報道7 あなたは、誰だったんでしょうか。

「――ジュン!?な、なにしてるの!」


私の腕を掴む黒髪の男の人と同じように激しく息を切らせた茶髪の男性が、その腕を掴みながらまた大きな声で叫ぶ。


「アミちゃんごめんね!大丈夫?」



「あ……はい…」


まだ掴まれたままの腕をチラリと見てから、戸惑いつつもその男性に視線を移した。


見覚えのある顔に少しだけ安堵したものの、状況は飲み込めない。



「…あれ?アミちゃん、なんか顔色悪くない?」


その言葉に、先程まで少し痛いくらいの力で私の腕を掴んでいた手が、なぜか緩んだ。


不思議に思い視線を掴まれている腕へと移し、そのまま相手を見上げる。


「分かってんなら放せよ」


それとほぼ同時にユウさんの不機嫌そうな声が隣から発せられると、肩を抱き寄せられた。


腕を掴んでいた手が放されバランスを崩した私は、そのままユウさんの腕のなかへと収まってしまう。


意外にもふらつくことなくしっかりと私を抱き留めてくれた細身の身体からは、グレープフルーツのような少し苦みのある香りがほのかにした。


気分の悪さを軽減するかのように、私の鼻を爽やかに通り抜ける。



「あの、具合が悪いなら楽屋まで僕が抱いて――」


「ふざけんな」


腕を掴んでいた男の人の提案に、カナムさん以外のメンバーの苛立った声が重なった。


「いくら共演者とはいえ、いきなり腕を掴むなんて非常識じゃないか?」


「すみません、つい…。でもあの僕、亜未さんの――」


――…私の?



さっきは驚きすぎて、顔を見たものの誰なのかは認識できていなかった。


知り合いなんだろうか…と、回らない頭で顔を思い出そうとするが、気持ち悪さが勝ってしまう。



その様子を見ていたのか気分の悪さを感じたのか、ユウさんが小さい声で「行くぞ」とだけ告げ足を踏み出した。


「あっ!!ユウ、なに勝手に連れて行こうとしてるんだよ!」


ジンさんの騒がしい声が頭に響く。


「…は?なにが」


相変わらず温度の低いユウさんの声が、やけに心地よく感じた。


「アミは俺が連れて行くって言ってるだろ!放せ!」


ジンさんの声が近くなったと思ったら、今度はがっしりとした広い胸板に押し付けられる。


「いや、そんなことどうでもいいから早く――」


「ジンさんずるい!僕が抱っこするって言ってるのに!」


「テルに抱き上げられるわけないだろ…。そもそもアミに触るな」


続くテルの抗議と、さらに強く押し付けられた胸板に疲れた私は、もはや考えることを放棄した。


「最近鍛えてるんです!だから抱っこできます!」



もう抱っこでもなんでもいいから、とにかく休ませてほしい…。



気持ちの悪さが酷くなっていき、もう支えられて立っているのが精一杯だった。


「――ストップ。アミは自分で歩けるって言ってるんだから、誰かが支えてやればいいだけだろ。もうジンでもいいから早く連れて行ってやれ」


長かった言い争いに、ようやくカナムさんの仲裁が入る。


それを合図に、ジンさんは私の肩を強く抱きながらようやく楽屋へと歩き出した。


チラリとうしろを見遣ると、カナムさんが残って対応してくれている。



やっぱりカナムさんは頼りになるな…。


そんなことをぼんやりと思っていると、また大きな声が聞こえる。


「あ、あの!待って亜未、連絡先――」


「わああああ!!ジュン、なに言ってるの!」



最初の男の人がまた私の名前を呼んだ気がして振り向いたけれど、もう1人の声に搔き消されて、なんて言っているのかまでは分からなかった。


ジンさんたちは振り向いたあとすぐに向き直って歩き出したので、私もそれに合わせる。


でもわざわざ息を切らせてまで私を探して来てくれたのかと思うと、なんだか申し訳ない気持ちになって、もう1度振り返った。


ぼんやりとした視界と頭では、結局誰なのかは分からなかったけれど…。

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アイドルですが、熱愛報道が出ます。 有栖詩織 @Alice_Shiori

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