*後日談*男爵令嬢は前を向いて歩く。

いつも私の拙文をお読みいただき、ありがとうございます!

昨日はランキング上位にも入ることが出来、本当に嬉しくて何度も画面を見てしまいました(*´`)


そして沢山の誤字報告、本当にありがとうございました:( ;´꒳`;):

お話を書いた後はいつもプレビューで確認して誤字修正作業に入るのですが、どうやら修正後に保存を押すのを忘れていたようで、修正が中途半端なままになっていました。

本当に申し訳ありませんでしたm(_ _)m


さて、今回で後日談も最後になります。

まだまだ書きたい後日談はあるのですが、それをすると本編より長くなってしまうので、適度なところでお終いにしたいと思います。

こちらも皆様にお楽しみいただけましたら幸いです。




***********************







「い……慰問、ですか?」


「そうです。王太子殿下と妃殿下との間に第一王子がお生まれになったことで、恩赦が出されることになったのはあなたも知っていますね?

今回の恩赦では復権や特赦が適応されるのですが、一部社会に対して危険性の大きい犯罪者には減刑のみ適応されることになりました。

そこで修道院ではそういった方のために、人を派遣して奉仕を行うことにいたしました。

あなたには強制労働に従事する方々の所へ慰問に行っていただきます。」


「か……かしこまりました。」


修道院に所属する者として拒否することの出来ない院長の言葉に、キャスリーンは胸の中に重たいものを抱えたまま、大人しく返事をした。

それを見た院長は優しく眉尻を下げる。


「キャスリーン、そんな顔をしないでちょうだい。

あなたの心配もわかるわ、あそこにはあの人がいるものね?

でもね、これもあなたの為なのよ。

きっとあなたなら大丈夫。

そう思ったから、あなたにお願いするのよ。」


院長の言葉に小さく頷くも、その顔は不安でいっぱいだった。




院長室を後にしたキャスリーンは、肩を落としてとぼとぼと廊下を歩く。

この修道院に来てもう五年になる。

王立学園の三年生も終わりになる時、子爵令嬢のルイーズに脅されて卒業パーティで公爵令嬢を嵌めるために偽証した。

しかしそれはアレクシアによって見事に暴かれ、キャスリーンは学園を除籍されて修道院送りになった。


そのことについて、キャスリーンは誰かを恨む気持ちを持つことはなかった。

病床に伏す母を助けたい気持ちや、実家を救いたい気持ちがあったとはいえ、悪事に手を染めたのは自分。

いつかはきっとバレる嘘だった。

辛さから逃げるために悪魔の手を掴んだ自分が悪かった。

そう思えば、自業自得の結果を素直に受け入れられた。


何よりアレクシアがキャスリーンの実家を支援してくれたことが大きい。

キャスリーンが罪を犯してしまったことで実家の男爵家は取り潰しになるし、病床に伏す母はもう生きてはいけないことを覚悟し、王宮の地下牢に入れられていた彼女は、絶望と後悔に泣き伏していた。

そこに訪れたのがアレクシアだ。




「あなたのご実家には公爵家から支援をすることを決定いたしました。

お母様は王都にある病院に移られたわ。

妹さん達はさすがに王立学園に入学は無理だったけど、公立学校に入ることもできました。」


「なぜ…………?」


あの時、冷たい地下牢の中でその言葉を聞いた時、キャスリーンはアレクシアが何を言っているのか全くわからなかった。

何故自分を嵌めようとした者をアレクシアが助けるのか、理解できなかった。


「あなたがしたことは許されることではないわ。

どんな事情を抱えようと、人を貶めるようなことをしてはいけないの。

でもね、それは倫理の話し。感情は別よね。

家族の命を天秤に架けられた時に、自分が罪に塗れても家族を守ることを選んだあなたをわたくしは責められないわ。

だってわたくしもきっと、大切な人の命と天秤にかけることになったら、悪魔の手でも取ると思うから。

それにね、天災に苦しみ貧困に喘ぐ人を救うのは為政者の仕事なの。

もしその治世が行き届かずに、困窮して罪に手を染める人がいるなら、それはこの国を司る者達の責任よ。

わたくしはこれから王族になる身として、国民の安全な生活を守る責任があるの。

あなたはその第一歩よ。」


気が付けばキャスリーンの瞳からは、大粒の涙が零れ落ちていた。

人々の苦しみを理解し、自らの責任を全うする。

たったそれだけのことだが、いったいどれだけ多くの人の命と心をを救うのか。

恵まれた環境にいて、ボロを着る惨めさも、空腹に泣く悲しさも知らない公爵令嬢が、高みからではなく自らの隣に立って考えてくれる。

その人がいつか王妃として冠を戴くことを、キャスリーンは心から神に感謝した。

気が付けばキャスリーンは地に平伏し、涙と鼻水で言葉にならない感謝をアレクシアに述べていた。


「顔を上げて、キャスリーン。」


恐る恐る上げたそこには、鉄格子の傍に寄り、キャスリーンに視線を合わせるためにドレスが汚れることも気にせず膝を折るアレクシアの優しい顔があった。


「後悔しても過去は変えられません。

でも反省して改めれば未来は変えられます。

まだ若いあなたには、これからいくらでも変えられる未来がある。

わたくしはあなたを赦します。

だから、あなたはこれから前を向いて生きなさい。

誰にも恥じることのない道を歩いて行きなさい。」


言うだけ言って去って行くアレクシアに、キャスリーンは声を上げて泣いた。




あの時、アレクシアからもらったあの言葉を、キャスリーンは忘れない。

それを証明するかのように、修道院に移送されてからは身を粉にして人々に尽くしていった。

あの時にアレクシアがキャスリーンを救い上げてくれたように、誰かを救うことは出来ないかも知れない。

それでも少しでも誰かの為になれるように、他ならぬ自分自身が前を向いて歩けるように、キャスリーンは邁進していた。

そうすることでアレクシアへの恩に報いることができる。

彼女や彼女の夫の治世に少しでも役に立てるようにと。

それを見てきた院長だからこそ、「大丈夫」と思ってくれたのだろう。


だがキャスリーンは内心複雑だった。

あの頃の自分とは見違えるように前向きになったし、自分は変わったと胸を張って言える自信がある。

自信はあるが……正直、ルイーズに会うのが怖い。

もし彼女に会ってしまったら、この幸せな時間が壊されるのではないか、そうしたら自分はまた昔のように弱虫で情けない自分に戻ってしまうのではないか、と。









院長に強制労働施設での奉仕を命じられてから、あっという間に三週間経った。

一ヶ月後の第一王子お披露目の日に合わせて恩赦が出されるので、キャスリーン達は奉仕の炊き出しを行うべく施設へと馬車で移動していた。


強制労働の施設は山間の厳しい土地にあり、そこで建物の骨材や鉄鋼業に使われる石灰岩を切り出している。

働く人の多くが犯罪者なため、与えられる食事は硬いパンや干し肉、野菜クズのスープなどの質素な物ばかりなので、修道院からの炊き出しはとても喜ばれるのだ。

馬車には王宮から支給された食物やワインの他、市民から寄付された衣類や煙草なども乗せられている。

多くは使い古されたボロだが、それでも施設の労働者達にとっては貴重な品だ。

煙草に至っては滅多に手に入らない嗜好品のため、配給からすぐに無くなってしまうくらい人気だった。





「はぁ~。」


「どうかしたの?馬車に酔っちゃった?」


ゴトゴトと揺れる馬車の中で、キャスリーンは大きな溜め息を吐くと、それを見た先輩のメディシーが心配そうにこちらを伺ってきた。


「あ、ごめんなさい、体調は大丈夫よ。

ただ強制労働施設に慰問に行くのが、ちょっと憂鬱で……」


「ああ、なるほど。」


キャスリーンの言葉に合点がいったメディシーが、苦笑いをした。


メディシーはキャスリーンの一つ年上でアレクシアと同じ歳なのだが、以前は王立学園に通っていたので、例の婚約破棄騒動のことは知っていた。

彼女は伯爵家の三女だったのだが、もともと結婚などには興味がなく神の道に進むことを希望していたので、卒業後はすぐに修道院で働き始めている。

少し遅れて修道院に来たキャスリーンと年も入った時期も近いことから、お互いに親しくさせてもらっていた。


「確かに強制労働施設にはあの人がいるから、憂鬱にもなるわよね~。」


学園時代に第一王子ヘイリーにまとわりついて鼻高々だったルイーズの姿を思い出すと、メディシーは苦笑いした。

メディシーはルイーズやキャスリーンとは学年が違うから深く関わることはなかったが、それでもヘイリーに会いに四年生の教室前の廊下を堂々と歩くルイーズを何度か見たことがあった。

一言で言えば、不遜。

傲慢が服を着て歩いている様な女に、友人の侯爵令嬢と眉をひそめたことが何度もあった。


「自分が悪いことはわかってるしあの人には恨みもないけど、でもやっぱりちょっと……怖いの。」


「怖い?どうして?」


「あの人にあったら、元の自分に戻っちゃうんじゃないかって……、そんな気がして。」


キャスリーンの言葉に、メディシーは溜め息を吐いた。


「不安になるのはわかるわ。

実際会うのは五年ぶりだものね。

でもあなたも変わったし、多分向こうも変わってるわ。

だから大丈夫よ。

大丈夫じゃなかったら、院長様だってあなたを代表に選んだりしないわ。」


「あの人も……変わってる…………」


「そうよ。五年も経てば人は変わる。

それにあの人は強制労働施設に入れられてるのよ?

あなたの心配も杞憂に終わるわ。

まぁ見てなさい。」


そう言うとメディシーは手に持っていた繕い物に視線を戻す。

キャスリーンは何だか作業をする気になれず、ガタガタと硬い音を立てながら荒れた道を進む馬車から、遠くの痩せた木を眺めていた。






強制労働施設に着いたキャスリーン達は、施設の職員に案内されて今日泊まる施設内の部屋へと向かう。

大きな部屋の中には二段ベッドが六つ並んでいて、小さなタンスも同じだけ用意されていた。

ここに寝泊まりするのはキャスリーンやメディシーの他、別の修道院から同じように慰問に訪れる修道女達。

中には先に着いていた数人がベッドに腰掛けながら談笑しており、それに向かって挨拶するとキャスリーン達も荷物を片付けながら話に混じった。


翌朝は早くから起きて、炊き出しで振る舞う料理を作る為にキャスリーン達は支度を始めた。

外に作られた簡易の調理場には、キャスリーン達の仕事を手伝うべく手配された強制労働施設の女性達、つまり女囚が二十人ほど待っていた。

代表として他の修道院から来た年配の女性が挨拶をして、女囚達に説明していく。

パンやスープ、煮込んだ肉やマッシュポテトを作る為に、各ブースに別れて作業をすることになった。




キャスリーンとメディシーが担当するのはスープ。

豆と比較的日持ちのする野菜を入れた具沢山のスープを作る為に、取り敢えず野菜を片っ端から切っていった。

野菜は煮過ぎると崩れてドロドロになってしまうし、食べ応えが減ってしまうので、なるべく煮る時間は減らすようにする。

その代わり味に深みが出る様に、修道院で用意してきたトマトソースを入れることにした。


女囚達は作業に慣れているのか、会話も少なく黙々と作業を進めている。

それを見守りつつキャスリーンやメディシーが優しく話しかけると、最初は頑なだった女囚達も次第に色々と話してくれるようになった。


そうやって和気藹々と作業を進めていく。

作業自体は単純だが如何せん食べる人数が多いので、野菜を切るだけでも一苦労だった。

途中何回か交代で休憩を取りながら、いくつもの大鍋にスープを作っていった。




「キャスリーン、そろそろ休憩してきてちょうだい。」


奥で作業をしていたメディシーが声を掛けてくれたので、作業が一段落したところでキャスリーンは立ち上がった。

手を組んで上に伸ばすと、固まっていた身体が解れて脇腹の辺りがジーンと痛む。

首を左右に動かすとポキポキと骨が鳴る音がした。

少し離れた場所へと移動して日陰になった岩に腰掛けると、足を伸ばして天を仰いだ。



「はぁ~、なかなかに疲れたわ。」


ついつい口から零れた独り言。

移動する前にメディシーが渡してくれたカップには、安物だが砂糖の入った紅茶が入っている。

薬缶に直接茶葉を入れて作った大量生産の紅茶は苦味はあるが、それなりに疲れた身体に沁みるくらいには美味しかった。




「キャス……リーン?」


空を見ながらボーッとしていると、ふと名前を呼ばれる。

休憩が終わるまでまだ時間があるはずだが、何か用事だろうかと視線を空から前に落とすと、そこには薄汚れたボロを着て泥と垢で汚れた痩せこけた老婆が立っていた。


「あなた……キャスリーン?」


「はい……あの、私はキャスリーンですが……あなたは?

どこかでお会いしましたでしょうか?」


「キャスリーン……私よ……」


見覚えのない老婆に嗄れた声でもう一度名前を呼ばれるが、キャスリーンはどこの誰だか全くわからなかった。


「あの……、ごめんなさい。

ちょっとどなたがわからないのですが……?」


「私よ……私……ルイーズよ……!」


痩せ細った身体に似合わず目だけが大きく開かれていて、その瞳には涙が浮かんでいた。


「え……ルイーズ…………。ルイーズ!?」


ルイーズと言われた名前を何度も反芻してようやく目の前の老婆が誰だか理解した。

元子爵令嬢、ルイーズ・オブライエン、その人だった。


「久しぶりね、キャスリーン。元気だった?」


懐かしい知り合いに会えたことが嬉しいのか、老婆ことルイーズはこちらに手を差し出しながらヨタヨタと歩いて来ると、キャスリーンの前で止まった。




キャスリーンは目の前のルイーズを見下ろしていた。

元々小柄なルイーズはキャスリーンの視線よりも低い位置にいたのだが、今は以前よりも更に低くなっている。

美しかったピンクハニーのふわふわの髪は痛み切ってパサパサを通り越してガサガサだし、以前のような豊かさは微塵もない。

艶やかで常に潤んでいたチョコレート色の大きな瞳も、相変わらず大きいけれど、白目は黄ばんでいて汚い。

キメ細やかだった肌も乾燥と日焼けで荒れガサガサだし、小柄だったけれどそれなりに豊かさのあった胸もお尻も今はガリガリで、腕には青黒い血管が浮いている。

キャスリーンの腕を掴む手は枯れ木のようで、昔は整えられて綺麗なピンク色をしていた爪も、今は分厚く濁って黒ずんで割れている。

そんなルイーズを見下ろしたまま、キャスリーンは固まっていた。




ーこの哀れな女は誰?ー




頭が追いつかない。

昔のルイーズとは余りにも違い過ぎて、まるで別人を見ているよう。


あの時のキャスリーンにとって、ルイーズは畏怖の対象だった。

自分よりも格上の貴族で、第一王子からの寵愛深く、彼女に逆らうことなんてあってはならなかった。

地を這うような生活しか出来なかったキャスリーンは、高みにいるルイーズに踏み潰されないようにするのに必死だった。

それなのにーーーーー



ーこの人、こんなに小さかったかしら?ー



キャスリーンの腕を掴んで必死に縋り付くルイーズの手をそっと取ると、ゆっくりとその手を剥がして離す。

そしてキャスリーンは優しい笑みを浮かべた。


「お久しぶりですね、ルイーズ。

もう五年ぶりでしょうか?」


「そうね、もうそんなに経ったのね!

ねぇ聞いて、キャスリーン。

私ここに来て本当に大変だったのよ!

毎日毎日石切場で過酷な労働を強いられてね?

お父様は耐えられなくて私を置いて脱走してしまって、捕まって連れて行かれたきり戻って来ないの!」


強制労働施設は罪の重い人間が入る場所だから、そこからの脱走はかなりの重罪になる。

戻って来ないということは、捕まって折檻されてそのまま死んでしまったのだろう。


「そう……大変だったのね。」


「そうなの!私大変だったのよ!

あの女のせいで私はこんなところに入れられて!

ねぇ、あなたも大変だったんでしょ!?

修道院に入れられたって聞いたわ!」


「あの人の……?」


「え?ああ、あいつよ!アレクシ…………ぎゃあ!」


ルイーズの口がアレクシアの名前を呼ぼうとした時、気が付いたらキャスリーンは思いっ切りルイーズを引っぱたいていた。

痩せ細った今のルイーズはその衝撃を受け止められる訳もなく、叩かれた勢いで地面へと倒れ込んでしまった。


「痛い!痛いじゃない!何すんのよあんた!」


地面に倒れ込んで叩かれた頬を押さえて睨んで来るルイーズを見下ろすと、キャスリーンは一歩彼女へと歩み寄った。


「ヒッ、ヒィィ!こっち来ないで!」


「アレクシア様に対して無礼な口をきくのはやめて。

あの方が国民のためにどれ程お心を砕いてこられたか、あなたにわかる?」


「なっ……なにを……」


「アレクシア様は自分を貶めようとした私を赦し、前を向いて歩いて行くようにと言ってくださったの。

あの方を侮辱するような発言は絶対に許さない!」


ルイーズを見下ろしたまま一歩一歩近寄るキャスリーンとは反対に、ルイーズは倒れ込んだまま必死に地面を蹴ってなんとか逃げようとする。

その姿はまるで地面を這う虫のよう。

それを見ていたキャスリーンは、何だか弱い者イジメをしているようで虚しくなった。


「別にあなたには何もしないわよ。

あなたにはそれをする価値もないわ。」


地面に這い蹲ったルイーズを見て、キャスリーンは馬車の中でメディシーに言われた言葉を思い出した。


五年も経てば人は変わる。

あなたの心配も杞憂に終わるわ。


本当にその通りだった。

キャスリーンも変わったし、ルイーズも変わった。

あれだけ怖かったあの頃の強気な彼女はもうどこにもいない。

今ここにいるのは五年間の強制労働で痩せ細って見る影もなくなったちっぽけな女だけ。

もう過去の影に怯える必要は何も無いのだ。




「聞いて、ルイーズ。

私はあなたを赦すわ。

アレクシア様が私にそうしてくれたように、私もあなたを赦すわ。」


「な……に……?」


意味がわからないのか、相変わらず地面に寝っ転がったまま怪訝な顔をするルイーズに、キャスリーンは静かに微笑んだ。


「さよなら、ルイーズ。」


「ちょ、ちょっと!キャスリーン!?」


静かに立ち去るキャスリーンの名をルイーズが何度も呼ぶが、彼女が振り返ることは二度となかった。









「お帰りなさい、早かったわね。」


「うん、暇を持て余すから戻ってきたの。

薪は足りてる?」


大きな寸胴を即席の炉に乗せて野菜を煮る。

これだけの量を似るとなるとそれなりに火がいるので、薪を追加しなければならなかった。


「薪は後で持って来てくれるらしいから大丈夫よ。

それより……何かあった?」


「え?」


「何か清々しいというか、晴れ晴れというか。

憑き物でも落ちたみたいな顔してるわ。」


メディシーの言葉にキャスリーンは苦笑いをする。

そんなに顔に出ていたのか。


「うん、ちょっとね。

メディシーの言った通りだったわ。」


「でしょ?」


その言葉に何かを察したメディシーは、ニヤッと悪戯っ子のような笑みを浮かべた。












慰問が終わって修道院に帰ったら、アレクシアに手紙を書こうと思う。

王太子妃になった彼女に一介の修道女からの手紙なんて届かないかもしれないけれど、感謝の手紙を書こう。

そして前を向いて歩いて行くことを、改めて彼女に誓うのだ。


コトコトと煮立つ鍋を混ぜながら、キャスリーンは微笑みを浮かべて青い空を見上げた。









Fin.



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そちらがその気なら、こちらもそれなりに。 三日月三歩 @sanpoi-08

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