猩々緋の連弾

@mrumru

初手、イキリと淘汰




 …あれ?



 今、何してたんだっけ



 周りで笑い声と怒声が聞こえる。



 あ、そうだ。



 これは”ゲーム”だった。







 数日前、俺は中学三年生だった。


 喧嘩じゃ負け知らず。少しだかボクシングも嗜んでいたお陰で、中学のヒエラルキーを牛耳るのにはそう時間はかからなかった。


 牛耳ると言っても、何も一般生徒に手を出していた訳じゃない。

 クラスに一人はいるような、リーダーシップを張ろうとする男だった。

 喧嘩は露骨に売ってきた奴らにだけ。そいつらを下につけて、別の中学の奴らと喧嘩したりもした。


 調子に乗って、前に赤色、後ろに白色のメッシュまで付けて。

 その時の俺は人生で一番輝いていたと思う。


 ある日、数人で屯していると、高校生十数人にボコボコにされた。

 口ぶりから察するに、俺に負けたヤツの関係者らしい。

 代わりに報復に来たんだと思う。


 それから俺は、喧嘩するのが怖くなった。

 下についていた後輩たちも、同級生の仲間も徐々に居なくなり、とうとう俺は一人になった。


 辛うじて虐められはしなかったが、それも逆に辛かった。

 志望校を決めて、卒業して。


 そこからが地獄の始まりだったんだと思う。


 選んだ高校は、偏差値はそこそこだが、治安がかなり悪い事で有名だった。

 過去も現在も傷害事件が多発しているし、殺人事件も何件か起こったらしい。


 その情報もよくよく調べなければ分からない情報だった。

 あくまで表面上は良くしたいらしい。


 入学式が終わり、帰ろうとした時、上級生に呼び止められ、グラウンドの近くの階段がある広いホールのような場所に案内される。


 そこには結構な数の人が集まっていた。タバコを吸ってる人もいた。

 完璧に校則に違反しそうな髪型の人もいたし、ピアス等のアクセサリーを付けてる人もいた。


 その集団が中央の円を囲むようになっていて、中にはポツンと、ひ弱そうな男の子2人が向き合って立っていた。恐らく俺と同じ一年生。


 その瞬間、俺はこれから何が始まるのか理解してしまって、足が動かなくなった。

 身体は竦み、動悸が激しくなる。視界が揺れ、耳からは得体の知れないモスキート音が鳴った。


 合図と共に、二人が何ともなしに殴り合う。

 多方向から野次と罵声が飛ぶ。


 結局、片方が立って、片方が倒れ込む。

 二人はどこかへ追いやられ、俺の隣に居た上級生が呼ぶ。


「おーい!次コイツがやるから!」


 俺に全員の視線が向いた。




 やっている事は、呼び止めた新入生を戦わせて、賭け事をするらしい。


 俺はされるがままに歩かされ、尻を蹴られて中央の右側に立った。

 左側から同じように金髪の男が歩いてくる。


 緊張と極度の目眩に襲われ、それから俺は何も考えられなくなった。









 そうだ。そうだよ。



 俺、負けたんだ。



 何も出来ずに、必死に殴られ続けて、俺気失ってたんだ。



 血の味がする。



 きっと顔中腫れてるだろうなぁ。


「おい」


 髪を掴まれ、ぼやけた視界で前を見ると、厳つい風貌のパンチパーマを掛けた男が俺を睨みつけていた。


「お前さぁ、ちゃんとやれよ」


「え……」


「ちゃんと戦わねーとさ、賭けにすらなんねーんだわ」


 突然、腹に衝撃が走る。

 思い切り殴られたらしい。


 声にならない声すらも出ず、ただ倒れ込んだ。


「ッチ、もう喋んねーじゃんコイツ。つまんな」


 どっか捨てとけ、と声がした後、放り投げられた。


 身体中が痛む。


 暫くそのままの体勢で居た。

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