第7話 彼と彼女と彼と彼女と 7-7

「で、ケンタはどうした」

「で、ケンタはどうした」

「今日はケンタにしない?」

「それ、高畑充希のCMだから」

「それな」

「アタシ、ビール追加でぇ~」

「あんた、飲み過ぎよ」

「で、一周してケンタはどうした?」

「ケンタ、さっきラインあったけど、いま旅行先で、おサイフケータイ失くしちゃって、連絡も帰宅もできないって連絡あったって」

「旅行先って、外国にでも?」

「いや、国内だよ」

「国内で帰って来れないって、北海道とか屋久島とかいってんじゃね?」

「いや、確か九十九里浜あたりをブラブラしてるはず」

「千葉県かいっ!」

「ま、おサイフケータイ失くしちゃえば、確かに帰れないかも」

「で、どうやってこの横浜まで帰ってくるつもり?」

「金とか誰かから借りればいいのに…」

「なんか歩くとかって… アイツらしいってか…」

「…」

「……」

「………」

「アタシ、もう水でいい~~」

「…………」

「でも、おサイフケータイ失くしたんなら、どうやってライン来たっての?」

「作者の都合だろ」

「あまり問い詰めんな」

「それな」

「そういや、ケンタって出版社に入ったんでしょ? 本人の希望してた業界なんでしょ?」

「まあな。紙の本は最近じゃ売れない、やっぱオンラインのほうが景気がよさそうだから、カクヨムにでも転職しようかなあ、ってぼやいてたよ」

「カクヨム? ヨムカクじゃないのか?」

「いや、カクミルだろ」

「ビールもういっちょう~」

「吐くならトイレに行けって~」

「でも、苦労しながらもなんだかんだ言って充実してそうだったよ。あいつは本を企画したり売ったり読んだりするのが性に合ってるんじゃないのかい」

「そうかもね」

「かもね」

「それな」

「焼き鳥もう十本!」

「で、我らがリーダーのムサシはどうした」

「ムサシはどうした」

「遅れてくるのがムサシだろ」

「それは巌流島」

「オレはタコ焼き」

「ムサシは、いまじゃどっかの高校で体育の先生やってるよ。今日は全国大会に向けての合宿で、どうしても抜けられないって」

「さすがだね。ラグビー部の全国大会か」

「いんにゃ、将棋部」

「へ?」

「へ?」

「体育の教師でも、部活の顧問は将棋だって」

「へへ?」

「へへ?」

「ほら、あいつ、ケンタと仲良かっただろ。そん時に将棋を覚えて、なんかフラれた後にはまっちゃったんだって。棋力は3級らしいけど」

「あ」

「あ」

「あ」

「それな」

「しっかし、四人が四人とも同窓会に来られないなんて、やっぱ寂しいな」

「そうだね」

「そうよね」

「なんのかんのいったって、インパクトのある連中だったしね」

「それな」

「それな」

「もう昆布茶でいいよ」

「あいつら、恋愛は、全員が全員とも全滅したしな」

「見事な玉砕だったさ」

「あっぱれだったさ」

「うちらの伝説さ」

「お笑いの殿堂だね」

「懐かしいよね」

「うん、懐かしいわね」

「もう戻れないものね」

「戻りたいなあ~」

「それなあ~」

 一瞬だけ、飲み屋の一角を静寂が襲った。それもすぐに破れて、またどんちゃん騒ぎと化した。ただ、一部の元3年4組の連中は、その後も酔った目をぼうっと天井に向けて、在りし日を静かに偲んでいたのだった。おしまい。


後日譚…ところで、スマホどーしたっ!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼と彼女と彼と彼女と サトウヒロシ @hiroshi_satow

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ