赦しを乞うひと

花染 メイ

赦しを乞うひと


もうすぐ終点に着く。


そう思いながら、僕はどこか夢見心地で窓の外を眺めていたんだ。


君がいなくなってから、しばらくこの汽車は深い闇の中を走っていたんだけれど、僕はふと、重大な事に気がついてしまった。


そうだ。

僕はみんなに伝え忘れたことがあるって。


思わず鉄砲玉みたいな勢いで席を立った。

そのせいかな。

車体が少し揺れた気がしたよ。


君の座っていた向かいの席が空っぽになってから、初めて思い出したんだ。


いつか、ちゃんと話そうと思っていたんだけれど、案外時間がなくて、結局言いそびれた。


僕は臆病だね。


ここからは僕の独白。


誰も聞くことのない懺悔の言葉。




君へ。

あのね。

今更なんだけれど、僕は君に謝らなくちゃいけないことがあるんだ。


まず、ごめんなさい。


あいつに嫌がらせされていた君を見ても、表立って助けてやらなかったこと。


言い訳にしか聞こえないかもしれないけれど、今は僕が君を積極的に庇うよりも、あいつらが君に嫌がらせをすることに飽きるまで、そっとしておくのが最善だと考えたんだ。


熱しやすく、冷めやすい。

所詮、あいつらの嫌がらせなんて、そんなものだから。


あいつと、あいつの取り巻き達はまだ、「こども」なんだ。

君みたいに立派に働いたこともないし、相手の気持ちを推し量るのがあんまり上手じゃない。思いやりの気持ちに欠けているんだ。


それにきっと、あいつらは君が羨ましかったんだと思うよ。君が家族に愛されていて、君自身、とてもいい子だから。


僕はそんな君と友達でいた事を、とても誇りに思っているよ。


君をいじめる奴らのことは、寛大な心で赦してやってほしい。

でも、無理にとは言わないし、あいつらを好きになってほしいとか、仲良くなってほしいなんて、これっぽっちも思っていないからね。


伝えておきたかったのは、あいつらの考える事が、君よりも少しばかり世間知らずで、幼いっていう事と、君はとても強くて優しい人間だっていう事。

ただ、それだけだ。


最後に。

今まで仲良くしてくれてありがとう。

心の底からお礼を言うよ。

どうか、お元気で。

僕はいつでも君の幸せを願っています。




それから、僕の母さんと父さん。


親不孝な子供でごめんなさい。


僕はその時とるべき行動として、一番いいと思ったものを選択して実行に移したけれど、もしかすると大失敗だったかもしれない。


精一杯やりきったつもりだったけれど、やっぱり僕は無力だった。


自分の家族を悲しませるような真似をしたこと、心から反省しています。


今まで愛してくれてありがとう。

感謝してもしきれないほどです。2人の子供に生まれてくることができて、僕はこの世で一番の果報者でした。


父さん。

先に旅立つ不孝をおゆるしください。


でも、あなたは冷静で賢い人だから、きっと大丈夫でしょう。


どうかお身体に気を付けて。

とはいえ、迷惑をかけた張本人である僕の心配なんて、ただの余計なお世話ですね。軽く聞き流してください。


父さんのこれからの人生が輝かしいものであることを切に願います。



母さん。

僕がそちらへ向かうのが、いささか早すぎるとお思いかもしれません。


しかし、僕は今、とても幸福な気持ちに満たされているのです。


僕は溺れた友人を一人、救うために川へ飛び込みました。


僕がしっかり船の方へ押しやったので、彼はきっと助かったでしょう。


少し無茶をしてしまいましたが、僕はよく頑張ることが出来たと思います。


僕のしたことを、母さんはきっと赦してくださると、そう信じてそちらへ向かいます。




あぁ、もうそろそろ、本当に到着みたいだ。

僕の旅もこれでおしまい。


それでは皆さん。

機会があれば、また何処かでお会いしましょう。


それまでどうか、お元気で。

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