第04話 友情は喧嘩と相談と ①

「それでは、これにて放課後のホームルームを終わりにします」

 学園に入学して二日目、初めの一週間は部活の体験入部期間が設けてあり授業は昼までで終わってしまう。敦は、特に何かをやっている訳でもないので進んで部活の見学や体験には行こうとはしない。

「敦、これから男子と女子に分かれて親睦会を兼ねてカラオケ行く事になったから行こうぜ」

「ああ、行く」

 敦は、失恋していて乗り気ではなかったが、ここでのイベントを断ってしまうと今後の学園生活に支障が出てしまうかも知れないと感じ参加する。

「黒河は、部活はいいのか?」

「大丈夫だろう、期間は一週間あるし体育会系はもういいかな」

「サッカーは、いいのかよ」

「ああ、中学で頑張ったからいい。それよりも学園生活を優衣やお前、安眞木と楽しみたいと思ってるからな」

 それもそうだ、中学の頃はそれなりに九州大会までは出場できる程度にはチームが強かったが、敦の通っている星光学園高等学校は、進学校でありあまり部活には力を入れている訳ではない。

(安眞木は、部活どうするんだろう)

「そういや、恋華はどこにいるんだ。あいつ昔から人見知りで友達が出来るタイプじゃなかったけど、大丈夫か」

 そんな黒河の心配をよそに安眞木は、クラスメイトの女子たちと笑いながら普段どんな曲とかを聞くとか安眞木なりに友達をつくろうとしている。

「あそこ見て見ろよ」

 そう言って黒河に合図を出す。

「俺は、昔の安眞木の事は分からないけど、お前が見てないだけで彼女なりに頑張ってると思うぜ」

「そうか、それはよかった。これで俺もいらないな」

 そのセリフを吐かれた途端だった、俺は自分でも怒りが抑えられず黒河の胸ぐらを掴んだ。

「お前な! 今のセリフ絶対に安眞木には言うなよ! お前が今、安眞木をどう思っているかなんて俺には知らねえ。どうも思ってねーかもな! 黒崎が隣に居るんだからよ!」

 親睦会の話をしていたクラスメイト達の話し声が途絶える。

 敦が急に怒鳴った為、一気にクラスの雰囲気はお通夜モードだ。安眞木も二人の事を見ている。

 これ以上、話せば安眞木は何か感づくかも知れないし、この雰囲気ではどの道敦は親睦会に行っても馴染めなくなるだろう。

「彼女が出来て浮かれるもの分かるが、過去にお前の隣に居たのが誰だったかよく考えろ」

 敦が話すのをやめ、次第にクラスはざわつき始めるが、さっきとは打って変わって親睦会の話ではなかった。これ以上、ここに居ても空気を濁すかもしれないと思い敦は鞄を手に取り教室を後にしようとする。

「悪い、幹事役。俺は今日パスで」

 敦は、幹事役となっていたクラスメイトに断りを入れ教室を後にした。




「あーつし、何やってんの」

 振り向くとそこに居たのは、星光学園生徒会会長であり敦の元家庭教師である、九条彩楓くじょうさやかだった。

 親同士が友達で、敦が星光学園を受けると知るや否や母親が家庭教師をお願いしたのが出合いだ。

「九条先輩」

「まあた、そんなお堅い感じで呼んじゃって、前みたいにさやねえって呼んでよ。前みたいに頭ぐしゃぐしゃにしてやる」

 そう言いながら九条は敦の髪をぐしゃぐしゃにする。

「何悩んでんの、お姉さんが癒してあげようか」

 髪をぐしゃぐしゃにした後、九条は敦の背中から抱き着く。

 九条は敦よりも頭一つ背が高いので、敦の両肩には女の子特融柔らかいものが二つ当たっている。

「さやねえはさ、恋ってしたことあるの」

「あるよ、今でも絶賛恋してます。何だい何だい恋の悩みかい」

 敦は後ろを向くまでも分かっていた、今、九条がにやにやしている事に。

「もしもの話だけどさ。もし、好きな子が親友の彼女になって、二人とも幸せなんだけど、その親友の彼氏には小さい頃から幼馴染に好かれていて、その娘の事を見向きもしないで幼馴染という関係をやめようとしていて、それに俺はキレてしまった。その娘が親友を好きだって事を知ってるから」

「そっか、難しい関係だね。それで、あっくんは諦めたの? その親友の彼女さん」

「正直、諦めきれてない」

「わお! それは私にとって嬉しい話です」

「何でだよ」

 と、抱き着かれているのを無理やりはがし九条の方を見る。

「だって、私。あっくんの事が好きだもん」

 予想外の返答に敦は困惑してしまう。

「え……」

「さっき言ったでしょ、『今でも絶賛恋してます』って。じゃなきゃ、いくら元家庭教師の生徒だからって抱き着いたりしないよ」

 そこで敦は気づいた。それは自分も黒河と一緒で黒崎の事ばかりを考えてしまい安眞木や九条の事を考えていなかった。

「まあ、私は家庭教師をした期間は短かったからあっくんは私の気持ちには気づいてくれてなかったけどね。でも最初から分かってた、多分あっくんは好きな娘と同じ学園に通いたいんだろうなって」

「ごめん、さやねえの気持ちには答えられない」

「うん、知ってる。でも、私諦めないから。ぜっっっっったいあっくんの彼女なってやるんだから」

 それだけを言い残すと九条は屋上を後にした。

 後になって敦は気づいたが、九条が校内に戻っていった後を見ると涙の跡が少しだけ残っていた。

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