第3話 待てない未来図



 とある博物館横の建物ーそれは現代建築ではなくかなり歴史を感じる物だった。もちろんこれはレプリカとして近代に建てられた物で当時のものではない。その中には2人の男がいた。

「それにしても、またナガノとマツモトがドンパチやらかそうってのか」

1人は中途半端な長髪をハーフアップにし、某芸人よろしく真っ赤なスーツを着ている。その首には六文銭を連ねたネックレスが光っていた。

「それは何処からの情報だ?」

もう1人はジャージ姿、木製バットで素振りをしている。室内はそこまで広くはないので、赤いスーツの男は少し迷惑そうだ。さすがに危ないと判断したらしく、目の前に立て置きしていたタブレット端末をその手に持ち直した。

「キソからだよ。もっとも、裏をとるために俺も間諜を使ったがな」

「さすがウエダ、抜け目ないな」

ジャージの青年は一際大きくスイングした。ウエダと呼ばれた赤スーツは、その見事なフォームに目もくれずタブレット端末を弄る。

「サク、お前のところには流れてきてないのか?」

「いや、俺そんなに接点ないし」

「ほぼ唯一の接点だった例のコンテンツもナカツガワに売り払ったからな、奴は」

可笑しそうにウエダは口の端を吊り上げるが、サクの表情は変わらなかった。

「まあ、あいつ自身も情報も頭から信用出来ないからな」

「勉強が出来る訳でもなければスポーツが得意な訳でもない。裏切り、分断工作と、風向きに反応して長い物に巻かれるのだけが取り柄の奴に信用も何もないだろ」

表情こそ変わらなかったが、サクの辛辣な言葉にウエダは少し驚いた。一瞬顔を上げたが、サクと視線が合うことは無かったので、またタブレット端末に視線を戻す。

「所詮自力でやっていけない南西の遠吠えだ」

「かといって北東が全部恵まれてるわけじゃない。ウエダ、お前みたいに」

サクの指摘は的確だった。ウエダは恵まれている。ほぼ永続的に収入に繋がる資源を持っているからだ。サクからの指摘を褒め言葉だと受け取ったのか、ウエダはニヤリと口角を上げる。

「平安以前と戦国、幕末じゃあ人気と知名度が違い過ぎるからな。それに大河、アニメ、ゲームの要素も加わって老若男女金を落としてくれる。元から恵まれているところに、さらに富が集まってくる」

「お前はそれ以上何を望む?」

サクはバットを下ろし、今度はしっかりとウエダの目を見る。

「望んではいない。俺はただ待つだけだ。マツモトがナガノに噛み付いた後のことをな。そこから先は流れに身を任せるだけでいい」

自分よりも力のある者達が倒れれば、分裂か、もしくは新たな頭を掲げるか。どちらに転んでもウエダに損はない。正統性がない訳ではないが、サクはそんなウエダのやり口をどことなく釈然としない気分で見つめるしか無かった。


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シナノインワンダーランド 原多岐人 @skullcnf0x0

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