泣く子

白川津 中々

 公園に着くともう息切れしていたが、俺は高台へ向かった。


 坂はなだらかでしっかりとした階段が敷かれているのに、足が覚束ず進むのに不安がある。果たしてここを登り切り無事帰られるのだろうか。もしかしたら途中で動けなくなってしまうかもしれない。そんな懸念が頭をよぎるも、徐々に強く吹く風に心躍り、身体が軽くなっていった。併歩していた見知らぬ子供も同じ気持ちのようで、等しく速度が増してく。

 階段を一段飛ばし、風を切って駆けるともう頂上だった。広場には芝生がありベンチがあり東屋があった。人々が太陽光を浴びて笑い、口々に楽しい、楽しいとうたう、幸せな、絶対的な幸福がそこにはあった。一時とはいえこの場にいる人間は全員細やかなる至福を享受している。なんと平和な事だろう。僅かな時間だが、心満ちる良い日だと思った。だが、ここに俺の居場所はない。どこへ行っても居た堪れない気持ちになるだけだ。

 

 帰ろう。踵を返す。すると、先に歩を共にした子供が泣いていた。けれど、声は出していない。周りに気を遣っているのか、それとも喋れないのか。いずれにせよ、幸福の渦中に一つの不幸が混じったのは確かであったが、誰がどうするわけでもなく、また、どうしようもないのだった。俺もまた同じくどうもせずに帰路を歩く。関係ない事だ。どうでもよく、どうにもならない。


 階段を降りてしばらく、背後から鳴き声が上がった。なんだ喋れたのかと独り語ち、素知らぬふりして帰宅した。

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