透かして不可視の死

原多岐人

 


 畢花ひつかと会うのは2年ぶりだった。本当は毎年地元で会う約束をしていたけれど、去年はコロナで会えなかった。4月5月は街が死んでいた。そんな中で県境を二つも越えて移動する勇気はない。何もない街だから、会って何をする訳でも無いけど、適当に何かを食べてブラブラして、夜は星を見ながら駅まで歩くというのがいつもの流れだった。

「最近どう?」

「緊急事態宣言明けてから結構バタバタしてた。何だかんだで東京でももう結構普通に人出歩いてるし」

「そっか。確かにニュースとかで品川駅とか出てるけど、人めっちゃ多いもんね。こっちのお祭りみたい」

実際はそんな賑やかなものじゃない。駅のコンコースを歩く大勢の人間は皆んな無口で、死者の行列みたいだと私は感じていた。不思議なことに感染者数が増えてもこの行列は減る事はなく、病院に行く事もないので、死者が増えてもそれを今ひとつ身近な事だとは思えなかった。

 畢花は地元から出た事が無いのでこれを体感した事は無い。今はそれが少しだけ羨ましかった。

「東京の事はテレビとかでもやってるけど、こっちはどうなの?」

「元々人口少ないからね。県境の方で少し感染した人増えてるみたいだけど、この辺だと聞かないかな。まあ田舎の口コミの方がウイルスより厄介だから」

聞かない、という事はまだ感染者の情報が噂話には上っていないらしい。一度噂の標的になったら最後、死ぬかこの土地を離れるかしか選択肢は無い。3月下旬だというのに、背筋から冷気が迫り上がってくる。

 今日は天気も良く、標高が高いこの場所は空気が澄んでいて星がよく見える。少しだけ門限が延びた高校時代から、よく2人で来た場所だった。私が東京の大学に進学して、畢花が地元の専門学校に進んでからは数ヶ月に一度になり、就職してからは年に1、2回になった。

「ここから見える星は変わらないよね」

「ほんとキレイ。でも、この中の幾つかはもうなくなってる光なんだって」

畢花が立ち止まったので、私もそれに合わせて歩くのをやめた。

「死んだ星を見分ける方法があるの、知ってる?」

「検索すれば出てくるとか? どこかにそういうサイトでもあるの?」

私がスマホを取り出すと、畢花の眉が一瞬歪む。せっかくの幻想的な空間が現実感の塊のような光に邪魔されるのが嫌だったようだ。畢花は空を見上げて、その視線を遮る様に手を翳す。

「こうやると、生きてる星の光は透けて見えるから、よくわかるよ」


彼女の手を透ける光の数は確かに減っていた。

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