「物語を全く書けない」人が「物語を書く」方法
こぼねっら
「物語を全く書けない」人が「物語を書く」方法
■物語を書き始める方法
★「あって当たり前」と思っている大切なモノ・コトを、物語の世界や登場人物の中から「一つ」無くしてみます。
(たとえば、「愛する人」「重力」「カード勝負であらゆる物事の勝ち負けは決まらない、という常識」など。)
この物語の世界ルールでは、何かモノ・コトが失われると、必ずそれと引き換えに、新しく何らかのモノ・コトが手に入ります。
この物語のルールでは、失われてしまったモノ・コトの価値が大きいほど、引き換えに手に入るモノ・コトの価値も大きくなります。
それは登場人物の中での連続性・価値観で構いません。
私達の視点では「そんなものと」と思える程度のものとの交換でも、物語の登場人物やその世界にとってほぼ等価のものであればお話は続いて(続けて)いきます。
たとえば、百万円とそのへんにあるただのガラス玉が交換されたとしても、そのガラス玉がその時の登場人物にとって、そのぐらい大きな価値を持っていれば、それは割の合う取り引きだと言えます。
また、この物語のルールでは、一度失われてしまったモノ・コトは、もう絶対に完全な形では元に戻り(戻せ)ません。
(失われてしまうものには"時間"も含まれます。)
それでも物語の主人公や世界は、失われたモノ・コトを完全に元に戻そう(取り返そう)とし続けます。
■物語の進行
以下の繰り返しで物語は進んでいきます。
物語の主人公や世界から、あって当たり前だと思っていたモノ・コトが、一番最初に、一つだけ失われます。
↓
物語の主人公や世界は、失われたものと同じ(くらい)価値があると期待される別のモノ・コトを、元のモノ・コトと交換で新しく入手します(作者がそれを用意します)。
↓
新しく手にしたモノ・コトもまた失われます。
↓
再び、失われたものと同じくらい価値のあるモノ・コトが手に入ります。
物語の書き手ができることはただ一つ。物語の主人公や世界が、物語冒頭で失ったモノ・コトを、最終的に完全な形で取り戻せるよう、手助けし続けることです。
■物語の結末
物語の最後に、主人公や世界が、どれほどの何を得て、何を失うかは、作者であるあなた次第です。
■これは何か
「失われたものを、何らかの形で得る」形式の物語です。
■物語の冒頭で失われるものを何にするか
物語の書き手であるあなたが、かつて持っていて、今は失ってしまったモノ・コトを選んで、物語の中に登場させることもできます。
こうなると、物語の内容は私小説的なものになります。
世界にとって大切なものを選べば、歴史小説やSFといった壮大な物語になりえます。
純粋にエンターテイメントとしての物語を作りたいのなら、冒頭で失われるものは物語世界にとって大切なものにします(例えば「剣と魔法の世界」なら、平和や宝物、誘拐された人物など)。
■痛み
物語の中に棲まう登場人物や世界のことを大切に思う人には、この、「失わせる」という行為が残虐なものだと感じられるかもしれません。
ただ、物語を始めるためには、どうしても物語の登場人物や世界の平衡状態を崩す必要があります。
"楽園追放"です。
考え方として、物語の初めに、何か一つのモノ・コトを増やすという方法もあります。
それでもやはり、元の状態から何らかのモノ・コトが失われている(平衡状態が失われている)ことに変わりはありません。
物語の初めに失われるものを決めることは、物語の作者であるあなたにとって、一つの選択です。
それは物語世界の中では喪失になり、登場人物や世界にとっては痛みです(もしかしたらあなたの中でも)。
「痛み」が物語を始める契機になります。
■物語の進め方
話芸や一般的な芸術形式は、"緊張"と"緩和"の繰り返しで進みます。
ここでは、
"緊張"の場面が、「失われたものを取り戻せるかも」
"緩和"の場面が、「失われたものを取り戻せた(あるいは、取り戻せなかった)」
に当たります。
「取り戻せなかった」という結果がもたらされた際は、同じ程度に価値のあるものが、必ず何か別の形で主人公や世界に補填されることになります。
■物語中の出来事
読者の衝撃度は、以下の場面前後の落差になります。
普段と同じルーティンの一場面で、何かが失われる。
新たに一つ、何かを失うかも、という場面で、何も失われない。
■「失われたものを、何らかの形で得る」物語形式から見た場合の考察
□異世界転生もの
異世界転生ものでは、男主人公が「俺つええ」という状態になります。
主人公は、物語冒頭で”意図せず”事故死し、彼の"肉体と生命"というモノ・コトが”すべて”失わてしまいます。
そのため物語世界は、それに見合うと期待される報酬・価値を彼に引き渡すことになります(ただし別の形で)。
“かつての自分すべて”を失う、という”不運・不遇”を受け入れさせられた彼は、それと引き換えに、物語世界の中で「俺つええ」の可能性を補填されたと考えることができます。
□「ざまぁ」もの
「ざまぁ」ものでは、女主人公が物語の結末で復讐を果たした上、元の状態よりもより大きな報酬を得ることになっています。
それは、一つには、彼女が物語の初めに失ったのが"約束された将来"という、”不定の価値”を持った”未来の総和”であったからと考えることができます。
加えて、物語の進展は、彼女から”時間”という二度と取り返しがつかないものを大量に失わせてしまいます。
”約束された将来(未来)”と”大量の時間(過去)”が失われた結果、”現在”の彼女の報酬は(見かけ上)元の状態以上に大きくなります。
□マクガフィンもの
マクガフィンもので、最初に失われるのは"誰かにとって大事なモノ"であって、主人公や世界にとっては大切なものではありません。
そのため、物語世界はその価値を埋め合わせる必要がありません。
誰かにとって大切だった"モノ"は、主人公や世界から疎外され、初めから本質的に無関係なものなのです。
そのため、物語が進むにつれ、その存在は行方不明になっていく、と考えることができます。
■この物語世界の決まりごと
物語の主人公や世界が失ったものは、ほぼ同等の価値を持つと期待されるものと常に交換されます。
失われたモノ・コトに見合うだけの価値を持ったモノ・コトが補填されないと、この物語の世界は続いていきません。
先に失うばかりではなく、たとえば前もって"登場人物(たち)が与える“エピソードには幸せな結果がもたらされることになります。
もし、これらの物語の約束事が破られると、その物語はとても意外なものに感じられるはずです。
■応用
既存の物語と同じような作品を作りたい、という場合、任意の作品で、物語の初めに何が失われているかを自分なりに探してみるという方法が考えられます。
また、物語の場面場面で、何が失われて、その代わりに何が供給されているか、その交換内容を探し出してみます。
解釈の数だけ正解はあると思いますが、自分なりに探し当てた要素を元に、あなたの新しい作品を生み出せるかもしれません。
■その他
"彼や彼女"が大切だと決めたものを失っていく物語では、彼や彼女はあらかじめ物語世界から脇に疎外されているので、彼・彼女ら自身の存在を保証した結末になりにくいかもしれません。
叙述トリックものでは、初めに失われたもモノ・コトが、物語の語り手(作者)によって意図的に隠し続けられます。
■備考
この「失われたものを、何らかの形で得る」形式の「物語」の世界ルールは、私達が生きる「現実」の世界ルールとは異なります(世界は失ったモノ・コトと同じだけの価値を持つものと取り替えてはくれないし、そのような公平さも存在しません)。
けれどその現実世界の中で、物語は何事かを語ることができます。
物語世界の中でなら、あなたは登場人物や世界に対して、失ってしまったモノ・コトと同じくらい大切な何らかのモノ・コトを補充・交換してあげられます。
その援助を持って、何事かを語らせることができるのは、あなただけです。
そこにこの「失われたものを、何らかの形で得る」形式の物語への誘惑があります。
物語を語り始めた物語作者であるあなたには、もしかしたら、物語の読み手に対する幾ばくかの責任感が生じるかもしれません。
読者の一人にはあなた自身も含まれています。
■このテキストについて
私は過去、「一回、小説とか書いてみたいなー」と思ってテキストエディタを前にしたものの、何もできなかった過去があります。
いろいろ調べたり私なりに考えた結果、こうすればとにかく「お話」とか「ごく短い物語」なら書けるかも、と思ってできたのが、冒頭の「■物語を書き始める方法」のようなことでした。
とにもかくにも、曲がりなりにも物語・小説の書き手になってみたい、というあなたの一助になれば幸いです。
2021-05-16 2317版
「物語を全く書けない」人が「物語を書く」方法 こぼねっら @soutarou_m
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