棒グラフみたいな影

紗里菜

棒グラフみたいな影

 町並みが夕闇に染まり初めていくように、中高生の集団が二、三人の塊をつくりながら駅を目指す。


それと同じく、主婦と見られる女性たちが買い物袋を抱えて四方八方をゆく。 


 そして、無職の私には逆光よりも眩しく思う会社員をはじめとする勤め人が駅からはきだされていく。


 昔からの一軒家が並ぶ住宅街に住んでいる私は無職になってもいつもの時間に家を出て、あてもなく町をさまよいながら、ハローワークや限界まで頑張り過ぎて均等を失った精神のための病院があくのを待つ。


 そして、夕方もここ駅前のベンチで人待ちの顔をつくりながら時間を潰す。


 前職の退職理由が人間関係であると伝えると険しい顔をされたり、親切な人はどこにもありますよと教えてくれる言葉から、不採用の数はもう片手で数えられる回数をこえてしまった。


 はっきりいって、どこにも社会に属する場所がないということが、精神病をますます悪化させるくらい辛いことだなんて今まで思っても見なかった。


ぼんやりと人待ち風を装いつつも俯きがちな私の視界には人々の影が、会社員時代のノルマ達成表の棒グラフみたいにみえて憂鬱になる。 


そしてひさしの下で立っている私のおそらく影も発生しない存在価値のなさとこれからも続くであろうその日々がますます憂鬱な気分を増長させる。


 頓服の精神安定剤を握りしめながら、自宅へ戻れる時間まで、隣町のこの駅の待合所に立ち続けなければいけない。



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