Epilogue
「幸穂に話したいことが、たくさんあるんだ」
「私も聞きたいことがたくさんあるの。...先ず初めに、幸哉くんって幽霊じゃなかったの...?」
幸哉くんはくすっと笑うと、「いや、幽霊だったよ。今は生身の生きてる人間だけどね」と言って、今まで彼に起きたこと。事故に合い、意識不明で入院してたこと。リハビリをしてやっと退院出来たことを話してくれた。
私は彼の隣に座って話を聞きながら、幸哉くんとずっと手を繋ぎ合っていた。また、彼が消えてしまうかもと、少し不安だったのかもしれない。
「僕も色々考えたけど...あの時の僕は、なんていうか幽体離脱して、魂だけの存在だったんだろうなって。何で、図書館に僕が居たのかとかは分からないけど、たぶん幸穂に会う為だったんじゃないかなって、今は思ってるんだ。幸穂と出逢えてなかったら、まだ僕は幽霊のままだったかもしれないし、もしかしたらそのまま死んでたかもしれない」
「...あなたが生きていてくれて嬉しい...」
繋ぐ手に力を込める。温もりから彼が生きていることが伝わる。
「ありがとう。...僕もまた君に会えたことがとても嬉しいよ」優しく彼が笑う。
「ねえ、場所を移動しない?ここはもうすぐ閉まるし。君さえ良ければだけど」彼の言葉に「うん。私もそう思ってた」と頷く。
手を繋いで図書館の外に出る。私達は学校の近くの公園に向かうことにした。途中、自販機で飲み物を買って歩く。
公園には桜の木が植えられていて、満開だった。
時折、風にさらわれて花びらが舞う。
桜の木の下にあるベンチに並んで座った。
「なんだか、図書館以外で話すのって不思議な感じがするね」
「確かに。こんな日が来るなんて、前は思ってもみなかったな...」彼はしみじみと呟いた。
「...あのさ、今さらかもしれないけど、幸穂って今彼氏いたりする?」
「ううん。いないよ」
「そっか。...僕と付き合ってくれませんか?」真剣な顔だった。
「もちろん。こちらこそよろしくお願いします」
私がそう言うと、彼はへにゃりと眉を下げて「良かった」と笑った。
「君の前からいなくなって半年経ってたから、もしかしたら付き合ってる人がいるかもしれないと思ってたんだ」
「そんな人いないし、出来ないよ。それに幸哉くんこそ、本当に私でいいの...?」
私がそう言うと、「幸穂がいいんだ」と彼が言った。
「幸穂は幸穂自身が思ってるより、ずっと素敵な人だよ。君はそのことに気付いていないだけ。君はもっと自分に自信を持っていいんだ」
彼の顔は真剣で、瞳は優しかった。
「...そんなこと初めて言われた。ありがとう」
「...ほら、例えば今。ほっぺたが赤くなってすっごくかわいい」
彼の言葉に余計に顔が熱くなる。
「んんっ。えっと、髪の毛白かったのに、黒にしたんだね」
無理やり話題をかえた私にくすっと笑って答える。
「うん。前は脱色して染めてたけど、入院してる間に黒髪に戻ったからそのままにしてた。前の方が良かった?」
「白髪もかっこ良かったけど、黒髪も似合うよ。...ねえ、幸哉くん。ちょっと痩せた?」
近くで彼を見ていると、おかしな話だが、幽霊だった頃の方がもう少し健康的に見えた気がする。
以前より、色白になって、身体も少し細くなっている気がした。
「やっぱり、そう思う?これでも、体重戻ったんだけどな〜。入院してる間に痩せちゃって、今鍛え直してるとこなんだ」
にっこり笑ってそう言った。
「そっかあ。あんまり無理しないでね。...私も幸哉くんが入院してること知ってたらお見舞いに行ったんだけど...」
「いや、それは嬉しいけど、嬉しくないような...。やっぱり好きな子には情けないとこ見せたくないから」
彼は眉を下げて笑った。
「僕さ、一年近くも休学してたから、今年も二年生やるんだ。幸穂は何年生なの?」
「私も今年から二年生だよ」
「じゃあ、僕ら同じ学年だね。学部はどこ?」
「文学部。日本文学を専攻してるの」
「...僕も一緒だよ。まさか専攻してる学科も一緒だなんて。驚いちゃった」
「私もびっくり。でも、これから一緒に勉強出来るね」
「うん。幸穂と一緒で僕も心強いよ」
これから彼と一緒に通えることにわくわくしたし、幸哉くん格好良いから女の子からの視線が少しだけ恐いなとも思った。
「そうだ。私も幸哉くんに報告があります」
「何?」
「前、図書館で話してた時に子どもの頃読んだ児童小説を探してるって、言ってたでしょ?この前見つけました!」
「凄いね!僕はなかなか見つけられなかったけど」
「私も随分探したよ。そして、やっと見つけた。今度持って来ようか?」
「うん。...君があの本を探してくれたことが嬉しい。ありがとう」
「私も...幸哉くんと居た事の証明が欲しくて。幸哉くんが喜んでくれて私も嬉しい」
お互いに笑い合う。
隣に座って笑い合えるこの瞬間に胸がいっぱいになる。
私達はもう、一人ぼっちの夜に震えることは無い。
お互いの存在が心を温かく満たしていた。
夜空を駆ける 柊 周 @amanehiiragi
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