3・執行-5[強制執行]

少額訴訟を起こした裁判所に連絡をとった。少額訴訟を担当した書記官さんに繋いで貰う。必要な書類や料金の確認をし、郵送。


藤沼氏は受け取りを拒否したようだが、2度目で送達が完了する。人に無駄だと言う割には、自身が無駄なことをするのは何なのだろう?


藤沼氏のスタンスは「逃げる」だと公言していた。

・売れないと思ったものは撤退。

・悪い感想は目を背ける。

・トラブルになりそうなことは逃げる。

・嫌なことは目をそらして忘れる。

ストレスを負うくらいなら逃げることは悪いことではない。だがゴミを撒き散らして逃げていいわけではない。

発つ鳥あとを濁さず。まずは自身のしたことに責任を持った上で逃げる。

出すもの出したら自分の尻を拭いてからトイレから出る。汚物のついた尻で逃げ回っても汚いだけだ。


正本と送達証明と共に用意しておいた強制執行の書類を送る。細かいミスは訂正印をすべての書類に押しておくことで、担当書記官さんに対応して貰う手はずだ。

ちなみに損害金利子の3%の期限は書類を提出した日で切るそうだ。発送日から郵送分のタイムラグ1日を足して2千円位になった。計算式は教えて貰っていたが、利息計算してくれるサイトがあった。


 差し押さえは委託をしている2社に行う事にした。差し押さえは6ヶ月間満額になるまで続くので、特集ページのあった1社でもよかったのだが、手数料(4,000円)が二社分(8,000円)が差し押さえ金額に追加できる。

それに差し押さえに気付いて販売を停止する可能性もあるので、確実に一度で仕留めたいというのもある。

書類作成費や送料も差し押さえの金額に入っている。


 全部で15,000円位になった。


 いくつか書類ミスはあったものの裁判所側に迅速に対応して貰い、振り込み日前には裁判所から各社に差し押さえの連絡が行ったはずだ。


数日後、各社から陳述書が届いた。


債務者に対しての債権の有無、債権の種類、弁済の意思、弁済金額。他に連絡先の電話番号が書かれていた。


金額は両社ともに希望満額対応可能。差し押さえ成功である。

あっさり成功して拍子抜けなくらいだ。


あとは僕から直接の各社に連絡を取って振込先を教えるだけである。


といっても裁判所から債務者に差し押さえた旨を伝えてから一週間待たねばならない。人によっては、差し押さえが決まっても本当にその債権から引かれて困る事もあるからだろう。裁判所はあくまで中立なのだ。


藤沼氏は実家暮らし。まさか実家の住所と会社を把握されている上に、会社に在籍しながら親のスネをかじりって創作活動で収益を得ようと言うのだ。逃げられるとか思っていたわけではないだろう。


今時作品を世に出せば、大抵SNSで告知をする。連載を持っていれば出版社と作品が割れ、収益の出るSNSに作品を投稿すれば、運営会社もすぐ割れる。

創作活動で収入を得る=債権を知られるということだ。


創作活動で収益を得るのに債権を押さえられない為には、創作活動のペンネームを知られないか、直接取引。例えば同人誌即売会で手売するくらいだろうか?

大手だったら強制執行で、執行官に動産として新刊を差し押さえられるか可能性もあるが。それとも差し押さえに来た執行官の横で、差し押さえられるお金を作る作業になるだろう。

だが今は感染症の影響で大規模同人誌即売会は中止。小、中規模の即売会はあるが、藤沼氏は県外で遠征費がかかる。情熱なく二次創作を行っている藤沼氏はコミケのような大規模なイベントではない限り割に合わないと考えるだろう。


各社の陳述書の電話番号に問い合わせると、居なかった筈の担当者が突如現れたり、本当に席を外していたり折り返し電話をいただいたりなどしたが、問題なく2社とも振込先を教える事ができた。

T社はメールだったが、M社は何故かFAXで送ってくれとの事だった。

今時は滅多に使わないFAXだったが、裁判の事前アンケート送ったり裁判所に送った書類の修正確認で使ったりと、今回は大活躍だ。


各社から送金があった。T社は迅速に。M社は僕のサークル売上と一緒に入金されていた。

振込手数料は、債権者の負担となるのだが、T社は100円、M社はサークル売上のついでだからか手数料が0円だった。


ここまで事件発生から7ヶ月。長いようで、思ったよりは短かった。 かなり大口を叩いてこられたが、相手の墓穴であっさり終わった。

これが「ざまぁ」か…


実は債権回収の強制執行成功率については、正確なデータは無い。


成功例で検索すると弁護士や認定司法書士が関わるもの、高額なものが多く、少額訴訟で個人が成功した具体例は軽く検索かけても見つからない。 個人間の問題なら尚更だ。

強制執行が難しいと言われているのは、数年前まで弁護士に高額を払わないと銀行口座番号を調べられないとか、債務者の住所や仕事先を押さえても身軽で行方不明になったり、生活保護を受けているので取り立てられない等といった失敗談は個人でも会社相手でも弁護士を雇ってもある話だ。更にメールのみのやり取りの場合、お互いの詳しい素性を知らずとも依頼はできるが、そのまま住所氏名不明のままに逃げられるということもあるだろう。それに対して成功例をわざわざ公言する人は少ない。

更に子供引取の強制執行成功率が3割というデータも混ざって、強制執行は成功しにくい印象なのだと思う。


だが確かに強制執行は無駄でも不可能でもなかった……まぁ相手が良かったというのは大いにあるが。依頼を受けたときと違い、ちゃんと相手を見極めた結果だと思っている。


倍返しだ!と言いたいところだが、実際は訴訟費用や損害金を合わせて藤沼氏に請求できたのは、原稿料の1.3倍返しといったところだろうか。


今回原稿料を引くと、内容証明の発送代金や裁判所に書類を送る送料、使わなかった第三者からの情報取得手続申立書など、だいたい20,000円くらいの細々した請求できなかった費用があった。


内15,000円位は執行できなかった第三者からの情報取得手続申立費用だ。そして残り5,000円位は念の為戦略の確認に使った弁護士相談料である。そう考えると元金+諸々費用は出頭費などで賄えたのである。もう少し早く気づいていれば、第三者からの情報取得手続申立の前に回収できたかもしれないが、まぁこういうのを勉強代というのだ。


実は今回訴訟以外で藤沼氏には一万円弱ほど損がある。PayPalの取引を2回ほどキャンセルしている。キャンセルすると支払いの際に発生した手数料を引かれた額がPayPalから返金される仕組みだ。

銀行でも、口座を間違えて振り込むと手数料だけ取られて振り込みは成立しないというのと同じだろう。あれだけ人の責任にして支払いをケチってきたのに、その件について何も言ってこない。

 時折まるで無知のように振る舞うのはなんだったのだろう。


 ともあれ収支的にはプラス。

相手の支払いを12万で済むはずだったところを16万にしたことが今回の経済的報復といったところだろう。



今回の件で描いたイラストもある。せっかく藤沼氏が削除してくれたのだ。カップリングが好みじゃないので、そこは修正+追加で描けば、僕の新作同人誌が作れる。

作品には罪はない。


ミスはあったが、逃げずに行動すれば取り返せるものなのだ。


今回は一緒に作った人が良くなかったことがわかった上で、精算できた。

そういう意味ではとてもいい勉強になったし、提訴してよかった。


そして、藤沼氏がちょうど差し押さえの通達が行った時期にTwitterで

「ちくしょう、やられた」と一言だけつぶやいていたのは、

数年後に思い出しても胸がすく思いだ。

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【実録】神絵師じゃないから原稿料踏み倒されたけど裁判で全額回収する備忘録。「不満なら訴えればいい」と言われて本当に訴えたら、相手から届いたメールにはとんでもないことが書かれていた。 こうき @koukikuu

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