最終話 俺達の名前はキラキラネーム
「五票かぁ! 良かったなぁ
ちなみに今のところ票が入ったのは
残りが俺と
「じゃあ、次は俺が行くか」
真打登場である。そう、俺こそが委員長に相応しい。何せ俺は推薦されたくらいだからな。順当に行けばあんな変態達よりも俺に票が集まるはずだ。
「待ちな。私が先に行く」
「ぐえっ!」
凄まじい力で肩を握られた俺は、勢いよく後方へと引き下げられる。そのせいでカエルが引き潰されたような声が出てしまったが、反抗しようとは思えない。だって喧嘩しても勝てる相手じゃないし。
「おいおい
「ああん! 私に文句あんのか! つか気安く私の名前を呼ぶんじゃねえよ潰すぞコラ!」
「大アリだぁ! 同じクラスメイトなんだ名前くらい呼ぶに決まってんだろ! それに先に前に出たのは
「むっ……確かに順番抜かしはいけねえか。すまん、
「え? ああ、まあ、別に気にしてないけど」
「そか、ならよし。ああそれと、私が先にいくけどいいよな?」
ニカっと八重歯を見せて笑う仕草は愛嬌があり、つい頷いてしまう。
まあ順番なんて別にどうでもいいしな。というか、今まで怖くてあんまりちゃんと顔を見れなかったけど、
化粧一つしていないのに肌はキレイだし、粗暴そうに見えて髪の毛にも艶がある。さっきの笑みも含めて、これからの彼女の見方が変わりそうだ。というより、正直見た目だけならドンピシャの好みだった。
事実クラスメイト達は皆、これまでどこか集中力に欠けていて隣のやつとお喋りなども普通にしていたが、今は背筋をピンと伸ばして真っ直ぐ
正直言って、俺はその光景に戦慄を覚えていた。桜庭教官を除いた誰一人、この魑魅魍魎共を大人しくさせることなんて出来なかったのに、俺らと年の変わらない
数々の族や不良達を叩き潰した喧嘩最強の金色狼。向かうところ敵なし、歯向かう相手はボロ雑巾。群れる事を嫌い、一人で不良をしていたにも関わらず、なお最強の称号を手放さなかった無敵の女。
その美貌と強さによって彼女に憧れる者も多かったらしく、猛烈なファンが多かったと
なるほど、これは納得だ。何も言わず彼女の背中に付いて行きたくなるカリスマが、
真面目に聞く体勢を整えたクラスに満足したのか、
「いいか、今日から私がこのクラスのリーダーだ! 私がリーダーになったからには全戦全勝。どんな勝負事にも勝つ最強のクラスにしてやる! テメエら全員、何も言わず私に付いて来な!」
「「おおおおおおおおおお!」」
クラスの半数以上が手を上げて、
しかし疑問なのは、なぜ不良の彼女がクラス委員長になんて面倒臭い役目を担いたいと思ったのか。そう持っていると、隣で
「あー、これはもう決定ね。ところでアピールタイムすらやらせてもらえずに負けが決定した
「……いや、この状況で何をアピールしろと?」
「そうね。自分がどれだけ
絶対に嫌だ。
周りの盛り上がりに対して俺が一人でテンションを下げていると、教壇の上の
「そうだ! 私が委員長だ! いいか、これから私の事は名前じゃなくて委員長と呼べよ! わかったな!」
「「委員長! 委員長!
「
そう言う事か。
しかしあれだな。天使委員長って字面がちょっといいな。図書委員長、風紀委員長並のいやらしさがある。そう考えていると、いきなり正面に来た
「おいコラ。テメエ今何かエロい事考えてただろ」
「い、いやまさか。こんな衆人環視の中でエロい妄想なんてするわけないだろ?」
「ふーん、まあいいか。副委員長、お前に決めたから」
「……は?」
黒板を見ると、委員長『
「よろしくな、副委員長」
カラカラと太陽のように笑う少女が伸ばしてきた手を、そっと握る。意外と柔らかい手にドギマギしつつ、平静を装うので精一杯だった。多分俺の顔は今真っ赤になっているに違いない。
まあ、どうせ入る部活に悩んでいた所だ。委員会をやっていれば部活を無理に決める必要もないし、これはこれでありだろう。
そう思っているとチャイムが鳴った。どうやらこれで委員長決めは終了のようだ。
さて、これからは忙しくなるな。何せ副委員長だ。この変態達を纏めるのに、どれだけの苦労があるか、想像もつかない。
「まあ、それでも結構楽しみにしてる自分がいるんだよな」
少なくとも中学時代では味わえない興奮が、この学校にあった。どうやら俺がこの学校を選んだのは、間違いじゃなかったらしい。
最初の自己紹介の時はまだ自分の名前が嫌いだった。だけどみんな同じような苦労をしていると知って、少しだけ心が軽くなった。
学園長や生徒会長の話を聞いて、もしかしたらこの学校で自分の名前の事を好きになれるかもしれないと期待した。
クラスのやつらは馬鹿ばっかりだった。俺もつられて馬鹿やった。
そのおかげで彼女と友達になった。色々滅茶苦茶やるクラスメイト達に突っ込んだ。誰も彼もが自由で、自分も自由にやらなきゃやってられなかった。
それが、心の底から楽しかった。こんな楽しさを、中学までの俺は知らなかった。
俺はまだ自分の名前の力に籠められた意味を知らない。でも俺は知らなくてもいいと思っている。だって、知らなくても、この学園生活は最高に楽しいのだから。
こんなキラキラネームを付けた両親に、今なら感謝してもいい。こんなに愉快で、馬鹿で、変態達しかいない学校に入学する機会をくれたのだから。
「キラキラネームはほどほどに。なんて、もう言えねえなこれじゃあ」
そう苦笑して、再びクラスを見る。
でも、誰も後ろを向いていない。みんな楽しそうに前を向いている。きっと、大切なのは名前じゃない。自分がどう生きるかと、どれだけ理解してくれる友がいるかどうかなのだ。
きっと俺達はこの名前でこれから苦労することもあるだろう。この学園から一歩出れば、俺達の名前は奇異な目で見られるものなのだから。
社会は異物を嫌う。履歴書に名前だけで落とされるかもしれない。この名前を聞いてドン引きされるかもしれない。
「だからどうした」
名前には力がある。俺達みたいなはみ出し者を信じてくれる人もいる。なにより、俺達は一人じゃない。
学園長は言っていた。
『自分を信じよ! お主達の未来は他の高校の誰よりも明るい! 友を信じよ! それが将来何よりも信頼出来る財産となる! 我が魁鳴学園の子供達を! お主達の名前を! 日本に、そして世界に認めさせるのだ!』
生徒会長は言っていた。
『私が自分の名前を好きになった理由は、素敵な仲間達と出会えたからだよ! この学園の校風は個性を活かしと自由に生きろ。誰もが自分を偽らずに声を出して主張出来る学校なんだ!』
今ならその言葉の意味を信じる事が出来る。
馬鹿ばっかりだけど、変態ばっかりだけど、それでも声を大にして俺は言いたい。
「このクラスは最高だぁぁぁ!!!」
ほら、こんな事をいきなり叫んでも、こいつらは変な顔をしない。
俺はきっと生涯忘れないだろう。こんな変態達と同じ教室で学び、笑い、友であったことを。
キラキラネーム上等。そんな逆風は全部吹き飛ばしてやる。もし俺らの名前を馬鹿にする奴らがいたら、
『キラキラネームじゃねえ! 俺の名前は
そう堂々と言って笑ってやる。後ろめたい気持ちなんて、今はもうどこにもない。俺達の歩く道はどこまでもキラキラ輝いているのだから。
キラキラネームはほどほどに 平成オワリ @heisei007
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