尊いが重なると語彙力失う事案【ヒスイ×音神旋律】
祐樹と翔太の二人がペアとなって特訓を兼ねた配信を始めて三十分後。
それに続いて涼音と旋梨の二人も配信を行う為、入念に機材のチェックを裕也は行った。
故障及びトラブルに繋がる支障は無いと判断し、裕也はもう一つの別室に移動し、二人の配信をチェックする為にノートパソコンを起動させる。
それから裕也はガラス越しに二人へOKのサインを出すと、二人もマイクのチェックを済ませてOKサインを返した。
そしてーー。
『んっん……! おはこんにちは、皆! 今日も張り切って配信頑張るけんね! 既にカゲロウくんがスペシャルゲストと一緒に特訓しているということで、私たちも特訓を重ねるばい!』
『ど、どうも……! ミライバのDream Life所属のヒスイです……! き、今日はよろしくお願いします……!』
:うおおおおおおおっ!! Ktkr!!!
:待ってましたァ!! ¥5000
:公式の告知から飛んできたけど、マジで今回Dream Lifeは一段と気合い入ってるなw
:カゲロウとこっちの配信を二窓で見ているなう。旋律たそもツーペアでの配信ってことは、ヒスイちゃんがサポーター?
:どっちにしろ天使と天使が揃ってんだ、文句なんてありゃせんぜ!! ¥ 20000
『ふふっ、○○さんと○○さん、スパチャありがとうやけん! コメントでもある通り、ヒスイちゃんは私のサポーターとして一緒に進行していくとね』
『な、なにもできませんけどね……あはは……』
『そんなことないとね? というか、さっきから堅苦しいばい! もっと肩の力を抜こうやんね!』
『きゃあっ!? ちょ、旋律さん……! んんっ、そこはダメ……!』
『ほらほら、もっと抜くばい!』
緊張で言葉が上手く出てこないヒスイに対して、旋律はくすぐり始める。
:抜く(意味深)
:あぁ、たまんねぇな!?¥5000
:あー! お客さんいけません、それ以上は!
:ふぅ……
:おかず提供あざます!¥10000
:[運営によりコメントが削除されました]
:[運営によりコメントが削除されました]
:おまいらwwwwwww
二人のやり取りに興奮する視聴者によるコメント。
やはり女子二人による配信ということもあって、男性の率は八割超え。
つまりそれが何を意味するのかは明白であり、裏方をする裕也はただひたすらに過激の強いコメントを消し去るという作業があった。
『どう? 少しはほぐれたとね?』
『はぁ……はぁ……! 旋律さんの、ばか……』
『ばか? もっとしてほしいってこと?』
『ち、ちが! んんっ!!』
:なんやねんこれwwwww
:はよ特訓せんかいwwww
:いや、これも立派な特訓だろ。そう、ヒスイちゃんのくすぐり耐性を付けるという名の!
:たまりませんねぇ
:運営に負担を掛けるな、おまいらwww
味を占めたのか、ヒスイの反応にそそられた旋律はまたもやくすぐりを入れる。
その度に二人のアバターが事細かく動き、視聴者に更なる興奮を与えた。
裕也もまた二人の会話を聞いている一人。
しかも義妹であるヒスイの反応に何かしらヤバい扉を開きそうになりつつも、センシティブなコメントの対処で気を逸らす。
『まぁここらへんにしとくやんね。あまり進行に支障をきたすと、マネさんに怒られてしまうばい』
『はぁ、はぁ……! そ、そうですね……!』
『改めて、今回は特訓配信! 既に公式やカゲロウくんから話は聞いていると思うけど、なんと大企画の内容としてSmileRoad所属のゲーマーズ、堕天四姉妹の方と対決するばい!』
:各ジャンルだから、旋律たそは音ゲー部門確定だな
:練習する意味ある? 旋律ちゃんなら多分相手が堕天四姉妹でも勝てるでしょw
:音ゲーってことは相手はヨルナっちだよね。なら油断はできないかも
:ヨルナも旋律ちゃんも、配信上で連続AP取ってるからなぁ……。(※AP=オールパーフェクトの略)
コメント欄には旋律派とヨルナ派で分かれており、それでも若干旋律に分があるという結果が多かった。
とはいえ油断はできないとコメント欄でもあるように、旋律は視聴者に練習は欠かせないと返す。
その中で一つ、旋律の目にコメントが入る。
:勝敗によって何か罰ゲームとかある感じ?wwww
さりげなく目に入ったそのコメント。
思えばこの企画は視聴者からすると、ただ勝敗を決めて楽しむ純粋なイベント。
四本勝負のシステムで進行される今回のイベントは、実質負ければ宮田の専属VTuberになってしまう結果に繋がる。
その為にも練習して確実に近づかなければならないというプレッシャーが、そのコメントによってより強くのしかかってきた。
対するヒスイもそんな旋律の動揺を感じ取ったのか、表情を曇らせる。
その時だった。
コメント欄に運営の代わり、つまり裕也による固定コメントが流れる。
マネージャーY:この度はご閲覧頂き、誠にありがとうございます。現状、今回参戦する各VTuberの配信に伴い、コメントでもありましたように罰ゲームなどの詳細は続報としてお伝え致しますので、お楽しみにお待ちください!
:うおおおおおお、マネさん!www
:マネさんやんけ! 珍しい!!
:頭文字DみたくYで草www
:大人しく待ちます、全裸待機で
普通はVTuberの配信に顔は出さないマネージャーの立場を覆し、あえて大きく出た。
思わぬマネージャーのフォローに、二人は慌てて後ろを振り向く。
そこには窓ガラス越しに親指でグッとサインするマネージャーがおり、二人の内、特に旋律はそれに気持ちを落ち着かせられ、微笑んだ。
“ゆうにぃの、ばか”
そんな思いを感じながら、旋律は小さく息を整えて続行する。
『まぁ確かに罰ゲームが無かったら視聴者の皆からすると面白くないけんね。でも残念ながらそれはないとね』
『なんでですか?』
『だって私、負けんばい』
:この安心感よwww
:ヨルナの配信も見てるから上手さはわかるけど、俺は旋律ちゃんを応援するぜ!!
:確たる勝利の代金 ¥10000
:なら便乗して ¥50000
:便乗と言って五倍はエグいwww
『あはは! スパチャありがとうやんね。けど無駄遣いはあかんとね。ちゃんとお財布にも気遣ってあげんとね』
:大丈夫、推しの為なら惜しまない主義だからな!
:なんなら働いて稼ぐ意味って旋律ちゃんの為と言っても過言じゃない
:わかりみが深い。寧ろ金を使う先がここぐらいしかない
:じゃあ俺からも。これで配信終わったらヒスイちゃんとランチデートしてきな ¥610
:610円wwwww
:そこは奮発しろやwwwww
『で、でも610円もあったら色々贅沢できるよね……! その、お菓子とかスーパーで買えば四つとか多く買えるし……!』
『そうやね。ふふっ、でも今回送ってくれたスパチャは大事に使わせてもらうばい! じゃあ早速、やっていくやんね!』
視聴者との触れ合いに区切りを付けて、二人のアバターは画面右下に縮小される。
そして器用に画面を変更して、今回の企画で対決する内容の音ゲーを表示する。
:おっ、これは!
:今流行りの音ゲーじゃん。ボ○ロの公式音ゲーみたいなのだっけ
:そう。鬼畜難易度が多くある化け物だぜ
:消失不可避www
『ヒスイちゃんこれ知ってる?』
『聞いたことあるぐらいは……あまり、音ゲーとかやったことないので……』
『ならヒスイちゃんもやるしかないとね!』
『えっ!? で、でもこれは旋律さんの特訓配信じゃ……!』
『見てるだけじゃつまらないやんね。だからヒスイちゃんも遊ぶんよ』
:良い提案だwww
:確かに見てるだけじゃなく、ヒスイちゃんのプレイも見てみたいぜ!
:でもやったことないって発言からするに、可愛らしいプレイになりそうだな
『まずは手始めに最低難易度のeasyからやってみるやんね。曲は知ってるのあるとね?』
『んー……。あっ、この曲知ってます……!』
『どりーみ○チュチュ! この曲、可愛いやんね!』
『そうなんですよね……! MMDとかを用いたダンスも凄く可愛いですし、かなりお気に入りなんです……!』
『私も大好きばい! 特にサビのちょこらったったったった♪がいいとね!』
『そうですよね……!』
:あああああああああっ!! ンガワイイイイイイイイ!!!
:歌うのやめろ、興奮しちゃうだろ!?
:はぁはぁはぁはぁはぁ!!!
:hshshshshshshshshshs
:なにしても可愛いのズルくない?
:音ゲー要素なんかいらねぇ! もうこの二人のやりとりを永遠に聴いてたいぜ!!
:おじさんもちょこらったするぞぉー!
:ちょこらったすんなwwww
もちろんこの後二人は音ゲーをプレイするのだが、こういったやり取りが多く視聴者一同はメロメロに。
しかも時折ヒスイと旋律は無意識に歌を口ずさむせいで、余計にコメント欄は荒れた。
だがその中からコメント削除される者は居なかった。
何故なら裏方を務める裕也自身、二人のやりとりの尊さに胸打たれ、悶えていたのだから。
義妹がVTuberで、俺はそのマネージャーらしい 御宅 拓 @Taku20210
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