第4話【回答】2件の事件
豊中警察署に着くと、揃って捜査一課に向かった。笹部は勧められた椅子に腰を落として、自分の長い前髪を
「まず、雑居ビルのエレベーターのおかしい所」
笹部は、渡されたエレベーター内の写真を手にして口を開いた。
「エレベーターの指紋。どうして、「閉」と「B1」ボタンにしか指紋がないのか?しかも、被害者の女性の指紋だけ。
「――もしかして、持田はエレベーター内で被害者の女性が乗り込むのを待っていたんでしょうか?5階からエレベーターを呼んだ彼女は、降りてきたそれに乗り込んで「B1」を押して「閉」ボタンを押した?」
笹部の言葉に、はっとなりタカが笹部に尋ねた。
「うん、そうだと思う。3人の話を思い出してみて。「白いジャージの男が土日にジョギングをしている」、「被害者は土日に岩盤浴を利用していた」、「最近男に付けられていた」、「紺色のパーカーの男」という単語が出てきた。
「では、持田が「降りた時に紺色のパーカー姿の男とすれ違った」と発言しているのは、嘘ですか?」
「嘘だろうね。もしその男が犯人なら、時間的に三田さんと猿渡さんのその姿を見ているはずだよ。猿渡さんの証言の「紺色のパーカー姿の男」は、次の事件の時に分かるけど被害者の弟の
長く黒い髪の美人系のスーツ姿の女性が、珈琲を手に現れた。彼女はにこやかに笑んで、笹部の横の机の上に手にしていた珈琲をそっと置いた。
「そして、持田は「スカーフで首元を覆っている被害者が、
「しかし、気温と岩盤浴後の体温だけでは、証拠としては弱いかと…」
ユージが、首を傾げた。しかし、笹部は言葉を続けた。
「証拠ならあるよ。被害者は、「綺麗にメイクをして鮮やかなピンクの口紅」が崩れていなかった。つまり、被害者はスカーフを顔が隠れるように巻いていなかった。そのまま首を締めたら、化粧は
猫舌の笹部は、珈琲の湯気が消えるのを眺めながらそう確認する様に答えた。
「なるほど。そのまま去ろうとしたが、女性2人とすれ違ったため敢えて目撃者になるようなふりをしたんでしょうね」
タカとユージの後ろにいたトオルが、納得したように頷いた。
「そして、持田刺殺事件だけど。あれは、持田の自殺だよ」
「え!?」
笹部の意外な言葉に、3人が声を上げた。一課の部屋にいる他の刑事たちも、
「写真を見ればわかるよ」
笹部は、タカから持田が死んでいた将人の部屋の写真を受け取り、自分の顔の横まで上げて皆に見せた。
「正面から刺したなら、絶対にありえない状況が映っているんだ」
「もしかして――壁の血、ですか」
写真をまじまじと見つめていたトオルが、小さくそう呟く。
「うん、正解。立って正面から刺されたなら、彼を刺した犯人に返り血が付くはずなんだ。つまり、壁には人型に血が付かないはずなんだ。でも、この写真を見て?「向かいのアイボリーの壁紙には刺された時に飛び散っただろう流血が、壁一面に広がっている」よね?
「もしかして、身体の上にあったタオルは…左手に持った包丁を離さないように巻きつけていたんでしょうか?自分を刺すのは、怖い。だから、
包丁の「アゴ」と呼ばれる持ち手近くの刃物の尻で、自分を刺すのを何度も躊躇って傷付けてしまった。右手は、捜査をかく乱するためにダイイングメッセージを書くために、空けていた。そして、マサトと書こうとして失血で気を失い死亡した。
「「紺色のパーカー姿の男」は、将人さんが黒っぽい服を好むのを思い出した持田が、疑いを彼に向けるようにしたんだろうね。まあ、最後は
ようやく冷めた珈琲を、笹部は口に運んだ。
「物騒なこと言わないで下さいよ!けど、有難うございます!それで、捜査してみます。助かりました!年度末なんで、あまり未解決事件残したくなかったんです」
ほっとしたように、タカとユージが深く椅子に背を預けた。と、捜査一課の刑事たちが立ち上がり、笹部に敬礼して慌てて部屋を出て行った。
食事を
笑顔のタカとユージとトオルにマンションまで送って貰い、笹部はマンションに戻った。
「
そう小さく笑うと、笹部は包みから取り出したハンバーガーを
後日、墨田に500万。将人に100万。消費者金融から2000万借りていた事が分かり、情状的にも笹部の推理で間違いない、と連絡を貰った。そうして被疑者死亡のまま、持田は書類送検されるそうだ。素早い解決で、タカとユージは署長から表彰状を貰えたと写真付きでメールしてきた。
咎人の為のカタルシス 七海美桜 @miou_nanami
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。咎人の為のカタルシスの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます