14話 続、能力確認

「…あ、あれぇ?なんでぇ?」


なぜゴブリンに擬態したのか、俺の顔がゴブリン並に醜悪なのか。はたまたそれだけ俺の性格が終わっているのか。


という冗談はさておき。


恐らくゴブリンという魔物が頭にこびりついていたんだろうと俺は思うと、擬態を解いた。


「いやぁ、すまんすまん。まさかゴブリンに化けるとは…」


「……いえ、私こそ殴ってしまいごめんなさい…」


「効いたよ、白雪さん地球にいた頃なら世界狙えたんじゃない?なんて……」


「…次ゴブリンなんかに擬態したら私、双葉さんを殺っちゃうかもしれません。」


「はい、ごめんなさい。」


ハイライトが消失し、この世の混沌を全て詰め込んだような真っ黒な目をする白雪さん。


俺は絶対ゴブリンに擬態しないようにしなきゃと心に誓った。


「…でも凄いですね。まさか本当に姿が変わるなんて。そのスキルも魔素は使わないんですか?」


「うん、そうみたい。1回使ったら意識的に戻すまでは擬態したままっぽい。」


「…使えそうですね。そのスキルも。」


「あぁ、使える。」






「…気を取り直して、次。水中呼吸。水中でも呼吸が出来るようんだってさ。」


「…えっと、普通に息を吸って吐くようになるってことなんでしょうか?」


「じゃないかな?今ここに潜れるような所がないからわかんないけど…これも魔素を使わないのかな?」


「なんとなく魔素を使わないような気がしますね。でも使ってみるまでは分かりませんし、その時になってからですね。」


「そうだなぁ。」






「気配察知。さっきゴブリン達が来る前なにか来る、って感覚に陥ったよな。」


「えぇ、多分このスキルのお陰でしょうね。」


「気配察知は意識して使わなくともずっと発動してる状態っぽい。」


「今この瞬間も周りの気配が分かりますね、特に魔物が近くに来てるような感じはしませんね。」


「いつ魔物が襲ってくるかわからん状況だけど、このスキルがあればかなり精神的に楽だな。」


「ありがたいですね。アルラに感謝しなくては。」


「ほんと感謝だわ…使い魔バンザイ。」






「熱感知、これも今使ってみよう。大体予想は着いてるけど…」


「では、熱感知。」




熱感知を使用し、俺たちはお互いを見た。




「…やっぱり、双葉さんの身体が赤や黄色に見えます。これは相手の体温を目で視認できるようになるみたいですね。」


「…これも魔素を使わないみたいだ。ありがたい。これが使えると夜過ごす時違ってくるな。」


「暗いなか魔物の体温が視認できると近くに来た時、逃げやすく戦いやすいですね。」


「あぁ、かなりのアドバンテージになる。」






「威圧。アルラが出てきた時このスキルを使ったのではと思ったけど、使い魔になってくれたのを見るに敵意はなく、スキルは使ってなかったんだろうな。」


「…素でビビってたわけですね、私たち。」


「仕方ないよなぁ…ありゃビビる……よし、白雪さん。俺に威圧使ってみてくれよ。」


「え、私がですか…?」


「うん。頼むわ。」


「…じゃあ、使いますね。」


どうなるんだろう、と俺は肩に少し力が入った。


「…威圧。」


白雪さんが呟くと、俺の全身から汗が吹き出した。


「ふっ…うぁ…」


白雪さんから溢れ出るオーラのような物にあてられ、俺はガクガクと震え上がり、悲鳴をあげるのを我慢するのがやっとだった。


アルラと対面した時やゴブリンと対峙したときよりも恐怖を感じ、年上の男が情けなくも年下の少女を恐れた。ここから逃げ出したい一心だった。


「ふ、双葉さん!大丈夫ですか!?」


白雪さんは威圧を解き、俺に言葉をかけた。


威圧がとかれたことで震えは収まった。


「こ、これは……やばい。不用意に使っていいもんじゃないわ……」


俺は母性を求め、白雪さんの胸に頭を埋め泣き出したかったが。なんとか踏みとどまり肩に手を置くだけで我慢した。


「ちょっ、大丈夫なんですか!?双葉さん!!」


「あ〜、大丈夫、平気。ふぅ。泣きそうになったわ。」


「…すみません、使うべきではなかったですね……」


「いや、俺が使えって言ったんだし、いいよ。ただこのスキル、いざって時にしか使えないと思う。少し威圧を浴びただけで精神がイカれる寸前だった。ずっと浴びてたら多分精神壊れる。」


「……エグイですね。それは。」


「うん、エグい。逆にいざって時なら人間だろう使っていいと思う。いや、使うべき。」


「…人間でも、ですか?」


「人間でも。」




「わかりました。」


白雪さんは少し考える仕草をすると、頷いた。


この世界は日本のようにモラル、常識が通用するか分からない。迷ってスキルを出すのを渋っていたら死に直結する、ということを前提に動かなければならない。まだ見ぬこの世界の人間に対し、覚悟を決める。


「で、魔素は消費する?」


「いえ、これも消費しないっぽいです。」


「これがノーリスクで使えちゃうのか……」


「…私は使われてないからわかんないんですけど、そんなに凄いんですか?このスキル。試しに私にも使ってみてくださいよ。」


「…わかった。覚悟してね。」


俺は白雪さんに向かって威圧を使った。本当なら女の子にこんな危ないスキルを使用したくなかった。しかしそんなノータリンなことは言ってられない。何しろここは魔物の住む世界。少しでも自分のスキルと向き合わなければならない。身を守るすべを見につければならない。


だから俺は、二つ返事で承諾した。




「ひっ…うぁぁっ……」


白雪さんの身体が震え出した。一瞬にして汗が全身から吹き出し、泣いた。


すぐさま俺は威圧を解いた。俺が白雪さんの肩に手を置いて安心したように。白雪さんも安心するようにと、肩に手を置いた。


「…効くよな。このスキル。」


「うっ…ひ…くっ……はい……」


中々泣き止まない白雪さん。


やがて泣きやみ、冷静さを取り戻した白雪さん。


「…やばいですねぇ、これ。」


「やべぇよなぁ、これ。」


「精神を粉々にするという意味では素晴らしいですね。」


「前向きだねぇ。その通りだけども。と、言うわけでこれはいざって時まで封印。」


「異議なーし!」






「では次〜、え〜次は魔法だな。まず最初はアトラさんから貰った生活魔法。これだな。」


「これは確かからだの汚れを落とすことが出来る魔法でしたよね?」


「あぁ、と、言うわけでさっそく使ってみよう。正直これが今一番使いたい魔法だったりする。」


「…私もです。もう身体が汗でベタついたり土煙で汚れてたりで…さんっざんですよ……」


「うん、そう。そして、恐らく俺たちは今相当臭い。」


「くさっ…!?……いえいえそんな、私が臭いだなんてそんな…」


「白雪さん、今俺って臭いかな。」


「双葉さんですか?いえ、特に臭いはしませんよ?」


「うん、俺も白雪さんからは臭さを感じない。」


「っ!ですよね、ですよね!まったくもう双葉さんったらなにを…」


「しかし、だ。人間には嗅覚疲労というのが存在するらしい。」


「…え?」


「汗臭さ、体臭、タバコの臭いなど。このどれもが最初は臭い、キツい、と思うんだ。しかし鼻がだんだん臭いになれてきて、順応するらしい。嗅覚疲労っていうのは、最初は臭いと思っていたものが別段気にすることないやと、嗅覚が慣れてしまうことらしいんだ。」


「今俺たちは多分嗅覚疲労を起こしている。従って俺と白雪さんは今、相当臭い!!!!」


「なっ!!!?」


「と、いうわけで。生活魔法を使って身体を綺麗にしたいわけなんだけども。この魔法がどこまで綺麗にしてくれるのかが…」


「生活魔法!!!!私の身体を隈無く、隅々まで!!!一片の汚れを、臭いを残すことなく綺麗にしなさい!!!!」


白雪さんがやけくそ気味に生活魔法を唱えた。いや叫んだ。


すると白雪さんの身体はキラキラと輝き出した。


「おぉ…これが生活魔法。綺麗だな。」


土や汗で汚れていた服が白の純白を、乱れていた髪は本来のサラサラとするストレートや艶感を取り戻した。


匂いも女性特有のピーチのような甘いラクトンの香りがしだした。


「ふふっ…どうですか?双葉さん。これで完璧ではなくて?」


余程臭いと言われたのが効いたのか、少し変わった口調をした白雪さん。


「あ、はい。すっごく甘いいい匂いがします。」


「ふ、ふふっ当然じゃないですか。この私が臭いだなんて、そんなこと絶対有り得ません。いいですか?これに懲りたらもう臭いだなんて言わないでください。」


「…あぁ。」


何に懲りるか分からないが、髪が乱れていようと、服が汚れていようと可愛かった子が清潔さ、更に美しさを取り戻し、後ろの月明かりのような光が相まった姿に、俺は完全に見とれていた。


「んっん…俺も使うか。生活魔法って言えばいいんかな?」


「私はそれで発動しましたね、これは魔素を使うみたいです。」


「おっけー。生活魔法ー!」


ちょっと間抜けな声で唱え、俺の身体もキラキラと輝きを放った。


「あ〜、これ気持ちいいな……汚れが取れていくのがわかる……」


「ですねぇ、それにこの魔法。結構融通聞きますね。口の中も綺麗になったみたいです。」


「…すげぇや。歯ブラシいらずか。」


「身体を清潔にするってことに関してはこの魔法で完結してますね。」


「もう一生風呂入んなくていいじゃんこれ、歯も磨かなくていいし。」


「…お風呂には入りたいです。気持ち的に。それに歯も磨きたいです、なんとなく。」


「…街に行けばあるのかな、風呂。」


「あるといいですよね…」


「身体も綺麗になったし、次の魔法だな。」






「次は水魔法。水魔法って言うくらいだから水が出るんだよな。」


「これがあれば水分を摂取することは解決したも同然ですね。」


「かな?使ってみよう。水魔法ー!」


俺は手のひらを前へと向け、唱えた。ジャバーっと手のひらから水が出た。


「お、おぉ!すごい!水が出てる!」


「本当ですね…!触れてみてもいいんでしょうか?」


「大丈夫だと思う。殺傷させるほどの威力は出てないはず。」


「…ごく。」


白雪さんは喉を鳴らし、水に触れた。


「あっ、冷たい!わぁすごい!水ですよ水!双葉さん水!!」


白雪さんは興奮しながら俺の出した水に触っていた。


「…これってずっと出していられるのかな?」


「…さぁ?でも周りに魔素がある限り出し続けることが出来るんじゃないでしょうか。」


「魔素を魔法として使うってことは周りの魔素は無くなっていくのかな。」


「使った魔素は確か神樹っていう樹に還るんでしたよね。」


「そうらしい、じゃあこの辺りの魔素を使い切ったらどうなるんだろう。」


「あ、確かに。どうなるんでしょうか…」




俺はとりあえず水を出すのを止めた。


「…神樹が、魔素が無くなった場所にまた魔素を出す、とか?」


「…そうなんですかね?」


「そもそも魔素を魔法として出せる範囲っていうのはどうなんだろう。」


「さっきずっと水出てたけど、魔素が無くなるような感じはしなかった。」


「半径何百m以内の魔素を魔法として使えるとかそんなんだろうか…?」


「…ですかね?」


「…まぁ、後でアトラさんに聞こうか。」


「そうですね…」








「火魔法。本当はこれ使って焚き火でもしたいんだけど。」


「魔物にバレますもんね。使えませんよねぇ…」


「そうそう、隠密がどれくらい頑張ってくれるかによって使ってもいいとは思うけど…まあ今は使えない。」


「でも、試しにちょこっと使ってみましょうか。マッチくらいの大きさで。」


「そうだな、確認できる時に確認しよう。」


「では使いますね、火魔法…マッチ並の火…」


白雪さんは指一本を立てて、火魔法を使った。


「あ、でました。」


すると指の先に火がついた。


「…どう?熱くない?」


「いえ、熱くはないですね。ポカポカしてるくらいです。」


「ほんと?」


俺は白雪さんの火の着いた指に手をかざした。、


「本当だ。あったかい。」


火に手をかざしているのに、熱さではなくあたたかさを感じた。


「便利だなぁ…」


「都合がいいとも言いますよね。ふぅ。」


白雪さんは火を消した。


「じゃ、次ですね。」


「あぁ。」






「次は耐性。水魔法耐性、火魔法耐性、毒耐性、魔素耐性。毒耐性は毒に対する耐性がつく。さっきの猛毒使った時、俺がダメージ受けなかったのってこれのおかげか?それとも自分の魔法はダメージを受けないのか。」


「さっきの火魔法もですよね、火耐性があったから熱さを感じなかったのか…」


「多分耐性のお陰なんじゃないかなって思うけど……問題はこの2つじゃない。」


「ですね。」


「水魔法耐性はよくわからん。そして残り1つ。魔素耐性。これだな。」


「ですね、さっき話した魔素操作。この耐性がある事によって本来死ぬほどの魔素濃度にしたとして、死ぬ事が無くなるということになるなら…」


「俺たちは、なんのリスクをおうことも無く、強力な魔法が打てるってことになる。」


「…明日、試してみましょうか。魔素操作で少しずつ魔素濃度を高めて。」


「あぁ。やってみよう。」


「さて、一通りスキルの確認が出来たな。実践向きのスキルは明日まとめて確認しよう。」


「わかりました。では次は……」


「…次は〜」


俺はゴブリンの死体をちらっと見た。




「…このゴブリンの死体、だな。死体に群がってくる魔物とかもいる可能性がある以上どうにかしたい。」


「あ〜、たしかに。では地面に埋めちゃうのはどうでしょう?」


「そうしたいけど…あいにく今地面を掘るような道具を持ってないからな。」


「手で掘るのは無謀ですかね…」


「ちょっと手間がかかりすぎるなぁ、そんな時間があるなら体力を温存させて睡眠をとりたいし…」


「…いっそ火の魔法で焼くか?」


「…それだと逆に魔物が寄ってきそうじゃないですか?焦げた肉の匂いが好物な魔物が居るのかも…」


「うぅん…そういう可能性もあるのか…」


「猛毒を使って死体を溶かすとか…?地面にも穴が空いたくらいだし、溶かすくらい出来ないか?」


「溶かすと言っても、肉片が綺麗さっぱり無くなるわけでは無さそうじゃないですか…??」


「じゃあ地面を溶かしてそこに死体を埋めるとか…」


「…毒を使って土を溶かすとなると、埋めるための土がないので、上から土を被せるのが大変そうですよね……」


「う、う〜ん……」


あらゆる可能性を潰していく俺たち。1歩間違えれば魔物を逆に呼んでしまうことになる。


使い魔たちがいくら強かろうと少しでも安全でいたい。それにアスラ達が適わないような魔物が潜んでいる可能性もある。隠密が効かない魔物がいるかもしれない。気配察知に引っかからない魔物がいるかもしれない。


俺たちはとにかく頭をひねった。


「はぁ、いい案が出てきませんね…」


「な〜…もういっその事ことバッグの中に詰め込めたらなぁ…」


「あはは、いやいや。そんな馬鹿なことが…」


そう話しているとマジックバッグが突然小さな光を放った。


「…え?」


「…え?」




そしてゴブリンの死体もひかり、ゴブリンの死体がマジックバッグの中へへと入った。






俺たちは言葉が無くなった。


「…なんでもありだな、このバッグ。」


「……そのバッグ、食料入ってますよね。」




「…大丈夫。多分大丈夫。」


「精神的には大丈夫じゃないです。」




「…寝ようか。」


「…そうですね。」






俺たちは考えるのをやめ、今日のところはアスラ達に見張りを任せ、床につくのだった。

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神様に異世界に行って神樹を守れと言われた。 カジキ @kajiki74

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