このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む(196文字)
季節は夏。目に浮かぶような、短い情景描写。凝った設定を分かりやすく鮮明に伝え、淡い恋心を短い筆でじんわり伝えてくれる。心地良い文章だなぁと思っていたら"スッ"と終わってしまう。本当に2000字くらいしかなかったのかなと思う巧みな文章でした。
若者の老人が、夏の間だけコールドスリープ世界。記憶がこぼれてしまう者がいるらしい。ささいなことなのかもしれない。当事者たち以外には。人間の組成の七割以上が水だというのだから、記憶も凝固したり、昇華してしまうのかもしれない。そんな儚い記憶の物語。夏の陽炎のような。
記憶をめぐるSFには名作が多い気がします。本作もその一つ。一夏の記憶をめぐり切ないストーリーが繰り広げられます。ラストの切なさが沁みる、短い中に中身のぎゅっと詰まった短編です。
夏の感じとか、SFちっくな未来への恐怖とか、若い男女の恋とか、色々な要素が短いのにぎゅっと詰まっている。しかも、それが読みやすくさっぱり書かれているから最高。とても良い短編でした。