13話 バッグの中身と能力確認

「もう夜になった。動いても逆に危険なだけだし、今日はここでバッグの確認と能力の確認をしよう。」


「はい、ではバッグの中身出していきますか?」


「うん、頼む。この手紙には当面の食料と衣類が入ってるって書いてあったよな。衣類はともかく、食料がどれだけ入ってるかが気になる。これから森で過ごすに当たって制限をしながらの食事になるのか、いっぱい食べても大丈夫な量なのか。」


「…お水とかもはいってるといいんですが。」


そういい、白雪さんはバッグの中身を出していった。






俺たちは唖然とした。


バッグからは質量を完全に無視した大量の水の入った容器と、袋に入った干し肉、パンなどの食料が出てきた。


「…は、はは。これだけあれば1ヶ月は生きていけるだろ。」


「…ですねぇ、確かこのバッグ時間経過しないんでしたよね。なら腐る問題もない。」


「…至れり尽くせりだよなぁ。森だけど。」


「えぇ、アトラさんに感謝しないと。森ですけど。」


ぐ〜っと俺たちのお腹がなった。


「…とりあえず食べようか。」


「ごくっ…はい。」




俺たちは手を合わせ、いただきますと言うと、無我夢中で飲んで食べた。あれだけの事があったからか、生きる実感を得るため。生きるために口へと次々に詰め込んだ。


「…生きてるんですよね、私たち。」


「…あぁ。今日一日でかなり疲労したけど。こうして生きてる。これからも大変なことが沢山あると思う。」


「…そうですね。」


そう返事をすると、白雪さんの顔は少し暗くなった。










俺は白雪さんの頭をガシガシと撫でた。豪快に。


「うわっ…!ちょっ!何するんですか…!」


「頑張ろう。生きて街に行こう。」


「…っ!はいっ!」


そういうと俺たちは咀嚼音など気にせず、ぐちゃぐちゃと汚い音を立てながら食べた。


怖い思いをした。死ぬ思いもした。日本に住んでいる時では味わうことの無い恐怖。


泣きたい。叫びたい。塞ぎ込みたい。帰りたい。様々な負の感情が襲ってくる。しかし、たとえ惨めな思いをしても、食事をする事で心と身体が少し満たされた。自然の恵みや生き物の血肉を口から取り込み、糧とする。明日も生きるため食事をする。そして同じ境遇の、この人、この子が居れば大丈夫という依存にも似た信頼をお互いに感じた。






「ごちそうさまでした。」


「ごちそうさまでした。」


食料を食べ終わり、一息ついた。


「…はあぁぁ、食った。もう入らん。」


「…私、こんなに食べたのは初めてかもしれません。」


「…俺も俺も。…なんか食ったらトイレ行きたくなってきた。」


「…えぇ、私もです。」


「…大きい方?」


「…デリカシーないですよ、小さい方です。」


「答えるのか。立ちションするしかないわなぁ…俺あっちでしてくるわ。」


「ちょっ、こんな森の中でするんですか!?」


「するしかないだろー?いつかは絶対出さなきゃならんもんだぞー。」


「そりゃそうですけど…」


「それに、いつ魔物が襲ってくるかわからんから、すぐに済ませた方がいい。恥ずかしがるのもいいけど状況が状況だから野生動物見習って森にたれ流そう。」


「…はぁ、それしかなさそうですね。私あっちでしてきますので、何かあったら叫びますね。」


「了解、こっちもそうする。アスラ達がいるから安心だとは思うけど気をつけてな。」


「はい、アルラ達はここで待っててね。」


使い魔を連れて行きたかったが流石に見られながらする度胸は無かった。


2人は別方向へと歩き出して行った。






「…ふぅ、スッキリした。今回は小便だったから良かったけど、今度からは1人ずつ交代でした方がいいよな。」


「…定期的に済ませておいた方が良さそうですね。いざとなってお腹痛くなるとか無しにしたいです。」


「だな。」




「さて、飯も食い出すもん出して次な訳だが、衣類があるって書いてあったな、見てみようか。」


「出してみますね。」




白雪さんはマジックバッグから衣類を取りだした。


中から出てきたのはフードの着いたローブが2つだった。


「へ〜、ローブなんて俺初めて見たかも。」


「上からはおるものだけですね、てっきりこっちの世界の服を貰えるんだと思ってましたけど。」


「俺としてはフード付きのローブ結構ありだな。」


「…?どうしてですか?」


「この世界の人間は思った以上に欲に忠実に生きてるのかもしれん。ゴブリンを見ても一目瞭然だった。真っ先に白雪さんを襲おうとした。」


「…そう、ですね。」


「白雪さんの顔ははっきり言って可愛すぎる。男が寄ってくる可能性が高い。その顔を隠すものとして、フード付きのローブってのはかなりいいと思う。」


「…なるほど。」


「まあ、たしかに服があれば良かったな。その学生服もかなり危ない。俺もスーツだし、正直着替えたかった。」


「…無い物ねだりはいけませんね、ローブがあるだけ感謝しましょうか。」


「だな。」


「あとバッグの中にはコンパスだけ、ですね。」


「明日からはそのコンパスを使って森を出よう。目的地は確か…」


「アルガス王国って所ですよね。」


「そうそこ。で、次に魔法だけど… …そういえばアスラ達って腹減ってないのか?」


「あ、そうですね。アルラ達も食べる?」


そういいアスラ達に食料を上げようとすると、アスラ達は首を横に振った。


「…食べないっぽいな。こいつら腹は減らんのか?」


「…どうなんでしょう?魔物は食事しないのか、それかこの子達が必要としないのか。」






「…まあいいや。」


「…ですね。」


俺たちはもう使い魔に関することに対して思考することをやめた。




「んで、次にスキル、魔法を1つづつ確認していこう。」


「はい。」




「まず一心同体、これは言わずもがな。俺たちのスキルがお互い使用可能になる。そして魂で繋がったもの達のスキルも使えるようになる。この魂の繋がりってやつの境界線はわかんないけど、少なくとも使い魔となった魔物のスキルは使えるようになるっぽいな。」


「はい、第1に、私たちがお互いのスキルを使えるようになる。第2に魂の繋がりを持っているもの達のスキルも使用可能になる。そして第3のスキル欄はハテナ。これがまだ不明。」






「あぁ、次。召喚。」


「このスキルは使い魔となる魔物を召喚する、でしたよね。」


「そう、それで出てきたのがタコと蛇、アスラとアルラだな。」


「現在は使用不可の状態でしたけど、後になると使えるようになるのか、それにより大きく変わってきますよね。」


「だな、使用可能にするには何らかの条件があるのか、それとも時間が経てば使えるようになるのか。それはわからない。」


「ですね。」






「契約。他者と契約を行うことが出来るようになる。契約を破った時には代償、罰則があるってことだな。」


「契約というのはなんなんでしょうか。」


「契約って聞くと怖いからな。無闇矢鱈に使えないけど、例えば俺は白雪さんに嘘をつかない。その代わり白雪さんも俺には嘘をつかない。っていうようなを契約をしたとする。そうすると、俺と白雪さんはお互いに嘘をつけなくなるんじゃないか?いや、嘘自体はつけるとは思う。」


「…もし契約を破って私が双葉さんに嘘をついたら。」


「なんらかの代償、罰則を受けるってことだろうな。」


「…予想でしかないですけど、その線が濃厚そうですね。」






「鑑定眼。これは今日結構使ったから分かるな。」


「ですね。自分で能力を見ることができますけど、他者の能力を見ることが出来ない。鑑定眼は他者の能力をも見ることを可能とするスキル。」


「そのままだな。」






「翻訳。まだこっちの世界の人間に会ったことないけど、多分相手の喋っていることが俺達には日本語に聞こえるようになるってスキルのはず。そして相手には相手が喋っている言語に聞こえるようにする。」


「便利ですよね、これが地球にあったら1人で旅行行き放題ですね。」


「だなぁ、地球の旅行はもう出来ないけど、こっちの世界でいろんなとこ行けるし、落ち着いたら色々見て回るかぁ。」


「ですねぇ。」


「…ああでもあれか、街に行ったら俺たち別れるのか?」


「別れる、ですか?え、まさか双葉さん私と付き合ってると…」


「いや違うし、そうじゃなくて街に行ったら別々に行動、もうそこでお別れするのかってこと。」


「…あぁ、なるほど。…いえ、今のところはそのつもりは無いですね。双葉さんさえ良ければ街に行っても一緒に行動したいです。」


「よかったわ、俺はもうそのつもりだったから。まあ一心同体なんてスキルがあるくらいだしな。街に行ってもよろしくなってことで。」


「はい。こちらこそ。」






「魔素操作。これは魔素っていう元素を操って辺りの魔素濃度を高く、低くすることが出来るようになるらしい、どう操るのかはよく分からんけど。これが使えるようになると魔法の威力を高くすることも低くすることもできるらしい。」


「まだ魔法を使ったこともないですし、どれほどなのか分からないですけど便利そうなスキルですよね。」


「あぁ、ただ1つ気になることがあるんだよな。」


「…魔素の性質、ですよね。」


「そう、魔素っていうのは本来吸いすぎると死ぬらしいんだよな。で、この魔素操作を使って魔法の威力を高めるとする。そうすると辺りの魔素濃度は当然高くなる、はず。そうなると魔法を使う使わない以前に俺たちって死ぬんじゃないか?ってこと。」


「…可能性ありますよね。でもあの能力がなら。」


「あぁ、あの能力が俺たちの思っていることと同じなら、この魔素操作は破格の性能を誇っているってことになる。」






「再生。腕を切り落とされようと再生することが出来る。超回復って事でいいのか…?」


「凄いですよね、腕がなくなっても再生するなんて。…出来ればなくなって欲しくないですけど。腕。」


「…俺もだよ。」


「しかし腕を再生させるほど超回復させるなんて身体に負担はないんでしょうか?このスキルを使用したあとは体力が劇的に落ちそうな気もしますよね。」


「あるかもしれないな。…まぁ、身体の一部が切り落とされるようなことにならないよう祈るってことで……」


「…ですねぇ。」






「猛毒。…試しに今使ってみよう。危ないとは思うけどこのスキル抽象的すぎてよくわからん。」


「き、気をつけてくださいね。」


「おう。」


俺は猛毒と心の中で念じ、発動してみた。


すると俺の手の爪の部分からドロドロとした何かが垂れた。


そのドロドロとした何か、毒は地面に垂れると、じゅう…という音と共に、地面を溶かした。


「うっわ…」


「うっわ…」


俺たちは完全に引いていた。


「…おいそれとは使えん。」


「…強力な痛みを与えるってスキルの詳細に書いてありましたけど、痛い以前に死にますね、これ……」


「…だよな。」




「隠密。他者から見つかりにくくなるらしい。」


「どれくらい見つかりにくくなるんでしょう?このスキルがあれば安全に森で寝ることが出来そうですよね。」


「あぁ、それにこのスキルを使えば森を出る難易度も格段に下がるかもしれない。」


「ちょっと使ってみましょうか。」


「おっけ。」




2人は隠密を使用した。


「…あれ?白雪さん??」


「…ふ、双葉さん!?」


2人はお互いを見失ったかのように辺りを見渡した。


「い、1度隠密解除しよう。」


「は、はい!」




「…これ凄いんじゃない?」


「このスキル使えば安全に眠れますね!」


「…俺もそれは思う。だけどこれって魔素を使わないのかな?アトラさんが言うには魔法を使用する際には魔素を使うって言ってたけど。」


「…そういえば。私たちって結構ポンポンスキル使ってますけど、魔素なんて消費してましたっけ?」


「…わからん。ただ召喚使った時とか、さっきの猛毒のスキル使った時はなんかこう、辺りから空気が集まってきたような感じはしたな。」


「あ、私も感じました。何かがこう、集まってきたような…」


「あれが多分魔素を使った時の感覚なんだろうか…でも鑑定眼とか隠密を使った時は何も無かったよな?」


「はい、なかったです。」








「…もしかしたらスキルにも枠があるのかもしれないな。」


「枠、ですか?」


「魔素を用いて使用するスキル、魔素を必要としないスキル。とか。」


「では鑑定眼や隠密などのスキルは魔素を使わないと?」


「あぁ、鑑定眼とか隠密ってなんかこう、オンオフが出来るような感じがしなかった?」


「あ、しましたしました。電気をカチカチっとオンオフするような感覚が。」


「恐らく鑑定眼と隠密は望むのであればずっと付けていられるんじゃないかな。」


「…てことは基本的に隠密は使っていていいんですかね?」


「…でもお互いが分からなくなるんじゃ使ってもなぁ……」


「これも意識したらお互いだけは見えるようにできるかもしれませんよ?」


「…やってみよう。」


2人は隠密を改めて使用した。


「…ほんとだ。出来た。」


「…これで大丈夫なんでしょうか?」


「とりあえず隠密はずっと使っておこう。念の為に。」


「そうしましょうか。」






「擬態。姿を変えることができるらしい。」


「姿を変えるって言うと、顔の形や身体を変えることが出来るんでしょうか?」


「多分?1回やってみようか。」


「あ、お願いします。」


俺は擬態というスキルを使った。


身体がぐちゃぐちゃと変化しているような感覚に陥る。


「…なんか肉の塊になってるんですけど。え、死んでませんよね……??」


「…いや、生きてる。大丈夫かよ、これ。元に戻れるんだろうな……」


「あ、喋れるんですね……」


そうすること10数秒、形が纏まってきて、人の形を成した。


出来上がった姿…それは…………


「どう?白雪さん?どんな感じになっ…………」


「イギャァァアアアアアア!!!!!!!!!」


「ブハァッッ!!!!!!!!」


俺は白雪さんの断末魔のような叫びと共に殴られた。少女の力とは思えぬほどの威力の右ストレートを顔面にたたきつけられた。


俺は軽く吹っ飛び、意識も飛びかけた。


「え……な…なんで……?しら…ゆき……さん…?」


「はぁっ!はぁっ!え!?あ、ごめんなさい!双葉さん!!!っ!でも無理ぃ…!」


「え、えぇ………」


俺はそこでいつもより身長が低くなってることに気づいた。ゴツゴツとした手で殴られた頬を撫で、鋭利な爪の長さに驚き、森の木々から覗き込む、月のような光に照らされ、本来黄土色だった肌の色は緑色になっていた。


「ど、どうしてゴブリンに擬態してるんですか!!!」


俺はゴブリンに擬態していた。

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