第2話 避けたい面倒事
日本最古と言われる御本尊を有する寺院の庭に2人の男が佇んでいる。1人は僧衣だが、剃髪はしておらず眼鏡をかけている。もう1人はスーツ姿で同じように眼鏡をかけている。2人の立ち姿はよく似ている。そして、縁側に1人の黒髪の少女が座っていた。その傍らには、巨大なスコープが付いたライフルがある。彼女の巫女のような装束とはミスマッチもいいところだ。
「まったく、またマツモトの我儘か」
眼鏡を直しながら、僧衣の男が言う。
「まあ今に始まった事じゃないとはいえ、ほぼ言いがかりだから相手にする必要はないと思うけど」
スーツの男は苦笑いしながら言った。
「狩る?うるさいし」
少女はライフルを南の方に向ける。
「相変わらず物騒だな、スワ。お前はマツモトから声を掛けられてたんじゃないのか?」
「マツモト側についてもうまみがない。ナガノが何とかしてくれるなら任せる」
スワと呼ばれた少女は僧衣の男ーーナガノに一瞬だけ銃口を向けてすぐに下ろした。
そこへスーツの男が割って入る。
「まあまあ2人とも、とりあえずリンゴでも食べて落ち着いて」
「ナカノ、何でお前はそんなに呑気なんだ。というか、前から気になってたんだが畑や栽培室でもスーツなのか?」
スーツの男ーーナカノは笑いながら否定した。
「まさか。営業の時だけだよ。いい物を作っても上手く宣伝しないと正しく伝わらないからね」
「お前の生産物はシナノのイメージアップに繋がるからな、感謝している」
「同じ概念に包括されている限りは運命共同体だからな。あと、シナノのイメージを支えているのは俺だけじゃない」
そう言われたのと同時に、袖を引かれていることに気付いた。見ると、スワがナガノの袖を引っ張っていた。
「スワの存在も大きいな。少々クセが強いが」
「わかってるじゃない」
スワがニヤリと笑うが、不敵というよりも可愛らしさの方が勝っている。
「クセが強い、と言えばキソの動向が気になるな」
ナカノが眉を顰めながら言う。リンゴは蜜が入っていて甘いはずなのに、その表情は苦々しかった。
「あいつは基本信用出来ない。風が吹いた方に向くし、長いものに巻かれていく」
スワはスコープを通してまた南の方を見た。
「奴1人ではそこまでの力は無いが、マツモトと組むのは厄介だな。ナゴヤやシンジュクとも繋がっているからな」
ナガノも歯の隙間にリンゴの皮が挟まったような違和感を感じていた。
「何を目的としているかわからないのが不気味だね」
「……早めにケリをつける必要がありそうだな」
そう言って、ナガノが最後の一切れのリンゴに手を伸ばそうとすると、それはすでにスワの手中にあった。
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