模型組子プラモデン

ウゴカッタン

プラモデ・クミコは組子である

 プラモデルというものはそんなに難しいものでは無い、特に剣と魔法の世界においてはそこまでの価値が無かった黒き燃える水”ターレ”からプラモデルの材料が抽出できるので、錬金術師たちが簡単にプラモデルを量産するまでそんなに時間は掛からなかった。

 「ただ、問題はこれが神の遺跡より見つかったということになる、そこでクミコ」

 「はい」

 「クミコではなく組子、お前たちが必要になったのだ」

 作業工程を担当する監督官の朝礼はいつもの恒例であるが、組子という新しい職業に目を付けた両親にそのままクミコと名付けられたクミコ・プラモデは周りに晒されて笑われる具合も恒例である。

 「本来、このプラモデルの組み立て行程に関わったものは人身御供としてカンビリドーンの神々に命を捧げねばならないが、宮廷魔術師様達のハイグレードの儀とリアルグレードの儀、マスターグレードの儀、そしてパーフェクトグレードの儀によってそなたらはプラモデルを数組むことが許された」

 ここは強調しておかなければなるまい、HG魔法とRG魔法とMG魔法とPG魔法と呼ばれる神々の意思を受け継いだプラモデルを真なる姿へと導く儀式こそが、神々が下々の民にプラモデルを触ること許された証なのである。

 「そして接着剤を使うという行為からもそなたらは許された」

 一同はほっと胸をなでおろす、先の魔法大戦のときにはセンシャと呼ばれる非常に難しく細部まで組み立てディティールがあり、さらには接着剤を使わなければならないものが扱われたというからだ。 そういう意味でまさにこの組み立てに接着剤も塗装も必ずしも必要でない人型ロボットのプラモデルは非常に扱いやすいものだった。

 「では一同、一人一日七機を目安に組むこと、それより少なくても多くても災いの元だ、では作業開始!」

 朝礼は日が昇る前の肌寒い時間帯にはじまり終る、そして組子たちはプラモデル工場にはいり、ひたすら黙々と他の工場で生産されるプラモデルを組んでいくのだ。

 クミコもまた変わらず組んでいくことになる、大体が量産機か敵機と呼ばれるものを数揃えて、それを貴族の方々が主役機で破壊するのがハイグレードの儀と呼ばれる王の前での御前試合とされている。

 「またFGを組んでるのか?」「あ、はい、FGです」「組み立て行程が少ないのに塗装が必要だとか」

 「貴様ら! だまって組まないか! そしてクミコ! 貴様は場を乱した罰としてFGをなんとしても今日中に七機組むのだ! 出来なければランナー端材創作室送りだ!」

 皆さんはカラー分けの塗装不要なプラモデルを知ってると思うので、未塗装で単色のみというプラモデルがなんだかんだ手間がかかるというのは、なんとなく分かっていただけるかもしれない、特にこのFGと呼ばれてるものは神々の間で記念として創造されたもので、そもそもそんなに種類は出てないけど、黒き燃える水”ターレ”より抽出されしプラスチック資源の節約になるということで、時々数が出されるのだが、プラモデル一日七機組むことが基本とされている組子たちにとっては塗装が必要なFGは難所である。

 「ランナー端材創作室か楽しそうだなア」

 そしてランナー端材創作室とは、突如表舞台に出てきた戦略資源”ターレ”を節約しながら使うために、プラモデルの各パーツをきちんと整然と番号別に見やすくレイアウトしているランナーが組み立てた後に沢山プラスチック端材が出てしまうということから、神の息のかかったプラモデルの一部であったものをひとつ余さず使うために、粘土にランナー端材を切り分けたものを突き刺していってカンビリドーンの原生生物を作るという、まあ雑用みたいな仕事なのだが、正直プラモデルを一日七機組む苦行に比べれば、逆に楽なんじゃなかろうかと思うが、まあプラモデル自体がこの世界の中心なのでその外側の様子をこれでもかと語る必要はあるまい。

 「あ、クミコすごい、それそうやって吹き付け全塗装するんだ」

 「七機のランナー全部色ごとに切り分けて一気に吹き付けて塗装とか確かになるほど、その方法だったら作業工程の少ないFGのほうが良さそうね、私もFGが組みたくなってきたわ」

 吹き付け塗装というふいごを使った塗装方式は筆で塗るよりも薄く均一に塗装が出来るという、もちろん細かいところはあとで塗装が必要となるが、ここプラモデル組み立て工場では急速乾燥室と呼ばれる塗装を早く乾かして次の行程に映らせるための仕組みがあるので、結果として時短になるという具合だ。

 「担当、出来ましたよ」

 「どれ、見せてみろ、ふむ! 敵量産機がいともたやすく量産されてしまうとはな!」

 なんだかんだHGよりもはやくFGが組めてしまった、塗装の時間の問題が解決したならこのように作業工程数が少ないもののほうが何倍も簡単という具合なのである。

 「では、もう帰っていいでしょうか?」

 「待て待て待て! クミコよ! 正午に来客がある! 貴様はまだ余力が残っているだろうし、お嬢様に組んで差し上げるためにも、そうだ! まだ作業時間内だろう?」

 「そんな今日だって有給休暇の予定でしたし、今年分の有給休暇をまだ消化できてないですし、オーダーメイドのプラモデルも積みプラしてるので、はやく帰って積みプラを消化したいのですが」

 積みプラというのは大体、プラモデルを買ったことがある人なら分かると思うが作業工程が多いプラモデル、しかし売り場に置いてあれば即完売というのが現実世界ではよくあることで欲しい時には欲しいプラモデルが無いというのが常で、組めなくても数買っておかないといつ手元にあるか分からないという具合でついつい買いすぎてしまうのだ、箱は嵩張るし買って帰るのも大変なはずだが、クミコは作業工賃の大半をプラモデルに使ってるので、専用の背嚢に積みプラして帰ることもよくあり、給与がプラモデル現物支給なのではないかと噂されるくらいである。

 「そこをなんとかするのが組子の仕事だろう?」「担当官! 大変です!」

 「なんだうるさいぞ! 今は大事な話だ!」「襲撃です! 爆発が!? あっ!」

 あたりに轟音が響きわたる、朝礼が行われていた広場に一等大きなモノアイの機体が降り立ち、抱えていた荷台から黒いローブを着た一団が飛び降りてきた!

 『組子諸君! 君たちを助けに来たぞ! 今日が救済のその日だ! 革命に加わわり特権階級を打倒しよう!』

 わんわんとひびく声がして、続けて自分たちの正当性を主張する、彼らは反体制派組織マージニナルであり、元々王宮魔術師の試験に落ちたもの達が集まって反体制の機運を高めてプラモデルの力をもって王政を踏破しようというのである。

 「黙れ! ろくすっぽ働きもせずに! 落第ものは田舎に帰れ!」

 「ふん! 体制派の犬め! みるがいい! ハイグレード魔法!」

 モノアイ、単眼のプラモデル巨大敵機の胸部が開き、中から出てきた紫のローブの男が魔法陣を出すと、たちまち作業工場のプラモデルは巨大化し身の丈18m近くのモノアイ、敵機が続々と立ち上がった!

 「むっ、たった七機だと? クソっ! 納入前に襲撃する予定であったが! 早すぎたか、しかし! はやく乗り込むのだマージニナルの諸君よ!」

 「みんな逃げて! 積みプラが燃えてるわ! 屋外に出るのよ! 担当官!」

 「っむー!!?? 落第ものを前に手をこまねくとは!

 だが負けたわけではない! みな! 非常口から出ろ! 煙を吸わないように身を低くして!」

 組子の面々は急いで逃げる、せっかく組みあがりそうだったプラモデルの数々も燃える火の手の勢いに溶けて燃えて台無しになる。

 「こんな暴虐がゆるされるのか?」

 クミコはあらためて状況を見た、自らが組み上げた七機のFG機体がプラモデル組み立て工場を完膚なきまでに破壊し、そしてゴールドメッキやPG仕様の高価なプラモデルを荷台に詰め込んで戦利品にしようというのだ!


 「そこまでよ! 反乱分子ども!」

 空から白い機体が降りたって火の勢いが少しそがれたところで、何にしても三機の白い量産機が顔のクリアパーツ光らせて立っている、その一機の肩に量感と格式のあるドレスを着こなす。

 「アガナお嬢様! 危険です! 担当官である私のメンツが! ああ!?」

 「担当官! なんのためのプラモデルですか! それに我々が負けるとでも!!」

 アガナが白い量産機の手に移って担当官とクミコのもとに降りてきた。

 「あなた! 今日私のプラモデルを組む予定だったのでしょう?! さあ早く組み上げて!」手渡されたMGのプラモデルの箱、HGよりちょっとお値段が張るぞ!「えっ、主役機をですか?! これを今すぐには無理です!」

 「何を言って!? なっ!」

 モノアイどもが突如として背部スカート装甲部にとめてあった黒鉄色のものを手に取り轟音と共に噴出口らしきから火を噴かせ、あたり一面を焼き付けて、アガナを連れてきた白い量産機が餌食となる! 「こ、これも魔法の力だというのか!?」

「はははは! 王家の犬どもめ! その王家のデカールが削げおちるまでマシンガンを打ち続けてやる!」

 「そんな、こんなザコどもに一方的に白い機体がやられていいはずが!?

  はやく、はやく組みなさい! 組子なのでしょう!」

 「出来ました」

 「えっ?」「馬鹿な!? MGは今まで工数が多くて避けてきたのにそれをたったこんな時間で組んだというのか? クミコ、お前は?!」

 そこにはまごうことなき主役機が立っていた。 ただ武装もあまりないようだが?

 「なによこれ! HG? MGで無ければサイズで相手を圧倒できないじゃない! こんなものを組んだって!」「お嬢様、今は時間がありません、このEG、エントリーグレードに命を吹き込んでください!」白い機体が炎と黒煙の中、アガナの答えを待つ。

 「!? 足元でちょろちょろと! 今さら何を組んだところで! マシンガンをくらえ!」 アガナにマージニナルの魔の手が迫るその刹那!

 「ええい、どうとでもなれ! !!!!エントリィィィーグレェェェード!!!」


 黒煙漂い火が揺らぐ中、白き機体が立ち上がる。 始祖の神を受け継ぐその顔は!

「いまさら、そんな顔が出てきたところで! 七機連携! マージニナルマシンガン!」

 七機の巨体が狙い撃つ! あらゆる方向から打ちつけられる火の雨は白い機体を覆い隠すほどの数で襲い掛かる! 「アガナお嬢様!」「まだです! 担当官!」

 轟音が留まり、白き機体を覆う煙がはれる時、胸部の赤と青にまったくの傷跡なく、黄色き両の胸から噴き出す生命の証は!

 「そんなばかな!? こんなやせっぽちの白いやつのどこにそんな力が!?」

 「この、これは、や、やれるというの!? やって、やるわ!」

 白い機体の肩から引き抜かれた光り輝く太刀がマージニナルのマシンガンを構えた手を素早く切り抜けると、そのまま肩で体当たりをして敵一機を火の中に追いやった!

 「こんな愚かなことはない!? くそ、マシンガン以外に武器は無いか!? そうだ! ハイグレード魔法! 赤熱の手斧をこの手に!」

 モノアイの敵機が手にした手斧は刃がじわじわと赤くなり、これをアガナの乗る白い機体にめがけて振りぬこうと走り寄る!

 「アガナ様! 避けてください! EGならやれます!」

 「よ、避けろって?! 出来るの!? ええい!」

 マージニナルの赤熱の斧はすんでのところで空を切った! そしてアガナの機体のその足さばきは! 「ばかな!? そんな可動域が! こんな短時間で組み上げれるというのか!?」「わたしにもよくわからない!」

 もう片方の肩から引き抜かれた太刀がマージニナルの機体の肩をとらえて、そのまま赤熱の斧とともに切り飛ばした!

 「ぐぅぅ!? こんなことが!? ええい! ものもの! 赤熱の斧を手に! その白い機体を! 変わらずの顔を叩き潰せ! ハイグレード!!!」

 「アガナ様! 飛んでください!」「飛ぶ、飛ぶって? はっそうか!?」

 六体のマージニナルの機体が赤熱の斧を振り各方位より迫りくるを、アガナ機は飛びかわし、六機もろとも寄せ合いひしあいで身動きが取れない!

「「「「「「ま、マージニナル様あ!?」」」」」」

「バカ者どもが! はやく! 体勢を立て直せ!」

「「「「「「そ、それがうまくうごけません!」」」」」」

「な、こ、こいつらのこの可動域の狭さは!? FG!? FGだったのか!?」

 ダンゴになった六機から目を上げて空に逃げた白い機体を追う、だがそこには!

「太陽が!? 太陽を背に!?」光り輝く機体が両の手に持つ光の太刀!

「マージニナルども! くらえ! エックス斬り!」

両の腕が六機のダンゴになった機体に振り下ろされ、返す手でたちまちに切り刻まれ魔力のほとばしりと共に! 燦燦ときらめいて消え去っていくFGの六機体!

「ええい、こんなはずでは! この借りはかならず! おぼえておけ!」

「逃すのとおもって!? これでもくらえ!」 二つの光の太刀をマージニナルのモノアイめがけて飛ばしたがすでに黒煙の中に入り消え去り、姿をくらました。



 「アガナお嬢様、お見事でした」「まさか初陣がこんな端役どもとなるとはおもってもみなかったわ、そこの、そこの組子!!」「は、はい!?」

 逃げようとしていたクミコを呼び止めるアガナの後ろには焦げたプラスチックの匂いがした。

 「名前を、聞いてなかったわね、名前をなんというの?」

 「クミコ」「組子?」

 「クミコ・プラモデです」

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