第59話 エピローグ

急いで正装に着替えさせられた俺はベルの宿屋で一番上等な部屋で一人の人物と対峙をしていた。いつもはエレインさんも一緒だったので無茶苦茶緊張するものだ。



「まずはお互い傷が癒えたようでなによりですね。私の傷もすっかり癒えましたよ。見ますか?」

「え? いや、こんなところで脱ごうとしないでください。アーサー様!!」



 俺が服のボタンに手をかけるアーサー様を必死に止めようとすると彼女はクスクスと楽しそうに笑った。どうやらからかわれたようだ。というかこんなところベルに見られたら殺される気がする。



「フフ、冗談ですよ。ですが、その狼狽っぷりを見ると女性であるということを武器にするのもありかもしれませんね。それで……セインさんはあの後の事をどれくらいご存じですか?」

「アーサー様があの場を収めて、女性であることを発表して初の女王になったことくらいでしょうか……あくまで人づてに聞いたので詳しい事はあまりわからないんですが……」

「ふふ、それはあなたのおかげでもあるんですよ。では詳しくお話をしましょうか。かつての仲間であるルフェイやモードレットの事も気になっていると思いますから」



 そうして、アーサー様は紅茶に口をつける。ああ、確かにモードレットやルフェイがどうなったかは気になる。エレインさんに捕まえられていたルフェイに、折れた聖剣を抱えていたままのモードレット……あいつらはどうなっただろう。



「セインさんが倒れた後、私は騎士達やエレインと共にアンデット達を討伐しました。やはり実行犯であるモードレットとルフェイが無力化されていたのは大きかったですね。ルフェイが気を失ったことによりアンデット達は統率を失いましたからね」

「ルフェイは捕えられたんですね」

「ええ、彼女は今牢獄で色々と情報を吐いてもらっています。元々彼女はモードレットの血筋と、聖剣を手にできる可能性のあるスキルに目を付けていた、ある貴族の命令で彼を監視して、利用するようにいわれていたらしいです。計画では私からスキルを奪ったモードレットが、カリバーンを手に入れた場合は傀儡の王にする手はずだったらしいです。そして、失敗した場合は、クラレントの力を解放させて、私を殺す計画だったようですね。モードレットとしては最悪でも、憎き我が父の忘れ形見である私と刺し違える事ができれば本望だったのでしょう。そして、ルフェイのスキルで私をアンデットとして、操り人形にすると……これが彼らの書いた筋書きですね。しかし、そこで問題が二つおきました。何だと思いますか?」

「一つ目は……アーサー様が生きていた事ですよね? 二つ目は……?」

「モードレットの憎しみが彼らの思っている以上に強かったことです。本来ならば最初の一撃で力尽きるはずだったのですが、彼の憎しみは強く、そしてその対象は我が父と私だけではなく、他の貴族も対象だったんですよ。その結果あそこにいた貴族の何人かも犠牲になったのですがその中には今回の黒幕もいたのです。彼は……気づいていたのでしょうね。自分が利用されているだけだという事に……」

「……」



 俺とアーサー様の間に沈黙が支配する。あいつは言っていた『俺の母を悲しませた奴らも、俺を利用する奴らを皆殺しにするくらいしかないだろうよ!!』と……あいつは自分が利用されているとわかっていても、でも、自分の願いを……復讐をかなえるにはその話に乗るしかなかったのだ。



「そういえば……モードレットはどうなったんでしょうか?」

「彼は城の近くの誰かの墓の前で折れた剣を抱えながら息絶えていました。その墓の主は多分……」

「そうですか……」



 彼は最期に母に会いたかったのかもしれない。結局彼は孤独だったのだ。誰にも心を開くことなく、憎しみを胸に秘めながら生きていたのだろう。複雑な感情を抱きながら俺は思う。



「モードレットは私の父を筆頭とした国の闇が彼を歪めてしまったんです。きっと他にも辛い境遇の人間がいるでしょう。私はそういう人ができない国を作りたい。もちろん、理想論だということはわかっています。ですが、私は誰もが悲しまない国を作ろうと思います。それにはあなたの力が必要です。エレインや、ガレスさん、そして私を救ったように、他の人を救うために、私に力を貸していただけないでしょうか?」

「アーサー様俺は……」



 アーサー様の真摯な瞳にどう答えようか迷ってしまう。俺にその信頼にこたえるだけの力があるのだろうか? 確かに悩んでいるみんなを助ける事はできた。だけど、それは本人たちが頑張っていたからだ。俺はあくまで取引をしていただけに過ぎない。だけど……俺のこのスキルで人を救えるならば……俺は……



「失礼するよー、アーサーやっぱりこれ重いんだけど……もっと軽いのでいいと思うんだけどな」

「エレイン……まだ話の途中だったんですが……」

「え……?」



 そう言って部屋に入ってきたのはやたらと大きい円のテーブルを抱えているエレインさんだった。なにやってんだこの人……

 アーサー様が溜息をついて、エレインさん見ると、彼女はきょとんとした顔でこちらを見て冷や汗を流す。




「もしかして、まだ話してなかったかな……?」

「ちょうど説得している最中だったんですよ。それなのにあなたは……私が合図をしたタイミングできてくださいって言ったじゃないですか……」

「いや、でも、アーサーが言ってたじゃないか、英雄として目立ってしまったから、権力者の庇護がないとセイン君が利用される可能性があるって。どのみちセイン君はアーサーの誘いを受けざる負えないんだって……だから私はセイン君も誘う事を賛成したんだよ!!」

「あの……いったいどういう事でしょうか……?」



 俺は事態についていけずにアーサーさんを見つめると彼女は大きくため息をついていった。というか、俺って今どういう扱いになっているんだろうか?



「セインさん……あなたは、今回の継承の儀式で暴れたモードレットを聖剣を使用して倒したことによって、色々な方から注目をされているんです。他の人たちは今はまだあなたに関しては色々な所が情報を集めている段階だと思います。だけど、近いうちにあなたのスキルも注目をされるでしょう。そうしたら悪用をしようとするものが現れるかもしれません。だからあなたを守る狙いもあって、同志として協力をしてほしいとお誘いをさせていただいたのです。もちろん私の部下ではないです。私と議論を交わしていただく協力者といった感じですね。ちょうどエレインのような平等な立場で私に協力をして欲しいんです」」

「エレインさんと同じ……立場ですか……」



 俺がそう言ってエレインさんを見ると、彼女は運んできた石のテーブルを部屋の真ん中に並べている。半円のテーブルを無理やりくっつけると、円形のテーブルだ。彼女はSランクだからこそアーサー様とも対等に話している。それなのに俺なんかがじゃ場違いではないだろうか。



「セイン君これをリペアーしてくれないかい?」

「いや、いいですけど……勝手にインテリア変えたらベルが怒りますよ……」

「それなら心配は不要ですよ。この部屋は買い取りましたから」

「は?」



 こともなげに言うがこの部屋はこの宿で一番の高級な部屋である。俺がショップに使っている部屋とは比べ物にならないほど高価だ。いや、でもまあ、女王様なら支払えるんだろう。『聖剣の担い手』を買った時の金貨の山を思い出すと納得もする。とりあえず俺は状況がわからないまま真っ二つになっていた石のテーブルを修復する。



「それで……これは何なんです?」

「これは円卓です。かつての我が国の王はこの円卓を囲って話し合ったそうです。『この席に座る者たちに上下関係はなく、皆、家族である』という意味があるようですよ……まあ、実際は上座とかあるんですけどね。聖剣をぬいたがゆえに女王になりましたが、城では私の顔色をうかがう人ばかりで、反対意見は出にくいんです。そのた道を踏み外すか知れません。だから、ここで私が選んだ色々と国の事を話し合える同士集めて会議をしようと思うんです。そして……その一員にあなたも加わっていただきたい」

「俺はただの冒険者で、今は商人ですよ。そんなやつが加わってもいいんですか?」

「構いません、あなたは『聖剣の担い手』を買ったと誰にも言わなかったですし、エレインを利用しようともしなかった。スキルショップも繁盛しているようで、商才や未来を視る力もあるようだ。そして、城で暮らしていただけの私ではどうしてもわからないことがたくさんあります。ぜひとも知恵を貸していただきたいんです」



 アーサー様はまっすぐと俺を見つめて言った。彼女は本気で言ってくれているのだ。俺にそれだけの価値があると言ってくれているのだ。モードレットと戦った時俺は、ベルやガレスちゃんを守るために戦った。そして、彼女の提案を受ければ俺はみんなを守る力を手に入れることができるだろう。



「……わかりました。おれでできる事ならば……」

「話はまとまったようだね、さあ、行こう。セイン君の復帰パーティーだよ」



 答えなんて決まっていた。俺がどれだけできるかはわからないけど、俺にできる最善を尽くそうと思う。




「いえ……私はさすがに帰りますよ、お二人はともかく他の方々気を遣うでしょうし……」

「残念だな……でも、いつか、みんなでパーティーがしたいね」



 少し寂しそうに言うアーサー様の言葉にエレインさんが唇を尖らせる。だけど、ここで会議を繰り返していけばベルやガレスちゃんもアーサー様になれたりするかもしれない。あの二人はSランク冒険者のエレインさんだって受け入れてくれたのだ。きっといつかそうなると思う。でも、パーティーに行く前に俺は一つだけアーサー様にたずねた。



「あの……もしかして、俺を巻き込むために無理やり英雄に仕立て上げました?」

「さあ、どうでしょうね、ご想像にお任せします」


 その笑顔で俺は少しアーサー様に俺はうっかりうなづいたことを不安になるのであった。パーティーを追放された俺だけど、スキルショップを開いたおかげで俺は冒険者の時にはできないことができるようになった。俺の人生はまだまだ続くのだ。



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これで完結になります。読んでくださった方ありがとうございました。


これからも色々な作品を書いていくので作者フォローしていただくと嬉しいです。


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散々利用され追放されたスキルトレーダーはスキルショップを開き成り上がる。用済みと言われたスキルは固有スキルや魔物のスキルも取引できるチートスキルでした。S級冒険者や王族の御用達になったのでもう戻らない 高野 ケイ @zerosaki1011

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