体液塗れになったハナカマキリの死体がそこにはあった。
紫色の液体でコーティングされたハナカマキリっぽい虫の死体。
激しく食欲を刺激しない。元が白いから、余計に鮮やかなパープルが際立っている。
こんな姿になっている今でも、他の虫共よりは遥かにマシに見えるから......料理は見た目ってのもあながち間違ってない。そして俺はそろそろガス欠間近だ......
......うん。これ以上贅沢言うのは無理だな。食う覚悟を決めたので、ハナカマキリを寝床まで運んでいく......
これを食べたら、もう俺は人に戻れない。
一度食えば
空腹は何よりもキツかった。人間の頃の空腹よりも何倍も。動きにも直結してくるのがまた厭らしい。
◆◆◆
寝床まで無事に辿り着けた事で一安心。空腹すぎてもう、余計な思考をする余裕も無い。空腹は最高のスパイス理論......信じるからな!!!
あれだけ忌避していたけど、もっと早くからこうすればよかったかもな......
ㅤ追い込まれすぎて思考がマトモに働かない。ハハハ......
――いただきます
一番キレイな頭から豪快に齧る。
美味い不味いではなく、生きる為に喰らう。
毒も、身体も、生命も全て俺の糧になってくれ。
死なない為に、他の生物の生命を奪って喰らう。
これが純粋な生物の本能。
味とか、調理方法とか、食卓に出された物に文句を付ける等、食事するって行為に拘れるのは贅沢な事だったんだな。
味は正直どうだったのか覚えていないが、ただただ腹と心は満たされた食事だった。
◆◆◆
腹が満たされた俺は、そのまま寝てしまったらしい。
自分の体積よりも若干大きいカマキリを全て食らってしまったとか......この身体はどうなっているんだろう。
食い溜めとか出来るような身体なのかはわからないけど、体感で三日は保ちそうに思える。根拠はないけどそう感じる。
俺程度のヤツでこれだ......あのムカデとかは、眠っている時以外は暴れ回っているような生活をしても、一週間以上何も食わずに暴れ回れそう。
格差が酷いなぁ......それでもアレらはいつかは倒さなければならない相手だ。四天王と魔王......いや、蟲王とでも言っておこう。
・生きてここから脱出
・蟲王を倒して、この地獄を生き残る
・四天王を倒す
・レベルアップ&進化、スキルや身体の成長に全力を出す
・余裕があれば、少しでも虫の味がマシになるように工夫をする
これを目標にしてやっていこう。
内容は被っている部分があるけど、全ての蟲を倒して生きて此処を脱出。これは変わらない。
絶対に、生き残る。
このままやっていても差は縮まるどころか広がる一方。なので今日からは多少無理してでも経験値効率の良さそうな相手を狙っていく。
首を洗って待っていやがれ。その身体にたっぷりと栄養と経験値を蓄えてな!
まだまだ俺の戦いはこれからだ! 絶対にヤツらを殺って、生き残ってやる!
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近況ノートでも言い訳させてもらいましたが、データが飛んでしまい、書き溜めていた話が全部ロストしてしまいました。
書けた傍からこっちに保存しておけばよかったと後悔しています。
記憶を頼りに思い出しながら書こうとしましたが、上手く書けずに断念しましたが、何故かフォローは増え、PVも緩やかにですが伸びていました。
打ち切りエンドみたいに締めましたが、納得いく仕上がりになれば再開するかもしれませんが、今は無理そうです。
ㅤ完結済にしていますが一応休載という体にしておきます。なので超絶不定期になるかもしれませんがこっそり更新するかもしれません。あくまで可能性ですが。
ㅤ現在現ファンをこっそり書いています。蟲で活かしきれなかったアイディアも使おうと思っています。
ㅤ
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。こんな形での終わりで申し訳ありません。
蠱毒な迷宮の主 甘党羊 @rksnns
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