君に笑顔を

@yoll

第1話

 ソファで眠る、君がいた。お気に入りだった、さらさらの毛布を、お腹に掛けて、ぐうぐうと、いびきを立てて、眠っていた。


 子供のような、その寝顔に、思わずくすりと、笑顔が浮かんだ。


 煌々と部屋を照らす、蛍光灯の下。脱ぎ散らかした衣類を潰さないよう、肩に掛けた鞄を床に下ろす。


 少し薄手だったコートをお気に入りのチェアに掛け、手を洗おうと台所に立つ。


 昨日よりも増えた食器にへばり付いた、輪切りの鷹の爪の赤色がやけに鮮やかに目に飛び込んだ。


 蛇口を捻ると水が流れ、ごぼごぼと汚い音を立てて排水溝へと吸い込まれていく。


 シンクには錆が浮いた鋼の包丁が転がっている。独り暮らしを始めた頃からの相棒だ。


 スポンジに洗剤を掛けると包丁を丁寧に洗い流れる水で泡を落とした。


 綺麗になった包丁を手にちらりと君を振り返る。


 私はあと何回笑うことが出来るのだろう。

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