第40話 友情エンド
アイオロスが泣き疲れて眠るクリスの髪を優しくなでていた。
その顔は悲しく、それでも歓喜が抑えられないように歪んでいた。
そんな自分を浅ましくでも思っているのか、まるで
「クリス嬢は寝たのか?」
それを見て、黒ネコ──九煉は声をかけた。
「ああ、クレン君。彼の……ユウト君のおかげでね」
彼の顔色を察して、九煉は言う。
「感謝も、懺悔もいらない。親友はただ彼女のためだけにそれをやったのだ。クリス嬢が生きている事実以外、あいつはなにも欲しがりはしない」
九煉は首に巻いている白い布から『聖剣グラムスティガー』を取り出した。
「また折れてしまったが、しばらく使うことはないだろう。なおさせるならガルムの技が失伝する前にやっておくのだな」
そして踵を返す。
「君はこれからどうするんだい?」
「またどこかに生れ落ちる親友を探しにいく」
その言葉にアイオロスは息を呑んだ。
「生まれ変わりを、信じているのかい?」
「信じているのではない。生まれ変わるとわかっているのだ」
「生まれ変わったからといって、それはすでにユウト君ではないだろう」
それは、そうだ。
いきなりあなたの前世は○○でしたよ、と言われて信じる者は少数だろう。なにせ憶えてもいないことなのだ。
だが──
「心配は無用だ」
九煉には秘策があったのだ。
あの勇人が封印の儀をしているとき、死の直前に九煉は勇人に駆け寄った。
そして、『予備』の聖杯レプリカを用いて、『勇人の記憶』を『魂』に封印したのだ。
そのために、前夜、魂のある場所を談義し、そこに『魔方陣』を刻んだのだから。
あとはこの多存在世界のどこかに生れ落ちる勇人を探すだけだである。
「では、世話になったな」
九煉は振り返りもせず、屋敷を出た。
すでに、空は夕闇に沈もうとしていた。
あの最後の日、勇人と共に見た夕日によく似ていた。
それを見あげながら、九煉は決意を胸に歩き出した。
出会うのはどこか。いくつ季節を巡り、
それでもただ親友のことを想う。
「逢いにいくぞ。必ず、おまえのもとへ」
どれだけ時間がかかろうと見つけ出してみせる。
それが、ふたりでかわした約束なのだから。
さあ、世界の門をいま再び開けよう。
いつか逢えるそのときまで──
「しばしの別れだ、親友」
九煉は不敵にわらい、歩み続ける。
いつか巡りあう、彼のために。
悪友と異世界へ 〜ヒロインルートを退けて友情エンドルートに突入しました〜 宮原陽暉 @miya0123456
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